第二章の4


「ニンニクの匂いが街に漂っているうちは安全なのか? でもニンニク餃子にそんな効用があるとはね」

 とても信じられないという渋い顔を宮田はした。

 タコ焼き屋を腰だき(支えている)している関西ヤクザの先鋒に吸血鬼がまじっているなんて、だれだって信じられない。吸血鬼の存在も――。信じられない。

 じぶんの目で確かめるまでは信じられない。テーブルを囲み自家製の皮で焼き上げたカンピョウやニンニク、シソ、肉餃子をうまそうにパクつきながら情報交換がすすむ。

「わたしもみた。アレまちがいない。吸血鬼よ。わたしメコン川のほとりで育った。ルーマニアからきた男、吸血鬼だった」

 メコンの顔は青ざめている。なにか、辛い思いでがあるのだろう。

「だから駅東にあるこの餃子館を目の敵にするんだ。このへんにルーマニヤパブがふえている。知らぬ間に包囲されていた」

 たしかに駅東の繁華街にはタコ焼き屋がおおい。関西から出店したルーマニヤパブもおおすぎる。そしておつまみに、それらの店では餃子はでてこない。タコ焼きだけだ。

「宇都宮からニンニクのニオイが消えたらどうなる」

「あいつらの思うままよ」とメコン。

「それではママがかわいそう。ママが助からない」

「今夜、こちらからシカケテみるか」

 竜夫が決然という。

 だがどうおびきだせばいいのか。

 どうしかければいのか。

 どう吸血鬼と戦えばいいのか。あいては不死の集団だ。

「吸血鬼は流れる水によわいのよ」

 メコンだけがやたらとヤッラのことに詳しい。

「川に叩きこめばいいの。たぶん泳げないのよ」

 昔から吸血鬼の生息地は山か陸地だ。陸棲なのだ。海なしの日光県が好きなわけだ。吸血鬼が水浴している姿など想像できない。よしわかった。

「それだ、なんとかしてヤツラを田川の河川敷公園におびきだすんだ」

「吸血鬼の餌ときたら美女ですね」

 みんなの視線がメコンに集中する。

「わたしいゃ。いゃよ。こわい」

「メコン。わたしも餌になるから……」

 それまで沈黙していたメグがメコンの手をとって励ます。

 メコンはおびえている。だが、麗子ママを襲ったヤツラは許せない。


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