第六章の2

2


「なによ。後ろからもういちど……なの」

 闇に閉ざされた空間から、湿った風が吹きこんできた。

 砕かれた窓から吹きこむ夜風を避けて隣室に毛布を敷いてごろ寝したたま。

 メグがいつものブラックジョークをとばす。初めて愛しあっているのにそんなエゲツナイ体位をとるわけがない。

 銃撃にあっても、ぜんぜんメゲテない。

 あんなの、警告だ。

 いつだって、オマエノのたまはとれるぞ。

 たま取られたら困るけど。勃起不全でメグとやれなくなる。

 バァカ。

 固定電話がなった。

「中藤だな」

 高瀬だ。ドブ泥の臭気を感じさせる声だ。

「傷は痛むだろう」 

「かすり傷だ。このまま敵対すれば、必ず殺す。これは死刑宣告だ。手をひけ。言うことを聞かなければ、どうなるかわかるな」

「最初から戦争だとおれは認識していた。なにを脅かされても、おどろかない」

「バカか。だれを敵にしているのかわかっているのか」

 掛って来た時と同じように唐突に切られてしまった。

 すごい調査能力だ。オレの部屋から、電話番号までしられている。

 危険な敵だ。

 スナイパーなの。

 ああ、山川組のヒットマンだ。いまは、夙川組にいる。

 手強いよ。竜ちゃん、気をつけてね。

「ここは危険すぎる。他に移動しよう」

 さすがの竜夫も薄気味悪くなった。分裂したとはいっても、元々は神戸の日本一の広域指定暴力団山川組だ。先代の総長が宇都宮の出身だった関係で、三派に分裂した一つが関東山川組として初めはは移転してきた。――いまは夙川組を名のっている。関西から出店している全国制覇をめざすタコ焼屋のケツ持ちをしている。組織は元の母体山川組の夙川組た。

竜夫が麗子の店「マロニエ」でヤツラにはじめて接触したときは、そのていどのことだった。そのていどの、認識しかなかった。タコ焼屋からメカジキ料をとり、餃子屋に脅しをかけている。軽く見過ぎた。接触したくらいのことでは、とどまらなかった。麗子の死。野田の両親がおそわれ、渡瀬大臣が襲撃された。いまや竜夫にまで銃口を向けて来た。

「わたしの部屋にいかない」

「いや危険だろう。メグの住所もしられているかもしれない」

 パソコンをバックパックに詰めた。

「セイフハウスがある。取材の途中で暴力団におそわれたり、命にかかわるような危険なときに逃げ込む場所がある」

「そこなら、安全なの?」


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