1-3 RPGではまず聞く事のない職業
2
――翌日。
ちらちらと雪の降る中、木々の間を軽やかに走る数台の馬車。
乗っているのはウェルヘルミナと、お供の女性兵士たちに二名の女性神官、そして照たち三名の来訪者だ。
照たちは昨日着ていた日本の服から、こちらの世界の一般的な服装に着替えていた。
化繊ではないが、品質は元の服と比べても劣らない、天然素材で肌触りもよく、寒さもよく防いでくれている。
馬車が向かっているのは、これから照たちが『成人の儀』というものを行う神殿だ。
そのまま一時間ほど走り、森を抜け湖にたどり着く。
その湖面には奇麗な装飾の施された石の神殿が浮かんでいた。
「着きましたよ皆さま。あれが目的地の神殿です」
「それはいいけど……ウェルヘルミナ、あの神殿までどうやって行くつもりなの?」
乃愛がそう疑問に思うのも無理はない。
湖上の神殿は湖の真ん中にある島の上に建てられていて、そこまで行くための橋も船も見当たらないからだ。
「それならしばしお待ちを。土の神官、出番ですよ」
ウェルヘルミナがそういうと、お供の女性神官たちに指示を出す。
女性神官は二人いて、それぞれ白と黄色の神官服を着ているのだが、その中の黄色い服を着た神官がウェルヘルミナの言葉に従って前に出てきた。
「土魔法[アースウォール]」
黄色い神官はそう言って湖に向かい杖を振るう。
すると、ゴゴゴ……と僅かな地響きが聞こえ、水の中から地面がせりあがり、湖に道ができあがった。
「ご苦労様です、土の神官」
「お褒めにあずかり光栄です、ウェルヘルミナ様」
黄色い神官は頭を下げる。
その様子に燐子が驚きの声を上げる。
「これが魔法か……湖に道を作るなんて、すごい力だな」
「リンコ様、驚かれるのも今のうちですよ。今から『成人の儀』をお受けになれば、皆さまだってこういったスキルを使えるようになるのですから。さぁ、ではまいりましょうか」
ウェルヘルミナは得意げにそう告げると、神殿に向けて先頭を切って歩き出した。
*
魔法でできた道を通り、湖上の神殿へと到着した一行。
神殿の中は円形の広間で、広さは学校の体育館ほど、全体が重厚な石造りになっていた。
入口の反対側には二つの扉があり、その前にさらに三人、赤・青・緑の服を着た女性神官たちが待ち受けていた。
彼らはウェルヘルミナに恭しく頭を下げる。
「お待ちしておりました、ウェルヘルミナ様。『成人の儀』の準備はつつがなく終了しております」
「ご苦労様、神官長」
神官長と呼ばれたのは赤い神官服の女性だ。
「ウェルヘルミナ。何だか神官の服がカラフルだけれど、もしかして階級で色が分かれているのかしら?」
彼女たちの服装に興味を持ったのか、乃愛がウェルヘルミナにそう尋ねた。
「いいえノア様。
神官の服は階級ではなく、使える魔法によって決められているのです。
ジョブスキルの魔法には火・水・風・土・光・闇の六系統があり、それぞれが赤・青・緑・黄色・白・黒の色で現されます。
それに沿って神官服の色も、その者が使える魔法によって決められているのです。
ちなみに神官は全員魔法職のジョブを持っています。
魔法職でない者は、神官になる事はできませんわ」
ウェルヘルミナの説明にさらに付け加えると、神官の階級は服の色ではなく、胸の階級章で表されている。
金のラインが一本入っている者は神官見習い、二本の者は神官、三本の者は神官長と、階級が上がる度にラインが増えていく。
ちなみにここにいる女性神官たちは、ウェルヘルミナに「神官長」と呼ばれた赤い神官だけがライン三本、ほかの者は全員ラインが二本でヒラの神官だと分かる。
「それではこの奥の祭壇でお待ちしておりますので、来訪者の皆様はお一人ずつお入りください」
そういうと赤の神官長は、奥の二つの扉のうち、右側の扉の中へ入っていった。
ウェルヘルミナが来訪者三人に尋ねる。
「それでは、どなたから『成人の儀』を受けられますか?」
「私はゲームはやらないし、こういうものに疎いからな、できれば後回しにしてほしい」
「ならリンコ様は三番目ですね。では、ノア様はいかがです?」
「そうね……だったら最初は私が行こうかしら。惣真くんは?」
「えっと……じゃあボクはニ番目でお願いします」
照はそう答えると、心の中で付け加える。
(なんとなく一番は、チュートリアル的にごく普通のジョブが出てきそうだし)
「決まりましたね。ではノア様、テル様、リンコ様の順でまいりましょう。まずはノア様、『成人の儀』の祭壇へどうぞ」
ウェルヘルミナに促され、乃愛は右側の扉を開き中に入っていった。
*
十分ほどして扉が開き、儀式の間から乃愛が戻ってきた。
「いかがでしたか、ノア様?」
「ちゃんとジョブを授かってきたわ。ステータスオープン」
ウェルヘルミナの問いに応えて、乃愛は自分のステータスを開く。
――――――――――――――――――――
名前:東雲 乃愛(しののめ のあ)
性別:女 年齢:17 種族:人間
状態:なし
ジョブ:[勇者]
――――――――――――――――――――
【称号】
[異世界からの来訪者]
――――――――――――――――――――
【ジョブスキル】
[聖剣スキルレベル1][精霊魔法レベル1]
――――――――――――――――――――
【ステータス】
レベル:1
HP:28/28 MP:25/25
攻撃力:16 防御力:10 魔法力:15
俊敏力:10 幸運値:10
――――――――――――――――――――
【アクティブスキル】
[セントスラッシュ]new
[ヴェント]new
――――――――――――――――――――
【パッシブスキル】
[経験値×10倍]
――――――――――――――――――――
【取得スキル解説】
[セントスラッシュ]
聖剣スキルレベル1で習得。
魔力を込めた斬撃を飛ばし、離れた相手を攻撃する。
[ヴェント]
精霊魔法レベル1で習得。
風の精霊の力を借りて竜巻を起こす。
――――――――――――――――――――
「まぁあああっ! [勇者]ですって!」
乃愛のステータスを見た途端、ウェルヘルミナは驚きの声を上げた。
「それほど驚くと言う事は、[勇者]というのはすごいジョブなのかしら?」
「もちろんですともノア様!」
ウェルヘルミナが興奮気味に説明する。
「[勇者]と言えば専用の聖剣スキルと、エルフ族に伝わる精霊魔法を習得できるジョブです!
強力な武器と魔法両方のスキルを併せ持つ、戦闘職最強のオールラウンダーですわ!
そんなレア中のレアジョブを引き当てるなんて……。
凄いですわ! 凄いですわ!
さすがはわたくしのノア様ですわ!」
「わたくしのって……ちょっと意味が分からないけれど、強力なジョブが引き当てられたのならなによりね……」
大興奮のウェルヘルミナに、若干引き気味の乃愛。そして――
(しまった! 最初から大当たりじゃないか! どうしてボクは一番先に儀式へ行かなかったんだ? そうすればもしかしたら、ボクが[勇者]のジョブを引き当てていたかもしれないのに!)
――チーレムチャンスを逃した照が、こっそりと悔しがっていた。
*
照が儀式の間に足を踏み入れる。
扉の中は細長い通路のような部屋だった。
入口から奥までは約20メートルほど。
天井は高く、右側の壁が全面ガラス張りで、太陽光をふんだんに取り入れる作りとなっている。
そのお陰か左側の壁には燭台もあるが、今は使わなくとも十分すぎるほどに明るい。
そして一番奥には祭壇があり、その前で赤い服の神官長が待ち構えていた。
「では来訪者様、祭壇の前へ。女神様に祈りを捧げながら、中央の水晶に触れてください」
神官長に促されるまま、照は祭壇の前に立ち、その中央に飾られた水晶玉に触れる。
(お願いします女神様! もう文句は言いません、だからボクにウルトラレアなジョブをください!)
――するとキラキラ輝く光のエフェクトが照を覆い、体を心地よい暖かさが包み込む。
そして……。
『オッケー、惣真照くん。だったらキミには特別なジョブをあげましょう』
唐突に、転移前のあの真っ白な空間で会った、女神の声が照の頭に響く。
『これは『神に最も近いジョブ』とも言われているすごいジョブなのです。だから頑張ってレベルを上げれば……また私に会えるかもしれませんよ?』
そして女神の言葉が終わると同時に、照を包んでいた光がはじけて消えた。
「な……なんだ今の……? あのときの女神の声……?」
思いがけない出来事に照が呆然としていると、赤色の神官長が驚いた様子で話しかけてくる。
「来訪者様、もしかして女神様の声を聞いたのですか?」
「え、ええまぁ……」
「それはすごい! 『成人の儀』で女神様の声を聞ける人はめったにいません! きっと素晴らしいジョブを授けられたに違いありませんよ!」
神官長のその言葉を聞き、照は慌ててステータスを開く。
――――――――――――――――――――
名前:惣真 照(そうま てる)
性別:男 年齢:16 種族:人間
状態:なし
ジョブ:[探偵]
――――――――――――――――――――
【称号】
[異世界からの来訪者]
――――――――――――――――――――
【ジョブスキル】
[探偵術レベル1]
――――――――――――――――――――
【ステータス】
レベル:1
HP:30/30 MP:18/18
・
・
・
「……た、探偵?」
ジョブの欄に書かれていたのは、RPGではまず聞く事のない職業だった。
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