1-4 ボクの行く先々には常に死体が転がってる感じ



「それでテル様は、どんなジョブを授けられたのですか? 来訪者とはいえ男というだけでハズレなんですから、せめてジョブくらいは使えるものじゃないと困りますよ?」


 成人の儀を終えた照を待っていたのは、そんなウェルヘルミナからの心無い言葉だった。


(ひ……ひどい言われよう……)


 心を抉られ涙目になる照。


(どうしてこんなに目の敵にされてるの、ボク?

 そういえばここにいる兵士も神官も全員女性なんだよな……。

 ウェルヘルミナ様って、そんなに男が嫌いなんだろうか……?)


「聞いていますかテル様? ジョブは何だったのかと尋ねているのですけど」

「あ、はい、えっと……」


 ウェルヘルミナに促され、照は恐る恐る自分のジョブを口にする。


「それが…………[探偵]っていうジョブなんですが……」

「[探偵]? 聞いた事のないジョブですね。誰か知っている者はいますか?」


 そう言い辺りを見回すウェルヘルミナへ――

「……僭越ながらウェルヘルミナ様」

 ――傍に控えていた神官の一人が進言をする。


「過去の成人の儀の記録に[探偵]というジョブが載っていたのを覚えております。ほとんど実例が無く、どのようなジョブか詳しくは分かっていないようですが……」

「それは……珍しくて当たりのジョブだと言う事ですか?」

「いいえ、ウェルヘルミナ様。戦う事も何かを生産することもできず、まともに使えるスキルは鑑定だけ。その上、どうすればレベルが上がるのかすらはっきりしておりません。記録に残っている限りでは、非常に珍しいだけで性能は大ハズレのジョブだと思われます」


「なるほど……性別が男な上にハズレジョブ……とんだハズレ来訪者ですね」


 神官の答えを聞き、冷ややかな目で照を見るウェルヘルミナ。

 照は嫌な汗が止まらない。


(どういう事なんだよ、あのバカ女神!

 『神に最も近いジョブ』だなんて意味深な事言っておいて、なんなのさこのハズレジョブは?

 ボクの目標チーレムはどうしてくれるんだよ!)


「まぁこんなハズレ野郎は放っておいて……さぁ次はリンコ様の番です!」

「分かった、ウェルヘルミナさん。行ってくる」


 ウェルヘルミナに促され、続いて燐子が成人の儀に向かった。





「ちくしょう、どうしてボクがこんなハズレジョブを……」


 燐子が儀式に向かっている間、照は……広間の隅っこでウジウジしていた。


「ここってRPGの世界じゃないのか?

 聞いたことないぞ、RPGで[探偵]のジョブなんて。

 チーレムを作るためにも、東雲先輩の[勇者]みたいなチートジョブが欲しかったのに……」


 と、心の中で乃愛の名前を出したところで、はたと気付く。


「……ってアレ、そう言えば東雲先輩がいないな……?」


 照がそんな疑問を抱いたタイミングで、計ったように神殿入口の扉がバタンッと開き、乃愛が外から戻ってきた。


「あら惣真くん、成人の儀は終わったのかしら?」

「その事はあまり聞かないでください……」


 ハァーッと深くため息をつくと、照は乃愛に質問を返す。


「それより東雲先輩はどこへ行ってたんですか?」

「私はせっかく魔法を覚えたので、試し撃ちに外へ行っていたのよ」


 乃愛は頬に手を当てると、満足したようにホゥ……と息を吐いた。


「とても楽しかったわ。レベル1の魔法なんて大したことはないと思っていたけれどすごい威力ね。木をなぎ倒せるほどの風が起こせるなんて思わなかったわ」

「くっ、なんて羨ましい……。ってあれ?」


 乃愛の話を聞いて、首をかしげる照。


「でもその割には静かでしたね? そんな事をしていたのなら、ここまで音が響いてきてもおかしくなさそうなのに……」

「ああ、それならこの神殿が防魔と防音の結界で守られているからみたいね。結界を生み出す魔道具で守られているから、思い切り魔法を使っても大丈夫だってウェルヘルミナが言っていたわ。それより……」


 乃愛は質問に答えると、話の矛先を照に向ける。


「惣真くん、キミがもらったジョブはなんなのかしら? そのくらい教えてくれてもいいと思うのだけれど?」

「うぅ……やっぱり言わなきゃダメですか?」


 思わず躊躇する照。

 だがいつまでも隠し通せるものではないと、仕方なく白状する。


「実は……[探偵]だったんですよ、ボクの職業……」

「……なんですって?」


 照が[探偵]を語った途端、乃愛の目がスゥーッと細くなる。


「あーあ、ボクも乃愛さんの[勇者]みたいに、カッコいいジョブがよかったなぁ~……って、どうしたんですか乃愛先輩?」

「もう一度言ってみなさい、惣真照」

「……へ?」

「もう一度貴方のジョブを言ってみなさいと言っているのよ、何度も言わせないで」


 イライラした態度を見せる乃愛。


「いま貴方、[探偵]って言ったわね? 間違いないわね? ねぇ、間違いないわね?」

「あ、や…………はい、そうですけど……」


 照の返事を聞いた乃愛は、眉間を手で押さえながら、フゥーッと深い溜息を吐き、忌々し気に照を睨みつける。


「……どういう事なのかしら、惣真照?」

「な、なにがでしょう?」


 ビクビクしながら返事をする照に、乃愛は容赦なく詰めてくる。


「どうして貴方が[探偵]などという崇高なジョブをもらえるのかしら? ミステリーが好きで、あらゆるミステリー作品を網羅してきたこの私を差し置いて、どうして貴方ごときが[探偵]に選ばれているの?」


 どうやら乃愛は、自分が探偵になりたかったようだ。


「ねぇ、答えなさい。答えてみなさい、惣真照」

「い……いや、そんな事言われても……。ボクだってこんなジョブ、欲しくて手に入れたものじゃないですし……」

「『こんな』ですってぇっ!」


 その瞬間――乃愛が鬼の形相に変わった!


「探偵と言えば神にも等しい存在! それをこんなモノ呼ばわりするというの、貴方は! 許せない、絶対に許せないわ、惣真照!」

「え、えぇえええ~……」


 怒髪天な様子の乃愛に、照はアタフタと困惑した表情を浮かべる。


(外れジョブ引き当てた挙句、文句を言われるなんて冗談じゃないよ!)


 助けを求めて周りを見回すと……。


「ぐぬぬぬぬ……。ハズレ来訪者のくせに、どうしてノア様と親しげにしていますの? 許せませんわ、テル様~っ!」


 ウェルヘルミナからも恨みがましい視線を感じる……。


(えぇえ~、こっちも? どうしよう、[探偵]のジョブのせいでヘイトを集めまくってるよ!)


 思わぬジョブ[探偵]の効果に慄く照。


(使えない上にヘイト効果大のジョブ……とんだ疫病神じゃないか、ちくしょう!

 見てろ、あの女神! 今度会ったら絶対にぶん殴ってやるからな!)


 女性たちからのヘイトを集めつつ、女神に対するヘイトを募らせる照であった。





「なんだか騒がしいな、何かあったのか?」


 儀式の間から出てきた燐子が、もめている照たちの様子に気付き声を掛けてきた。


「お帰りなさいませ、リンコ様。儀式は無事終えられましたか?」

「ああ、ウェルヘルミナさん。ちゃんとジョブとやらも貰ってきたよ。えっと……ステータスオープン」


 燐子はウェルヘルミナに応じてステータスを開く。


――――――――――――――――――――

 名前:周防 燐子(すおう りんこ)

 性別:女 年齢:35 種族:人間

 状態:なし

 ジョブ:[爆炎魔導士]

――――――――――――――――――――

【称号】

 [異世界からの来訪者]

――――――――――――――――――――

【ジョブスキル】

 [火魔法レベル1][爆炎魔法レベル1]

――――――――――――――――――――

【ステータス】

 レベル:1

 HP:25/25 MP:30/30

 攻撃力:6 防御力:5 魔法力:25

 俊敏力:8 幸運値:7

――――――――――――――――――――

【アクティブスキル】

 [フレイムボルト]new

 [ファイヤボール]new

――――――――――――――――――――

【パッシブスキル】

 [経験値×10倍]

――――――――――――――――――――

【取得スキル解説】

[フレイムボルト]

 火魔法レベル1で習得。

 こぶし大の火の玉を撃ち込む。

[ファイアボール]

 爆炎魔法レベル1で習得。

 爆発する火の玉を撃ち込む。

 周囲を巻き込む程度の爆発。

――――――――――――――――――――


「まぁっ、[爆炎魔導士]ですか! いきなり上級職とは素晴らしいです、リンコ様!」

「上級職?」


 燐子が首を傾げるとウェルヘルミナが答える。


「基本職を極めてからでないとなれないのが上級職です。

本来ならば[爆炎魔導士]は、基本職である[火魔術師]のジョブスキルのレベルをカンストしてからでないとなれないのですが……。

さすがはリンコ様ですわ」


「うーむ、よくわからないが喜んでくれているようだし、これでいいのだろう」

「はい、もちろんです!」


 照の時とは打って変わって、満面の笑顔で返事をするウェルヘルミナであった。





 燐子とウェルヘルミナ、ステータスを見ながらワイワイと楽しそうな二人。

 それを見て照はますます不貞腐れていく。


「燐子さんも当たりジョブか……。ちくしょう、不幸なのはボクだけじゃないか……」

「……不幸ですって?」


 その独り言を耳聡く聞きつけた乃愛が、三白眼になって照を睨みつけてきた。


「[探偵]なんて素晴らしいものに選ばれておいて、いったい何が不幸だというの?」


(……東雲先輩にこうやって絡まれてるだけで、充分不幸だと思うのですが……)


 照は声に出さずそう嘆息する。

 声に出すとなおさら絡まれそうな気がしたからだ。


「ねぇ、聞いてる? 何で言い返さないの? 仮にも探偵ならこちらを言い負かしてみたらどうなの? ねぇ、何とか言いなさいよ」

「…………」


 ――黙っていても結局絡まれる照であった。


「それで……ウェルヘルミナさん、私たちはこの後どうすればいいんだ?」


 ジョブを無事受け取った燐子がウェルヘルミナに尋ねる。


「成人の儀とやらが終わって、これで終了なのか?」


「いいえ、次は『誓いの儀』を、今度は左の部屋でやっていただくのですが……。

 おかしいですわね、リンコ様が成人の儀の間から出てこられて10分以上は経っていると思うのですが、神官長が出てきませんね?

 何をしているのでしょう、誰か確認してきてください」


「わかりました、では私が……」


 ウェルヘルミナの命令に、白い服の神官が応じる。

 神官長を呼びに、成人の儀の間へ向かい、そのドアに手をかけた――。





「――ところで惣真くん。ジョブを手に入れたという事は、それで何かスキルを手に入れたという事よね?」

 乃愛が照に問いかける。


「惣真くんの事は気に食わないけれど、[探偵]のスキルについては気になるわ。どんなスキルか見せてくれないかしら?」

「『気に食わないけど』って……。あーでも、そういえば、[探偵]というジョブに気を取られて、スキルまで見ていなかったな」


 照は改めてステータスを開く。


――――――――――――――――――――

 名前:惣真 照(そうま てる)

 性別:男 年齢:16 種族:人間

 状態:なし

 ジョブ:[探偵]

――――――――――――――――――――

【称号】

 [異世界からの来訪者]

――――――――――――――――――――

【ジョブスキル】

 [探偵術レベル1]

――――――――――――――――――――

【ステータス】

 レベル:1

 HP:30/30 MP:18/18

 攻撃力:15 防御力:10 魔法力:12

 俊敏力:8 幸運値:35

――――――――――――――――――――

【アクティブスキル】

 なし

――――――――――――――――――――

【パッシブスキル】

 [経験値×10倍]

 [死神体質]new

――――――――――――――――――――

【取得スキル解説】

[死神体質]

 探偵術レベル1で習得。

 とにかく事件に遭いやすくなる。

――――――――――――――――――――


「なっ……なんじゃこりゃあ!?」


 思わず照は声を上げてしまう。


(し…[死神体質]? とにかく事件に遭いやすくなる?

 なにこの某アニメの少年探偵を思い出すスキルは……?

 ……え、もしかして今後、ボクの行く先々には常に死体が転がってる感じになるの……?)


 ステータスを読み、戦々恐々となる照。

 そして――。


「きゃああああああああああああああっ!」


 その予想を肯定するかのように、つんざくような女性の悲鳴が上がった。

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