第三章の5


 電話は蓮見病院からだ。麗子が激しい発作を起こしたとしうのだ。少し離れたこの界隈の店の駐車場に止めて在るシビックまで戻る時間が惜しい。竜夫は店前に止めたあったメグのバイクにとびのった。メグはメコンのGSX-R1100Hに同乗する。なにごとかとみんなが後を追ってくる。

 救急患者搬入口からとびこんだ。

麗子の呻き声が耳もとでひびいているようだ。

 リノリウムの長い廊下を竜夫は息を切らして走り続けた。廊下の果てを右折すると隔離病棟だ。麗子の悲痛な叫びが聞こえたように感じる。いや耳もとでひびいている。ひびいている。

等間隔をおいて病室のドアがつづいている。扉はひややかなメタリックな光沢を放っている。入室を拒んでいるようだ。

そして病室の中に患者を閉じこめている。ここは「ワケありの患者」専用の病棟だ。ナースセンターから看護師が追いかけてきた。

「麗子に会いたい」

「面会者ノートの記述してください」

 そんな悠長なことはしていられない。麗子が苦しんでいる。泣いている。竜夫を呼んでいる。救いを求め、絶叫している。

 竜夫は走り続ける。

奥まった扉からくぐもった呻き声が漏れてきた。

竜夫は息も乱れていた。

動悸も高鳴り、心臓が喉元にせりあがってくる。

「こまります。規則ですから。名前をかいてください」

 狭窄衣を着せられ、ベッドに麗子は固定されていた。

なんてことをするのだ、知り合いの病院だからとわざわざここまでつれてきて入院させたのに。竜夫は怒り心頭にはっした。

看護師も病室にはいない。ドタドタト追いかけてくる。

「名前をかいてください」

 まだいっている。

目の前で苦しむ患者の病状は無視している。

広告をとりにきて、いつも笑顔の院長とだけしか話したことがなかった。

おれはこの病院の経営実態をみていなかったのだ、と自分を恥じた。

「血がほしい。血がのみたい」

 麗子の犬歯がニョキッとのびてくる。

竜夫に執拗に名前の記入を求めていた看護師が――。

轟音をあげてドダッと床に倒れこむ。

麗子の変容をみて気を失ったのだ。

「どうしょう」

 メグが病室に入ってくる。

「吸血鬼マスターがよみがえった。かなりの傷を負わせたから、当分は活動できないだろう。そう思ったのが甘かった。あいつを倒さない限り、噛まれた者は、苦しみながら血をほしがる」

「血を飲まないとどうなるの」

「血の補給ができなければ、死ぬしかない」

「そんな……竜ちゃん、なんとかならないの」

 麗子の顔は禁断症状のジャンキーのようにゆがんでいる。

ヨダレをたらしている。狭窄衣のなかで体がふるえている。

「竜ちゃん、麗子ママを助けてあげて」

 メグが取り乱して叫びだした。

「助けてあげて!」

「麗子。おれの血を飲むんだ」


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