3-4 私は恋する人の味方だから!
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朝弥たちが転移してきたその翌日、彼らは再び応接室に集まっていた。
朝弥と昴、リッカの来訪者三人と、それを引率する清霞。
(陽莉……やっぱりいないか……)
そこに陽莉の姿が無い事に、ガックリと肩を落とす朝弥。
「今日は……午前中は座学でこの国の事を学んでもらって、午後からはスキルを試しに初心者用のダンジョンにでも行きましょうか?」
「えー勉強でござるか? 気が進まない……清霞殿、お願いだから先にダンジョンに行こうでござる」
「だからダンジョンの事も先に学ぶのよ。冒険はそのあとね」
そんな会話が続く中、応接室に一人の男が入ってきた。
「よう、お前らが新しい来訪者かい?」
軽装で動きやすそうな鎧を身につけ、髪はサイドがリーゼントで剃り込みが入り、ポンパドールと呼ばれる前髪をしている。
そんなオールドヤンキースタイルの青年が、応接室に揃った来訪者たちを値踏みするように見回した。
「あら、蓮司。どうしてここに?」
「……清霞さんのお知り合いですか?」
朝弥が尋ねると、清霞は彼の紹介を始める。
「彼は私と同じく六年前に転移してきた、貴方たちの先輩にあたる来訪者よ。名前は諸星蓮司」
「イストヴィア銀槍私兵団団長レンジだ。よろしくな、新入りども」
側頭のリーゼントを撫で上げながら、軽い挨拶をする蓮司。
「もしかして蓮司、新人を見に来たの?」
「バーカ、そんな暇じゃねーよ。つーか、新人教育はひとまず中止だ。クニミツのおっちゃんが、清霞を呼んできて軍議に参加させろってさ」
「――軍議ですって? どういうことなの?」
「戦争するのさ、アインノールド侯爵とな」
*
その蓮司という男の説明によると――。
昨日送られてくるはずだった八人の来訪者、その内の半分が行方不明になっている問題。
それを引き起こしたのが、アインノールド侯爵だという。
本来であればイストヴィア城の魔法陣へと導かれるはずの来訪者を、おそらくは召喚の魔法陣を利用し、流れを捻じ曲げて自分の領内へと引き入れたようだ。
現アインノールド侯爵ウェルヘルミナは、以前にも大勢の領民を生贄にした召喚の儀式を行って失敗している。
その時に王家より厳重処分を受けたのにもかかわらず、今回また来訪者に関わる犯罪を行った。
これはもはや国家に対する反逆罪として罰する以外にないと、ウェルヘルミナの逮捕もしくは処刑が王命として下された。
そのためアインノールド侯爵領に隣接するこのイストヴィア公爵領から、討伐軍が派遣されることとなったのだ。
「それでおっちゃんが、オレと清霞にも出兵に加われってさ」
「なるほど……それがいいわね。何といっても今回は、同じ来訪者の命がかかってるんだから」
蓮司と清霞の会話。
それを聞いた朝弥の心臓が跳ね上がる―。
(戦争……しかも奪われた来訪者の中には、もしかしたら照がいるかもしれない――?)
「そういうわけだからごめんなさい、三人とも。しばらく貴方たちの相手をしている余裕がなくなったわ。戻ったら色々教えるから、それまで待って……」
「待ってください清霞さん!」
三人を置いて去ろうとする清霞と蓮司を朝弥が呼び止める。
「どうしたの朝弥くん?」
「清霞さん、オレ……」
(陽莉は……心配だけど、この城にいる限りは大丈夫だろう)
(それよりも今は……)
「オレも……オレも連れて行ってください、清霞さん!」
「連れて行けって……もしかして戦争に?」
「……ああ? 何言ってんだ新入り?」
驚く清霞の横で、蓮司が凄んで朝弥を睨みつける。
「戦争だっつってんだろ? 舐めてんのかテメェ?」
「お願いします! 残りの来訪者の中に、オレの大切な人がいるかもしれないんです!」
「ふざけんな! レベル1のお前なんか連れていけるか!」
「本当に大切なんです! 大好きな子なんです! お願いです、連れて行って下さい!」
「だーかーらー!」
「……待って、蓮司」
険悪になる朝弥と蓮司の間に、清霞が割って入る。
「朝弥くん……キミ、その子の事がそんなに好きなの?」
「はい! オレは……照がいなかったら生きていけません!」
「そう……そこまで……。分かったわ、朝弥くん、私が連れて行ってあげる」
「本当ですか、清霞さん!」
「ちょっ! おい清霞、お前何を考えて……?」
「大丈夫、任せて朝弥くん! 私は恋する人の味方だから!」
「ありがとうございます、清霞さん!」
「おいおい、マジかよ……?」
こうして朝弥は、討伐軍に紛れて照のいるアインノールド侯爵領に向かう事となる。
(照……待ってろよ、今迎えに行くからな……!)
だが……朝弥はまだ知らない。
愛する者が、今は男になっているという事実を――。
――4話へ続く。
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