第七章の7

7


 野田はシャッターをたて続けに切った。

 またまた大スクープだ。

 野田は腕に記者章をつけている。

「武器は……」

「メグちゃん。ぼくは記者だ。戦えない。取材優先だ」

「わかってる。竜夫のことはわたしが守る」

「武器をもっていても、こちらから攻撃はしない方がいいと思う」

「竜夫もそういっていた。後手必勝。二組の団体が戦うのを観察し静観してからよ――」

「今回は夙川組の攻撃目標がハッキリしている」

「竜ちゃんは、このチャンスに麗子さんの敵を打つ気よ」

「リベンジか」

「そうよ」

「ぼくも、両親の敵にあったら、ヤルゾ。カメラは捨てる」

「ソノ意気よ!」

「大麻ガラミだな」

「えっ?」

「夙川組のターゲットは人間じゃない。見ろよ。この広大な大麻畑。この麻の葉がたばこになったら何十億という金額になる。ここにマリファナと麻薬の製造工場がある」

 野田はさらに、最近読んだ『田舎暮らし』というブログに鹿沼麻のことが書いてあったのを思い出した。スマホで呼びたしてみた。


「田舎暮らし」

 大麻卸商。麻畑の思い出。

●高樹沙耶が大麻所持で逮捕された。毎日テレビで話題になっている。大麻で逮捕されたタレントは、その位相が激変――いちど逮捕されると芸能界からは永久追放の憂き目にあうような厳格なバッシングが毅然として存在しているようだ。そうでもしないと、大麻吸引に傾くものが大量発生する危惧があり、それを警戒するあまり、かくも厳しい自己規制にも似たバッシングをくりかえすのではないかとカングッテしまう。


●「相棒」での小料理屋「花の里」の女将。セマッテくるような色気ではなく清純なそこはかとない魅力があって、たのしく観ていたのに「相棒」の彼女の出演したシーンがあるものはお蔵入りになるなどと報道している。そこまでする必要があるのだろうか。


●がらり話題がかわるがわが家は先祖代々「大麻卸商」だった。わたしのペンネーム麻屋与志夫はそれに因んだものだ。アサヤヨシタとしようと思ったのだが、与志夫とした。

昭和22年ころだった。麻屋組合長をしていた父が突然県に呼びだされた。日光街道両側では麻を栽培することは禁止する。とのGHQからのお達しだった。その時初めて、麻の葉を乾燥させて吸うと夢見心地になるということをわたしたちは知った。


●45万貫(?)の生産量。わたしの住む鹿沼は日本一の大麻の生産地だった。もちろんそのクキの皮をはいで繊維をとりロープや芯縄をつくった。麻の葉は,葉打ちといってきれいに麻切り包丁で切りおとして、廃棄していた。麻の葉が山のように積まれていた光景をいまでもわたしは覚えている。現在あれだけの量の麻の葉があって、マリファナの製造業者の手にわたったらどうなるのだろうか。


●鹿沼麻(野州麻ともいった)の盛衰史をいまわたしは書きだした。

ヒッピー華やかなりし頃には麻の葉泥棒が、鹿沼にきて大騒ぎになった。農家の人は、自警団を組織してその盗難予防につとめた。そうした、麻の葉をマリファナ―として吸うといった風俗の広がりが、鹿沼麻の衰退の要因になったこと否めないだろう。


●だから高樹沙耶逮捕の報道をわたしほど複雑な思いで見たものはいないのではないだろうか。マリファナーについてはよく知られている。大麻――その畑、繊維を取るための栽培、精麻となってからの取引のようす、その流通過程どれをとっても世間的には未知の分野だ。書き遺しておく必要がありそうだ。


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