第六章「男の娘って、それはないでしょう!」
6-1 体目当てって言うなっ!
プロローグ
「ボク、異世界転移して男になっちゃったから」
「…………へ?」
照の言葉に、朝弥は盛大な呆け顔を見せた。
「い、いやいや、何言ってんだ照? 男になんかなれるわけないだろ?」
「フフン! それが本当なんだな~! ボクの夢がついに叶ったんだよ!」
「そ、そんなバカな……」
否定していた朝弥だが、ふと城で会った同級生の昴と正体不明の幼女リッカの事を思い出す。
異世界転移で変わり果てた二人の姿――。
(ま、まさか本当に……?)
だが朝弥は頭を横にブンブンと振り、その考えを頭から追い出す。
「だ、騙されないぞ照! だってお前は見た目が何も変わってないじゃないか!」
「そう言われても本当だし、どうすれば信じてもらえるかなぁ? ……そうだ!」
何かを思いついた様子の照は、朝弥を連れて誰も見ていない隅の方へ移動する。
そして――
「ほら、見てみなよ」
と、朝弥にパンツの中が覗けるよう、前の部分をグイっと広げて見せた。
そこには……。
「か、可愛いのがついてる――!!!」
「可愛いっていうなっ! これでも自慢の息子なんだぞ!」
信じられないものを見て絶叫する朝弥に、真っ赤になって抗議する照。
(照にアレが……ウソだ……ウソだ……)
あまりに衝撃的な事実を知ってしまった朝弥――。
血の気の引いた真っ青な顔で、バタンッと卒倒してしまうのだった。
1
――アインノールド領とイストヴィア領を繋ぐ街道。
そこをイストヴィアへ向かって、二台の馬車が駆けてゆく。
先を走る馬車の中には照、乃愛、燐子、清霞の四人が、続く馬車の中には朝弥、陽斗、蓮司の三人が乗っていた。
アインノールド城での戦闘の後、遅れて到着したイストヴィア公爵軍の本隊に後処理を任せ、清霞と蓮司はイストヴィアへの帰路についていた。
名目は照たち来訪者の送迎として。
その二台の馬車の内、先を行く女子ばかり(プラス照)が乗った方の車内では――。
「ホントに! ホントに陽莉がこの世界に来てるの?」
「ええ、城に戻ればね。ただ……彼女、部屋に引きこもったまま出てこないんだけど……」
照が興奮した様子で、清霞に陽莉の事を尋ねていた。
清霞がそう答えると、照は喜色の表情をのぞかせる。
(そっか……陽莉にまた会えるのか……)
(って、何を喜んでるんだ、ボクは!)
陽莉がいると聞いて喜んでしまい、照は慌てて反省する。
(陽莉がここにいるって事は、彼女も死んじゃったって事なのに……)
(結局ボクは、陽莉を助けられなかったのか……チクショウ……)
(だけど、二度と会えないと思っていたから、また陽莉の顔が見れるのは嬉しいよ)
(そうだ、陽莉がいてくれるならそれだけでいい、ハーレムなんて必要ない!)
(陽莉……また会える……)
思わず考え込んでしまう照。
と、そこへ――
「ねぇ照くん。一つ聞きたいのだけれど……」
そう言いながら、照の腕に絡みつき体を寄せてくる乃愛。
ムニュン……と照の肘に柔らかいものが当たる。
「その陽莉という女は照くんの何かしら? もしかして大切な人?」
「えっ? ちょっ、何を……? ふぁあっ! あ、当たってますよ乃愛先輩!」
「当ててるのよ。それより質問に答えなさい。その陽莉って女は何者なの?」
「何者って、その、ボクの幼馴染で……あひぃいいっ! 耳に息を吹きかけないで!」
「その子は私よりも大切な相手なのかしら? ねぇ、照くん?」
「ちょっ! さっきから変ですよ乃愛先輩!」
乃愛の過激なボディタッチに、たまらず照が悲鳴を上げる。
「な……何なんですかこの態度。まるでボクに気があるみたいに……」
「……アラ、気づいてなかったの?」
照の狼狽に、乃愛が妖艶な笑みで返す。
「私……照くんの事が好きよ」
「……へ? い、いやいや、からかわないでくださいよ!」
「からかってなんかいないわ。私、本気よ?」
「だ、騙されませんよ、乃愛先輩! 今までの流れで、先輩がボクに惚れる要素なんて一切なかったじゃないですか!」
「……照くんこそ忘れたっていうの? 私の身も心も蕩けるほどに、あんなにも激しくしてくれたじゃない――」
「忘れたも何も、そんな事実はありません!」
照はひときわ強く否定する。すると……
「……ひ、酷い……私の事は遊びだったのね……くすん……」
「ちょっ、乃愛先輩? な、泣かないでくださいよ!」
涙を見せる乃愛に慌てる照。
「お願いします! 泣き止んでください!」
「くすん……だったら私が本気だって信じてくれる……?」
「いや、その……それは……」
未だ戸惑いを見せる照に、甘えた声を上げる乃愛。
「だったら……ねぇ照くん。私、どうすればいいのかしら? どうすれば照くんは、私が真剣だってわかってくれるのかしら?」
「真剣って……そんな……」
乃愛のその哀切な様子に、照も次第に心が揺らいでいく。
「ま、まさか……本当にボクの事……?」
「……もちろんよ、照くん。私……照くんが好きよ」
(そんな……いつの間にかボク、乃愛先輩を攻略していたのか……)
(ど、どうしよう……。こんな美人に好かれるなんて初めてだよ……)
(据え膳食わねば、なんて言うしここは……)
(……って、何を考えてるんだ! ボクには陽莉がいるじゃないか!)
(そうだ、ボクはさっき決めたばかりじゃないか! ハーレムじゃなく陽莉に一途に生きるって!)
(だからボクは――)
「……乃愛先輩、ボク……」
「……そう。分かったわ、照くん」
苦しそうに言葉を紡ぐ照に、乃愛が悲し気な笑みを浮かべる。
「キミのその辛そうな表情……やっぱりキミは私ではなく、その陽莉という子を選ぶのね」
「う、それは……」
「大丈夫、キミの気持ちは分かったから。でも……」
そこで一息ついた乃愛は、ハゥ……と吐息を漏らし、潤んだ目で照を見つめる。
「ねぇ照くん……。
私の気持ちも聞いてくれないかしら?
私は……キミの一番でなくていいと思ってるの。
照くんに他に好きな人がいたって構わない。
二番でも三番でもいいからキミの傍にいたいの。
……それじゃダメ?
それでも私の気持ち、受け取ってもらえないかしら?」
「そ、そんな……」
そんな乃愛の切ない嘆願に、照は激しく動揺する。
「さ、乃愛さん……どうしてそこまで……」
「だから言ってるでしょう」
そうして乃愛は答える。
「私は照くんが大好きなの……探偵として」
「……へ? 探偵?」
探偵という言葉に、思わずキョトンとしてしまう照。
それに気づかず乃愛は熱く語り始める。
「照くん、キミのその推理力と、与えられた[探偵]というジョブは素晴らしいわ。
他には何もいいところがないキミだけれど、それだけで充分な魅力があると思うの」
「そ、それだけ……?」
「だって貴方って、チビで、貧相で、女みたいだし……。
男としての魅力は全くと言っていいほど無いでしょう?
そうね……[探偵]じゃなかったら、貴方なんて道端の石ころ以下の価値しかないわ」
「なぁっ……!」
「私は男性としての照くんに興味はない、探偵としての照くんにだけ興味があるの。
だから別に、貴方にとって私が二番でも三番でも構わないわ。
探偵の貴方の傍にいられればそれでいい。
その為だったら何でもしてあげる。
だから……ねぇ照くん、分かってくれるでしょ?」
「分かるか――っ!」
思わず叫ぶ照。だが乃愛は理解できないというように首を傾げる。
「……どうして? 何がダメなのかしら照くん? 世の中には財産目当てで付き合う女もいるんだし、別にジョブ目当てだって構わないでしょ?」
「構いますよ! 金目的もジョブ目的もダメ!」
「むー、ならキミも、私の体目当てだと割り切って付き合えばいいじゃない。私はそれで構わないわよ」
「じ、自分から体目当てって言うなっ!」
「ちなみに、私……まだ処女よ。危なかったけどギリギリ守り通せたわ(遠い目)」
「こ……この人は……」
あまりの乃愛の言い分に言葉を失う照。
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