第五章の4

4


「あっ、許して。やめて。やめて。わたしいやです」

 喪中なのに、他の男に抱かれるなんて――。

那須トミコは激しく抵抗した。

「やめて……年男さん。わたしまだ主人の初七日もすませてないのよ」

 トミコは渡瀬大臣の秘書山田年尾を仏間に通した。

「ご焼香をしたい」と訊ねて来た。那須高校で同級生だった。葬儀に贈られた松本哲男の日本画を買いだがっている画商がいるからと連絡があった。だが、年男はひとりできた。。

風呂上がりだった。なにもかんがえずに、無防備過ぎた。山田にふいに、押し倒された。夫の死後まだ一週間もたっていない。

後妻だった。歳の差婚。セックスはすでに半年も、ごぶさたしていた。止めてェー、と訴えたが、すでに年尾の淫らな指は熱泥にハマりこんでいた。二本の指はたくみに膣の柔肉をコスル。すごくあらあらしく、それでいてやさしく。巧みだ。

息をのむほど豊満なトミコの裸体は「ホラホラホラ。ヨガレヨガレ。指を三本にしてやるからな。ズボットはいるじゃない。ヌラヌラダぁ」

ことばでも犯されている。いやがるトミコ。

「ダンナの位牌のまえでオマンコするなんて、興奮するよな。ホラ、ダンナが見てるよ」

「イャア。イジメナイデェ」

「じゃ、こうすればいいのか。こうすれば」

 両足をかかえあげられた。大きくマタをひろげられた。

「まっくろだぁ。スケベオマンコだ。そそられるな。おれって、オケケが真っ黒なの、そそけ立っているの、すきなんだよね」

 山田は興奮していた。下卑た言葉を吐きだしていた。

 ズボットつっこまれた。はげしく、出し入れされてトミコは悲鳴をあげた。

「あっ、あんたぁ」

「あんた、じゃないの。おれだよ、おれだ」

「やめてぇ。山田君」

 高校の時から、やりたかった。

 ソフトボール部のエース。トミコは輝いていた。

 剣道部のおれのことなんか、振りかえってもくれなかった。

「オウジョウぎわが、わるいな。だんだんよくなるって」

 初めは乱暴でも、こうでもしないと――。

 ――トミコをものにすることは、できない。

たしかに、生温かい、ネバツク液がふきだしてきた。さんざん指で犯されているときは、まだこらえていた。山田の肉筒が挿入された。その熱い感触を膣肉が敏感にとらえた。それは激しく動いている。突きいれられるたびに子宮にたっする。長い。

「父ちゃんより太いだろう」

 たしかに、山田のものは痩せた体型からは想像できないほど魁偉だ。極太で長い。

「ほらほら、ヌラヌラしてきた。亭主より、いいだろう」

「あっ、だめぇ。ダメ。ダメェ……」

 さからう声がひくくなっていく。

あなたぁ、ゆるして、わたし、犯されてる、犯されてる――。

 そこまでだった。トミコのなかで、何かがはじけた。手のひらを返すように、ふいに快感かめざめた。ジュワっとさらに粘液がふきだした。ズブトイ男根を突き入れられて、痛みのような感覚があったのに、粘液がねばねばとふきだしたことで快感がめばえたのだ。

いちどよがりだしたらもうとまらない。新婚のころは毎晩あじわってきた。それがこのところ夫は病に倒れた。ごぶさただった。たまりにたまった、わかい未亡人の性欲がいっきにせりあがって来た。

「ほら、だんだんよくなる法華のタイコ、ってな」

「アッアッもうだめ……」

「どうだめなんだ、トミコさん」

「あつ、いい。イイキモチ。キモチいいよ」

「もっとよがらせてやる」

 ズットこのときを夢想してきた。トミコを犯すことを高校生のころから、夢みていた。

「ああいい。いいい。いい気もち」

物音がした。

「玄関のカギは」

「閉めてないわ」

物音は玄関のほうだ。この時間にひとがたずねてくるわけがない。

「トミコ。隣りの部屋へいけ」

 いままで、トミコを責めたてていた男の声とは思えなかった。ひややかな声だ。トミコは衣服を手にとったままで、隣室に移動した。

「おじゃましたかな」

 部屋に乱入してきた男の声だ。

 アクセントがおかしい。関西の男がむりに標準語で話している。トミコはパンテイをはいた。

「夙川組のものか。夙川社長に命令されたな」

「まあ、そんなとこやな」

 こんどははっきりと関西弁だ。

 トミコは隣りの部屋で,ジャジイのパンツをはいた。

「なにが、狙いだ」

「あんさんタマ」

「どうして?」

 トミコは同じくジャジィのジャンバーを着た。

「それをきくならオヤジにきけ。アノ世でな」

「バカな。西ともめてるなんて、聞いていない」

「あなたのオヤジ渡瀬大臣は、ジャマなのさ。それ以上はいわない。な、わかるだろう」

「いや、わかんないな」

「往生ぎわがわるいんだよ。つれていけ」

 トミコはさらにキッチンに退いた。隣室の山田と侵入者のやりとりをきいているのは危険だ。キッチンの隅には勝手口がある。そっと外にでた。

 警察に電話をいれた。植え込みにかくれた。

「女はどうした」

 襲ってきた者たちがさわいでいる。三人組だ。山田がふたりに両側から拘束されて車のほうに強引につれていかれる。

 女がいない。という声に反応したのは山田だった。いままで、トミコを逃がすために、わざと逆らわずにいたのだ。時間稼ぎをしていたのだ。

「政治家の秘書なんてかっこいいが、おれの役目はボディガードだ」

駅のコンコースで竜夫にいっていた山田だ。乱闘に成ったが、三人を相手に互角の戦いをしている。わたしを逃がすために、山田くんはわざとつかまったのだ。まるで、高校の空手部のランドリみたい。剣道部なのに、山田は空手部にも属していた。いつ敵と闘うことになるかわからない。いつも体は鍛えて置く。あれは、ほんとうだった。後ろ回し蹴りでひとり倒した。

 のっぽの男がベルトから拳銃をとりだした。山田くんがあぶない。トミコはじぶんはソフトボールでピッチャーをしていたのを体が覚えていた。石をにぎっていた。投げた。それた。二投目。拳銃をとりだしたノッポのうでにストライク。ピンポイントで投げられる技が右腕に記憶されていた。おどろきだった。すかさず、山田がノッポの股間をけりあげた。警察車両の赤色ランプが見えてきた。

「トミコ」

 山田が車のドアを開けて呼んでいる。

「運転してくれ」

 山田は助手席に移動した。死可沼のゴルフ場に先生と滞在している第一秘書の高橋に携帯をいれた。切迫した声で話しだす。

「センセイを、関西の夙川組が狙っている。兵庫県警の元野田刑事殺しの犯人と同じらしい。ヒットマンを潜入させていたのだ。今度の標的はセンセイだ」

「どこで、仕込んだネタだ。情報だ」

「信じてもらいたい。襲撃というほどおおげさなことではないかもしれないが、先生が狙われているという確信がある。おれがヤツラにおそわれる理由はおもいあたらない。狙いは先生だ」

 確証もなく、アヤフヤな話をウヤムヤニきいていた高橋だった。だが――高橋の声も山田の話しをきいているうたに、緊張してきた。山田からの警告をきいて、声がつまりかすれてくる。喉にからまるような声になった。高橋がマックス興奮している証拠だ。

「すぐもどる」

 話し終わってから、山田も深い吐息をもらした。おれがおそわれる心当りはないのだ。先生をおそうまえに、おれの戦力を削いで置こうというヤツラの狙いだ。おれが最終ターゲットであるはずがない。

「死可沼へやってくれ」

「どうして、山田くんがおそわれるの」

「名前で呼べよ」

「どうして年男が――襲われたの。あれって、わたしのところ、那須不動産が狙いじゃないよね」

 山田はトミコを見た。ずっと二人で生活を共にしてきたような感覚だ。肉体的に結ばれた絆とは……こういうことなのだろう。お互いに、ためらうことも遠慮することもない。夫婦のような安息感がある。

「どうして、そう思う」

「脅かされていたから、うちの所有している土地を一括購入したいって関西の不動産屋が言って来ていた」

「初めて聞く話だ」

「ウチノ人が死ぬ間際に、土地の値段がどんどん下落しているのは関西の業者が影で糸を引いているからだって言っていた」

 

トミコは話しつづけた。話していないと、恥ずかしかった。ムリに犯された状態なのに、こうして車を運転している。山田はなんぼんか電話を入れている。あれほどの、戦いをしたあとなのに――。

那須の地価がこのところ下落気味だった。首都圏になるというので、あれほどの高値を呼んでいたのに、業者ですら信じられない。下落の理由もいまのところわからない。地上げ、土地ころがしで儲け抜いていた不動産業者のなかには、過剰投資で資金繰りが苦しくなり、自殺する者も出ている。トミコの亡夫もそううわさされているだろう。保有している土地が売ろうとしても、時価では売れないのだ。ムリに売ろうとすれば、買い叩かれてしまう。


「若ですか」

 つい、むかしの呼び方が出てしまう。住みこみの道場生だった。道場の二男、竜夫さんをみんなそうよんでいた。

「若ですか」

「那須さんの葬儀で見かけた」

「見られてましたか」

「絵を受け付けに渡していたよね」

「そこまで、見られていたんだ」

「そうだよ。やってることは、わかってるシ」

「ワカはいまどこですか」

「支局」

「なら、そこへ、5分でつきます。いいですか」

「いいよ」

「野田さんが殺されたって聞いたのですが」

「そうだよ。ぼくらも狙われている。支局に野田君もいるよ」

「ほんとうなのだ」

「犯人は」

 返事をきかなかった。すぐに会える。直に聞いたほうが確かだ。

「トミコ。運転変わるから」

車のスピードが緩む。路肩に寄る。そのとき、背後から車が――。


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