第七章の6
6
召集をかけておいたスケットが続々と到着する。
「きょうの敵も夙川組ですか」
――そう、昨日の敵対組織。
「銃をつかえるひとには、準備してあるわよ」
「えっ。銃が撃てるんですか」
「銃が撃てる――。すごい」
「感激。カンゲキだぁ」
緊張し過ぎも危険だが、ことの重大性を認識しいないのも困りものだ。
「三Dプリンターで制作した本物そっくりのコピー銃で『エクササイズ・バトルキャンプ』に参加しているから銃のあつかいには馴れてますよ」
心強い返事。みんなが、うなづいている。
「みだりに発砲しないで」
「WOO、リアルだ。重さがちがう」
「アイツラ交戦中だから、すこし静観してからにして」
みんな、故郷宇都宮を西の広域暴力組織から守ろうとする若者だ。自分の街は自分たちで守る、自警団、セルフ・ガーディアンだ。
レデイス&BOYS。事件は起こしていないが、世間からは半グレとみなされているものもいる。そして、中藤道場の道友会のめんめん。
いずれも、正義に燃えている。きのうのきょうの召集だ。集まって来たメンバーはきょうのほうがはるかに多い。
それにいまは、午後になったばかりだ。明るい。お互いに顔見知りが多い。
「皆、ホワイトヘルメットかぶってね。ヘルメットが足りないからバンダナまいて」
「ハイ―。メグちゃん質問です。なんで、白ヘルなの」
「味方を攻撃しないためよ。白兵戦では、敵味方がいりまじるから。夙川組だけでなくゴルフ場のガードマンも敵にまわるかもしれない。いや、まちがいなく、ここは敵地、両方とも敵なのよ」
「そうかも、知れないよ」
メコンが勇ましい声でいう。メコンはヤルキ十分の気概を声にのせる。麗子ママのカタキ。トルネ。トルカラネ。
彼らが武装している間にも、ゴルフ場の緑の制服のガードマンが彼方の斜面を村落のほうへ駆け下りていく。
「竜夫、だいじょうぶかよ」
ようやく到着した野田。カメラで走るガードマンを何枚か撮っている。
「アレは?」
ようやく、カメラを村落にむけて、野田がメグを振りかえって訊く。
「麻畑だって竜夫が携帯で知らせてよこした」
「大麻がこんなところで密かに栽培されていたとは――」
サスガに野田はジャーナリストだ。毎朝新聞の記者だ。麻畑の存在理由を見破った。
戦前から昭和の中頃までこのあたりの鹿沼地区は日本一の大麻の産地だった。鹿沼麻というくらいだ。むろん、茎の皮を剥ぎ、繊維をとるために栽培していたのだ。戦時中は馬具やロープの需要があり生産が追いつかないほどだった。宇都宮中央公園にある『栃木民芸館』を見学したときの記憶を野田は脳裏にうかべる。
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