第六章の3
3
「ともかく、西と東の○暴がクラッシュしている宇都宮だ。『鬱(うつ)の宮』とサツカンの
ダンナガタが嘆いている。毎日の事件と真摯につきあっていたら……うつ病になっちまうとなげいているほど、暴力事件が頻発している」
「うそぅ」
「ほんとだ。ともかく――山川組の先代総長安井芳男がここ宇都宮の出身だ。日光県の出世頭だ。だから、兵庫県警に野田のオヤジさんが転勤になった。西の○暴が侵攻する下地がここにはある。安井はむかし東武デパートの裏の松が峰でバンをハッテいたグレンタイ上がりだった。だから――組員のなかにはここに土地カンのあるものが大勢いる」
「竜ちゃん、アカルイノネ」
「ひやかすなよ。これでもブンヤだからな。広告取りの営業しているだけではない。なんてカッコツケチャッテ」
シビックはとあるビルの地下駐車場についた。
「最上階の八階だけがセーフハウス。階下はごく当たり前のマンションになっている。いちばん上の階のことは誰もしらない」
ドアを開ける。蛍光灯がジーと音をたてていた。その音が夜間の駐車場の静けさをひきたてている。
助手席にいたメグが先に降りた。ふいに車の影から痩せた小柄な人影が迫って来た。
「メグ。車にもどれ」
竜夫が叫んだ。
メグが悲鳴を上げた。
竜夫はすばやく車からとびだした。
メグが後ろから黒服にハガイジメにされた。
もうひとりのデブの黒服が地下への出入り口にから近寄ってくる。
ふいにわきでたかんじだ。おれたちが、ここに避難してくることを予知していた。いままで、どこかにひそんでいたのだ。
退路は断たれた。
デブとヤセチビの黒服だ。ふたりとも黒い眼鏡をかけている。
「本田の兄貴のウラミをはらす」
ヤセチビがメグを抱えこんだ。
メグの肩のあたりに頭がある。
メグに後ろからブラさがっているように見える。
メグの喉元にナイフがあてらた。
白いメグの首筋に光るナイフ。
異様な静けさが辺りを支配していた。
ナイフが竜夫の動きを止めている。
「ナイフより噛みついたら」
フエントをかける。コイツラまちがいなくQだ。
メカガネのしたは赤くひかる目だ。
ナイフを――。
喉元で引かれたら――。
喉を切られたらお終いだ。
どう動く。竜夫。
メグが開いた。
口を。
銜えた。
ナイフを。
ガシットと白い歯で銜えた。
その勇気。死をもいとわぬいさぎよさに竜夫は感動した。
竜夫は右腕を真っ直ぐに突きだした。
剣先がチビの黒服の肩に突き立った。
ナイフから手を離す。
メグは咥えてたナイフを逆手にかまえた。
肩から胸に掛けて、袈裟がけに切り下げる。
「胸を一突きされないだけでも、感謝しな!」
どこに隠しもっていたのか竜夫の右手にきらめく剣。
返す刀でデブの顔を薙いだ。
メガネがはじかれた。
飛び散ったメガネの下の眼は、やはり赤光をはなっていた。
「竜ちゃん、ヤバイことになってきたね」
「先々と、おれたちの行動をよまれている。トラップに向かって追いたてられるウサギみたいだ」
「ウサギじゃないし。牙があるもの」
メグはナイフをグローブボックスに納める。
ひどい疲れが瞼にあらわれた。重くなった。
それはたちまち眠気となって竜夫をにも訪れた。
ふたりはもつれあうようにして八階の部屋までたどりついた。
疲れが一気におそってきた。
長かった一日が終わった。
新婚初夜はセイフハウスのベット。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます