第七章マリファナ争奪戦の1
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鹿沼署に「渡瀬大臣襲撃事件捜査本部」が設けられた。
大臣が襲撃された。とSPの須田から緊急連絡があった。
駆けつけるまでのタイムラグに修羅場は終わっていた。
戦闘のあとには、SP高橋と川久保が銃創を浴びて倒れていた。高橋は額を打ち抜かれて即死。川久保は腹部に被弾していた。とりあえず、最寄りの都賀病院に入院している。
「襲ってきたといわれる黒服は証拠を残さずキレイに回収して、撤退している。プロの集団です。夙川組のキリコミタイとみられます」
第一回の捜査会議で県警の大野警部補は発言した。
野田センパイ殺害犯も同一グループの犯行だとおれは睨んでいる。
それを公に発言出来ないのが辛い。なにか、とてつもない大きなヤマに発展しそうだ。
「大野班長、これはどうゆうことなのでしょうか」
刑事部屋に戻ると相棒の葉山巡査長が新聞を広げていた。大野がのぞきこむと毎朝新聞には鹿沼の富士カントリークラブゲストハウスの襲撃事件が写真入りで載っていた。
「大スクープだよ、これは」
ほかの新聞には、事件があったという記事すら載っていない。毎朝新聞には、黒服の殺到するゲストハウスのフロントが映っていた。そのモップシーンはテロを思わせた。これだけの黒服をSPだけで敵対排除できたのはおかしい。
――竜夫が動いたな。
「これは夙川組の黒服じゃないかな。関東を狙っての、宇都宮進出計画なのだろう。もつとも里帰りということか――」
「なですか、班長、それって」
「山川組の先代の総長は、ここの出なんだ」
若い葉山にはそれがなにを意味するのか。わからない。
「夙川組は元山川組の主流派だ。いまは三派にわかれているが」
安井は日本の暴力団のドンにまでのぼりつめた。
安井は故郷に錦をかざりたかったにちがいない。
それを阻んだのが、関東墨田会だった。
安井は引退してまもなく死亡した。その子飼いからの配下は、皆、宇都宮にもどってきた。いま山川組が三派に分裂した。安井に宇都宮からついていった配下が、里帰りして宇都宮に拠点を構えようとしている。墨田会との小競りあいは、いまもつづいている。
そして、那須への首都圏移転問題が再燃している。
宇都宮を支配下におけば、全国制覇をまたすることができる。
ソレを夙川組は狙っているのだ。
巡査部長の葉山へのレクチャーが終わった。
若い葉山には、それでも良く理解できない。
まあいいさ。子飼いの配下。とか。錦を飾る。なんて心情はいまどきのサラリーマン化したサツカンのお兄ちゃんにはわからなくていい。
ヤクザの世界のことは、しらなくてもいい。警視庁の組対に配属されているわけではない。
「班長。どこに向かうのですか。運転かわりますか」
葉山が訊いて来る。
けっこう気を使ってくれる。
「死可沼に聞き込みにいかないと」
おれが、親子ほども年の違う、エリートの係長にいやみをいわれないかと葉山は心配している。「大野警部補」係長はいう。「靴をすり減らすばかりが能じゃありませんよ。たまには神経をすりへらしてください」
バカ野郎。そんなことはわかっている。パソコンに向かって神経を消耗するくらいなら、足で捜査したほうがいい。パソコンが犯人に手錠をかけるか!
「特定することはできますよ」
そんなことは、わかっている。目前にいない係長に反論する。
ただひたすら、靴をすり減らして捜査にあたる昭和の遺物のようなおれだ。
係長のいやみは軽くイナセバイイノダガ――。
「そのまえに、よるところがある」葉山にいう。
どうしても、確かめておきたい。
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