第七章の10
10
救急車の後部扉が外から閉められた。野田はうめいている。それでも記者魂はくじけていない。竜夫とメグが同乗することを許された。
「記事は、写真は」
「送っておいた。またすごいスクープだ」
「ケイコは」
「麻取りのメ土竜だッて……知らなかったのか」
「ケイコは……」
「取り締まり中だ。おお取りものだろうよ」
野田の太股の出血はまだ止まらない。当てがった布が血で真っ赤だ。
竜夫の言葉をきくと、安心したのか野田の声はとだえた。車内の清潔すぎる白で、眼がチカチカする。
「野田さんのことは、まかせて。夙川組を追いかけなさいよ」
メグが竜夫を励ます。
なにか落ち着かない。
でも、かすかな、疑問が竜夫の脳裏にうかんだ。
どうしてなのだ。野田が撃たれた――。
都賀病院。集中治療室前の廊下。メグと竜夫は治療室には入れない。病院のこの場所は意外と医師や看護師たちが少ない。
静かだ。野田もたいした負傷ではなかった。ふたりは廊下の壁ぎわでくつろいだ気分で野田が出てくるのを待っていた。
「どうしてなんだ。どうして野田が狙われる」
さきほど、救急車のなかで芽生えた疑問をメグにぶっつけてみた。
「なにか、あることは――確かね。わたしたち、あまりあわただしかったので、渦のまわりばかりみていたのよ」
「確かに。麗子のことはタコ焼きガラミのいやがらせ、それに吸血鬼による被害。それでわかる。でも、野田の場合は――」
「兵庫県警を退職になったお父さんに関係があるのよ」
「そうか、それを見落としていた。やはりソレだな」
「狙いは、野田さんじゃなくて、お父さんのほうだった。それに野田さんが巻きこまれた――」
メグの発想に竜夫はおどろいた。
そうか。
そうなのだ。
そうなのかもしれない。
いや。
そうだ。
サッと足元に冷気が走る。廊下いっぱいになにか異様な冷気が流れた。竜夫はとっさに、周囲に注意をくばる。黒い影が天井をかすめた。コウモリだ。クルルルと羽音をたてて飛び交っている。どうしてこの新築したばかりの病院の廊下にコウモリがいるのだ。
換気のいきとどいた病院なのに、つんと鼻をつく異臭が天井からふってきた。
排泄物が尻にこびりついているのだ。
血なまぐさい臭いもする。
嗅ぎ馴れたQの口臭だ。
みるまにコウモリは群舞する。
こんなおおくのコウモリがどこに隠れていたのだ。
Qの動きに誘われて集ってきたのだ。
廊下がコウモリに支配された。
コウモリは群れをなして飛び交っている。
すさまじい異臭と羽ばたきの騒音。
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