【PV6000感謝!】神様、探偵チートじゃ戦えません!

usumy

第一章「転生したら探偵だった件」

1-1 異世界転移のお約束をやってみる

プロローグ



 上も下もない、ただ真っ白な空間。

 肉体はなく、惣真照という人間の意識だけがそこにあった。

 目の前に立つ女神を名乗る少女が問いかける。


「さあ言いなさい、惣真照。貴方は異世界転移に何を望みますか?」


 それに応じて惣真照は……。


「ボクは……ボクが望むのは……」





「こ……ここは……?」


 惣真照が目を覚ます。

 照が倒れていたのは広さ十畳ほどだろうか、壁も床も石造りの部屋だ。


 足元には直径3メートル程の、淡い光を帯びた七芒星の魔法陣があり、その周りには円筒型の石箱が七つ置かれている。

 そしてガラスもないぽっかりと開いた窓の外には、夜の街が広がっていた。

 明らかに日本ではない、中世ヨーロッパのような街並み――。


「まさか本当に…?」


 照は夢の中で会った、女神を名乗る少女の事を思い出す。

 ファンタジーの世界に迷い込んだような状況――。


(あれは夢じゃなくて本当に異世界転移したんじゃ……?)


 照は半信半疑ながら、試しに異世界転移のお約束をやってみる。


「ステータスオープン!」


 すると……。


「うぉっ! ホントに出た!」


 驚く照の目の前に、透明の輝く板が現れた。


――――――――――――――――――――

 名前:惣真 照(そうま てる)

 性別:男 年齢:16 種族:人間

 状態:なし

 ジョブ:なし

――――――――――――――――――――

【称号】

 [異世界からの来訪者]

――――――――――――――――――――

【ジョブスキル】

 なし

――――――――――――――――――――

【ステータス】

 レベル:1

 HP:30/30 MP:18/18

 攻撃力:15 防御力:10 魔法力:12

 俊敏力:8 幸運値:35

――――――――――――――――――――

【アクティブスキル】

 なし

――――――――――――――――――――

【パッシブスキル】

 [経験値×10倍]

――――――――――――――――――――



 現れた光る板――ウィンドウ――には、ゲームのステータスのようなものが書かれていた。


(ちょっと待って! こんな事って……)


 照は食い入るようにステータスを見た。

 そこに書かれた一言が本当なのか、自分の体をあちこちと弄ってみる

 そして――


(これ……本当にボクの夢が叶ってるじゃないか!)


 ――照はその事にようやく気付いたのだった。





(あの女神様……本当にボクの願いを叶えてくれたんだ……)


 照がそんな感慨にふけっていると……。


 コツコツ……と石畳を叩く足音が聞こえてくる。

 照が耳をそばだて待っていると、その足音は扉の前で止まった。

 そしてギィー……と扉が開き、照のいる七芒星の魔法陣の間に、数名の人間が入ってきた。


「エスセリオへようこそ、来訪者様」


 最初に照に語り掛けてきたのは、集団の先頭に立つ純白のドレスを来たブロンドの少女。


「私はこの城の主でウェルヘルミナと申します」


 年は照と同じくらいだろうか、その少女は照に向かって華麗にカーテシー――スカートの裾を持ち、チョコンと挨拶するアレ――をして見せた。

 ウェルヘルミナと名乗るその少女以外は、兵士の恰好をした女性だ。

 ウェルヘルミナを守るように、彼女の周りを固めている。


「え、えっと……惣真照です……」


 照も慌てて自己紹介を返すと、ウェルヘルミナは笑顔を見せて手を差し伸べてくる。


「テル様ですね、よろしくお願いします」

「こ、こちらこそよろしくお願いします!」


(うぉおっ、すごくカワイイ! ハリウッド映画でもそうはいないレベルのブロンド美少女だよ!)


 照は鼻の下を伸ばしながら握手に応じた。


 と、その時――。

 二人の足元からヴウゥーンという唸るような音が鳴る。

 ウェルヘルミナが「おや?」と怪訝そうな声を上げ目線を下に落とした。

 つられて照も足元を見ると――

 魔法陣から発せられていた淡い光が、先ほどの音と共に消えてしまった。


「魔法陣の光が消えたと言う事は、これで異世界転移は打ち止めという事ですね」


 魔法陣の様子を見たウェルヘルミナが推測を述べる。


「どうやら今回の来訪者は、テル様で最後のようです。これで四人……いえ、あの方は消えてしまわれたので、全部で三人のようですね」

「それってどういう……? あっ、そうか! ボク以外にも異世界からの転移者がいるんですね?」

「ええ、テル様の他にあと二人いらっしゃいます」

「二人? ――まさか!」


 二人と聞いて顔色を変える照。


(もしかして陽莉と朝弥なんじゃ……)

(ボクが死んだとき、あの二人も傍にいた。まさか二人も……)


 陽莉と朝哉というのは照の幼馴染だ。

 自分と同じように幼馴染二人も、死んで異世界に転移しているのではと心配になる照。


「お二人は今、この城の客間にいらっしゃいます。お会いになられますか?」

「は、はい! 会わせてください!」

「それでは今から案内しましょう」


 ウェルヘルミナはいい事を思いついたとでも言いたげに、胸の前でパンッと手を叩いた。


「ちなみにテル様は、今の状況をどの程度ご理解しておられますか?」

「えっと……女神様から異世界転移するとは聞いていますが……」

「でしたら他の方と同じですわね。では行きましょう、他の二人の所へご案内いたしますわ。お話は歩きながらでも構いませんよね?」


 そしてウェルヘルミナは、照の手を取り出口へと歩き始めた。





 照の手を引き城を案内するウェルヘルミナ。

 その後をお供の騎士たちがぞろぞろとついてくる。


「それでは照さま、まずはこの世界『エスセリオ』の事から話しましょう」


 そうして案内を受けながら、照がウェルヘルミナから聞いた話をまとめると――。


 照が転移してきたこの世界は、『エスセリオ』と呼ばれている。

 エスセリオは四つの大陸と七つの大きな島から成り立っており――

 その中の『東の大陸』と呼ばれる大陸の――

 東原と呼ばれる地方にある『セーヌ王国』の――

 その一角を担う『アインノールド侯爵領』にある――

 アインノールド侯爵の住む城。

 それが今、照のいるこの場所、『アインノールド城』だ。


 そして照の手を引くブロンド美少女こそ、この城の主でありこの地方の領主、ウィルヘルミナ・アインノールド侯爵である。


「テル様、何か質問はありますか?」

「えっと……」


 ウェルヘルミナから催促され、照はずっと気になっていた事を尋ねてみる。


「……何で異世界なのに日本語しゃべってるんですか?」

「ウフフ、やはり皆さん、最初にそれを聞くんですね」


 ウェルヘルミナが楽しそうに笑いながら教えてくれる。


「この国の公用語はニホン語なんですよ。この地では昔からニホンからの来訪者が多く、その影響ですね。来訪者は偉大な功績を残される方が多く、この国を建国した初代国王も日本からの来訪者だと言われていますわ」

「そ、そんなにたくさん……」

「ちなみに他の地方へ行くと日本以外の来訪者が多くて、国によってエイ語やチュウゴク語、フランス語などが公用語だったりします」

「マ、マジで? 来訪者の影響力スゲー……」


 自分も来訪者であることを忘れたかの様に感嘆する照。

 ウェルヘルミナから「ほかにご質問は?」と促され、照は他にも気になっていたことを尋ねる。


「それじゃボクたちは、なぜこの異世界エスセリオに召喚されたんですか? やっぱりお約束の魔王討伐……?」

「いいえ、我々が呼んだわけではありませんよ。我々は来訪者がやってくるという女神様のお告げがあったので、お迎えにあがっただけですわ」

「だとしたら……ボクたちが帰る手段なんて、用意されてないですよね? 女神様も言ってたけど、やっぱりボクたちが元の世界に戻る方法はないんでしょうか?」

「残念ながら……。もしかしたらこの世界のどこかには、異世界へ行く方法があるのかもしれませんけれど、わたくしは寡聞にして存じ上げませんわ」


 そんな話をしながらも、照たちは歩みを進めていく。


「着きました、テル様。こちらですわ」

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