第七章の2

2


「あの記事、ジュニャ―、おまえさんだろう。ネタ元はだれだ」

 とりあえず、携帯する。

 相手は――野田草太。 

 沈黙。

「ジュニャ―、まさかおまえ、現場にいた――いたのか!」

 沈黙。そしてしばらく間をおいて……ぼそぼそとした声。

「父は、ぼくのせいで殺された。そう思うようになりました」

 そんなことは、いまは関係ないだろうが。

「なに言ってるんだ、草太くん」

「ぼくが富士カントリーに彼女に会いに行きました」

「なに――。草太、ようやく女ができたのか」

「冷やかさないでくださいよ」

「なにいってる。草太のオシメとりかえてやったことがあるのだぞ」

「クラブの前の雑木林で本田たち黒服に襲われました。その男たちが、父を殺しました。ぼくの家で彼らとは会っています。父をおそったのは彼にです」

 その本田は竜夫がヤッた。たぶん、再起不能だろう。


「なんてこった。はやくそれを言ってくれてれば――」


「そのほかにも、彼女と八幡山公園でデートしてるとき、支局に逃げもどったとき。三度もおそわれています。それで、本田たち夙川組のヤツらの動行を見張っていました」

 そういうことなら、筋はとおる。

 八幡山公園でおそわれた女は、草太の彼女だったのか。

 デートしているところを狙われたのだな。それで、あんなに、あわてておれに女のようすをみにいくように連絡してよこしたのか。納得した。

「それで大臣の襲撃を予知できた?」

「それはちがいます。中藤のところへ大臣の私設秘書の山田さんから救援の連絡が入って――」

「だいぶ話がサバケテきたな」

「ぼくはクヤシイ。口惜しいです。父のカタきを討ちたいです」

「シロウトの相手にできるヤツじゃない。拳銃で野田センパイを撃ったのはたぶん高橋だ。殺し屋だぞ。高瀬兵馬は陸自クズレのピットマンだ。元山川組お抱えのスナイパーだ」

「そこまで調べがついているのですか。さすがは警察ですね」

 野田が記者の声で感嘆する。

 大野は、シマッタというような舌うちをした。

 

 大野警部補からの電話がきれると瞬時に、野田の携帯がなった。

 着信の名は、竜夫。

「野田ちゃん、大臣が街頭演説するぞ。あんな危険な目に会ったのに、なにかんがえているのだろうな」

「竜夫、それホントか」

 竜夫は大臣の身を案じている。

 

 大野警部補の携帯がなった。

「死可沼にいかなくていい。スグ戻ってこい。大臣の警護についてくれ。場所は二荒神社前だ」

 係長からの指令だ。

「突然の話ですね。思いつきで街頭に立たれたのでは、困るんだよな」

 葉山が、大野の、かわりにボヤイテくれる。もしなにかあれば、県警の失態となる。会場となった神社前の広場は県警本部のある県庁ビルのすぐそばだ。市の中心街。周囲には高層マンションや商業ビルが林立している。屋上からライフルで狙われたらひとたまりもない。警備のしにくい場所だ。

 急のことで会場の手配が大臣でもつかなかったのだろう。

 マスコミで大々的に報じられてる暴徒によるテロ行為。大臣としては、なんらかの弁明がしたいのだろう。危険を冒しても急遽街頭演説をすることで、身の潔白を証明しないと、イタクナイ腹を探られる。足元を掬われかねない。

 競合している相手の落ち度はミツの味という政界だ。

 

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