第一章の3
3
黄昏の街に、女がでてきた。泉町。歓楽街への入り口。釜川に架かった橋をわたった。雑居ビル。記憶にある一階の角店『ニューヨーク』は、デートクラブ『姫』と小さな袖看板がでていた。竜夫が毎朝新聞の宇都宮支局に就職した年には、ピンサロだった。
その「ニューヨーク」のホステス。麗子にどうしても会いたかった。竜夫の初めての女だった。
あまり足しげく通い詰めるので、編集長の中洗が心配した。竜夫が関西にとばされた原因ともなった麗子と会いたい。大学をでるまで、父の古武道「中藤流」道場のある前日光高原は古峰が原にこもっての剣の修行で女と交わるチャンスなどなかった。幼少から苛酷な修行をつづけた。普通の生活とは程遠い苛烈な剣の道を極めるための日々を過ごした。
初めての女。麗子がなつかしい。まだミレンがある。麗子に会いたがっていることがデスクにバレたら、どうしよう。
麗子はこの宇都宮のネオン街ではたらいているはずだ。
竜夫の目の前でプリンプリンと女のヒップが揺れている。『姫』からでてきた女だ。
「メーグちゃん」
女がふりかえった。思ったとおり。いや、期待したより超美乳だ。さらに、豊満な体に、アンバランスな、清純な美少女のあどけない顔。つぶらな瞳が憂いをおびている。それでいて、唇はきつくむすばれ、気性のはげしさをみせている。ふっくらしているが、太めではない。あどけない顔は、瞬時に精悍な顔に変わりそうだ。性格はかなりきついのかもしれない。
「あの、どうかしましたぁー」
ニューヨークはいまは『姫』になったの。デートクラブですよ。わたしメグ。わたしでどうかしら。と応答してくれた――電話で聞いたばかりの甘ったるい声だ。
メチャマブがあどけなく、首をかしげる。
「いや、あの、あまりきれいなので」
「中藤さんだって、すごいハンサム。それにヤング。わたしと同じくらい、かなー」
「ぼくらだったら、ラブラブのカップルに見えるな」
「そうよ、電話してくるひと、オジンがおおいのよ」
「女の子だって、ぼくからみればオバンがいるシ」
「それで、警戒して後からついてきたの……?」
「タイプでなかったら、知らん顔して声かけないですむから……」
「メグは合格かしら」
「それで、その麗子さん、探しているの。処女でもいただいたの?」
「まさかニューヨークのホステスだ」
竜夫は照れていた。
「あら、じゃ、メグのセンパイね。わすれられないほど、いい女だったの。こっちも、上手だったりして」
男根をスラックスの上からグイとまさぐった。
麗子とは客とホステス。といった、ありきたりの交情ではなかった。麗子は竜夫にとっては恋人だった。いまになってみると、大阪からなんの連絡もしなかったことが悔やまれる。冷たい男と思われるだろう。
食事は駅東口のロンドン・ホテルのレストランでしたのに、部屋に誘わない竜夫にメグはいらついていた。ぼくが、連絡をとれば、麗子のこころを乱す。愛の告白はしていない。麗子とはデートもいちど、市の美術館にいったきりだ。
もっとデートをして「愛している」いって置くべきだった。反省することばかりだ。会いたい。麗子どこにいる。なにをしている。ぼくを覚えていているだろうか。大勢いる客のひとにぼくはすぎなかつたとしたらさびしい。さびしすぎる。麗子はやく会いたい。
「おれのほうが、はじめてだったのだ」
「なあんだ、筆下ろしさせてもらったの」
「古い言葉、知ってるじゃん」
「それでなつかしい。あいたくてしょうがないのね」
「どこか……この宇都宮で働いているとおもう。関西支局にいた間に、お店がなくなっていた」
「いいわよ、きいといてあげる。そのかわり、メグとお店とおさずにデートして。スポーツ、で鍛えているの。すごくたくましいわ。わたしも、これ、ほしいよ」
竜夫の胸や腕の筋肉を触って楽しんでいる。そして手はさらに下におりてきた。
メグは未練たらたらだ。
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