第七章の13

13

 

 竜夫のシビックは夙川ビルへ急発進した。

 どうして、おれはこれほど、危険を冒してまで麗子の恨みをはらそうとしているのだ。

 おれは麗子にやさしい言葉をかけてやれなかった。

 愛している。

 愛しているという、言葉がなにか、うわついているようで、いえなかった。

 セックスではじまった関係はほとんど性愛で、おわってしまった。

 麗子もお水の女なので、それいじょうのことをいうのをためらったのだろう。

 愛している。

 結婚しょう。いえばよかった。

 くやまれる。性的快楽だけでむすばれていたわけではなかった。

 それを、いまになって。いやというほど。おもいしらされているよ、麗子。

 だから、命をかけて麗子の恨みをはらす。

 レイプされた。性的暴虐をうけた。

 あげくに、薬漬けにされていた。

 おれはバカだ。大馬鹿だ。

 死んでしまった麗子のために、だから死を賭して戦う。

「そんなのズルイ。麗子ママのカタキはわたしも討ちたい」

「死ぬかもしれない。危険過ぎるミッションだ」

「危険な男をスキになったときから覚悟はできてる」

「ヤバスギだ」

「みんなは呼んだ」

「こころはひとつだ。同じことかんがえていると思う。おれたちはみんな同じ道場で鍛錬した仲間だから、よく知っている。夙川組も必死だ。麻薬ガラミの戦いだからな。膨大な利益がからんでいる。それにアレだけアレバ山川組を一本化することだつてできる」

 ふたりの会話に耳を傾けていた野田に、竜夫が声をかけた。

「野田のSが麻取りガールとはね」

 竜夫も驚いていた。モチは餅屋というが、麻取りが竜夫たちマスコミが知らないところで探索していた。

 まさか地元に大麻畑があったとは――。麻薬の精製工場まで存在していた。知らないほど怖いことはない。

「ぼくだって驚いているよ」

「Sにしたつもりが、反対にSにされていたようなものだ」

「いや、それはちがう。アンダーカバァ―がバレそうだったので、恋人がいたほうが疑いの目をそらすことができると……」

「しかし潜入捜査とは、DLIFEのテレビドラマNCIS:LA極秘潜入捜査班みたいでイカスよ」

「おれも竜夫も、彼女のほうが強かったりして。麻取りだけは日本でも潜入捜査が認められている。それにケイコはT大の薬学部出のエリートだ」

「あら、わたしは竜夫のいいなりよ」

 さきほどの、メグと竜夫の会話をきいていた野田がニャっと笑う。あきらかにメグが指導権をにぎっている。

「拳銃も二丁携帯許可だ。それだけ危険な仕事なのだ。はじめはさ、おたがいにいそがしくて、電話デートだった、はじめてゴルフ場――彼女の職場まで会いにいって、ほら林の中で黒服に襲われたじゃないか。あのときは、彼女は渡瀬大臣を調べていると思ったんだ」

「おれだってそうだ。麗子の恨みをはらそうと夙川組をターゲットにしているうちに、こんな大きなヤマにぶちあたった」

「これから夙川ビルにもぐりこむ」

「方法は――」

「おれは、これで二度目だ。いや三度目かな」


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