5-7 我儘に生きて死んで――

「「「うぉおおおおおおおおおおっ!」」」


 周囲から割れんばかりの歓声が上がった。

 その歓喜の中で陽斗と清霞、蓮司は再会を果たす。


 陽斗は自分のマントを外すと、服がボロボロの清霞に被せてやった。

 清霞はそれを受け取りつつ、陽斗をジロリと睨みつける。


「陽斗……貴方、今までどこ行ってたのよ!」

「やあ清霞さん、久しぶり! せっかくの再会を祝して、久々にセックスでもしよっか?」

「ちょっ! 会っていきなり何言ってるのよ!」


 清霞は顔を真っ赤にして否定する。


「だいたいアンタのとヤッた事なんかないでしょ! 人聞きの悪い事言わないでよ!」

「……そだっけ? 一回くらいヤッたような気がするけど……」

「ヤッてない! 私は年下には興味ないって言ったでしょ!」

「あーそういえば! たしかクニミツのおっさんの事が……」

「わーっ! わーっ! 余計な事言うな!」


 陽斗と清霞の様子に、蓮司が呆れた声を上げる。


「久しぶりに帰ってきたと思ったら……お前ら仲良いな」

「「仲良くない『よ!』『けど?』」」


 二人は見事にハモっていた。





「す、すごい……あのドラゴンを一撃で……」


 戦いの様子を見ていた朝弥が、感嘆の声を上げる。


(だけどあの人……間違いない、陽莉の兄貴の陽ニィだ! まさか陽ニィまでこの世界に来ていたなんて……)


 そう確信した朝弥は、陽斗の下に駆け寄り声をかける。


「陽ニィ! 陽ニィだよな!」

「……あぁん? オレにお前みたいな弟はいないぞ? オレの兄妹は、胸がHカップにまで育っていると聞き、元の世界に戻ったら会いたい人ナンバー1になった陽莉だけだ」

「……あー、うん。やっぱり陽ニィだ……」


 呆れ顔の朝弥に、清霞が訊ねる。


「貴方達、知り合いだったの?」

「ええ、実は……」


 朝弥が答えようとしたそのとき――


「おーい! 陽斗兄ちゃん!」


 朝弥にとって聞き覚えのある声が、なぜか頭の上から聞こえてきた。

 見上げると空にグリフォンが旋回している。

 「ピィイッ!」と鳴いたグリフォンは、次第に高度を下げると陽斗の隣に着陸した。

 その背から照、乃愛、燐子の三人が降りてくる。


「陽斗兄ちゃん、助かったよ。この子を迎えに寄こしてくれて。お陰で二人を助けることができた……って、アレ?」


 照が陽斗に話しかけ、その途中に隣にいた朝弥に気付く。


「朝弥! 朝弥が何でここにいるのさ?」

「て……照ぅうううううううううっ!」


 心配し続けようやくの再会に、感極まった朝弥が照に抱き着く。


「わっぷ! ちょっ! 朝弥! やめ……」

「うぉおっ! 会いたかったよ照! 心配したんだからな! うぉおおおおおっ!」

「ぐへっ! だからやめ……やめろって言ってるだろ!」


 苦しくなった照が、思わず朝弥を突き放す。

 激しく押された朝弥は、そのまま尻餅をついてしまった。


「いってぇ! 何するんだよ照!」

「『何するんだ』はこっちの台詞だよ! いきなり抱き着かないでよね!」

「だって……心配してたんだぞ! 照の事が大切だから、無事で思わず喜んじゃったんじゃないか!」

「あー、またそういう事を言う……。やめてって言ってるでしょ?」

「なんだよ、好きな子に会えて喜んじゃダメだっていうのか?」

「……朝弥、その事なんだけどさ……」

「……? な、何だよ?」


 少し不安そうな顔をする朝弥に、照が重大な事実を告げる。


「ボク、異世界転移して男になっちゃったから」


「…………へ?」



エピローグ



 ――アインノールド城から少し離れた森の中。

 湖に向かう細道を、一人の少女が歩いていた。


「おのれ、イストヴィア公爵! これで負けただなんて認めませんわ!」


 その少女はアインノールド侯爵、ウェルヘルミナだ。


「湖の神殿の魔法陣で、もう一度隷属魔法を起動すれば……」


 まだ野望を捨てていない様子で、彼女は湖の神殿へ向かっていた

 足元には彼女の従魔であるスライムのブルーが、心配そうに付き添っている。


「プルルルル……」

「……大丈夫よ、ブルー。わたくしは負けませんわ、こんな事くらいで負けて……」


 その時、ドンッと背中に衝撃を感じ、続いて鳩尾が熱くなった。

 その感触に驚いたウェルヘルミナは、確認しようと自分の体に目を落とす。

 ――ウェルヘルミナの鳩尾から、剣の切っ先が生えていた。

 そのあり得ない光景に、ウェルヘルミナは目を見開く。

 痛みで小刻みに震えだす体を押して、自分の背中を確認すると――


 そこにいたのは緑色の肌に醜い顔をした、人間の子供のような大きさの魔物。

 いわゆるゴブリンだ。

 その小型の魔物が、剣を逆手に持ち、頭の上に振りかぶるようにして、ウェルヘルミナの背中に剣を突き立てていた。


「こんな……魔物なんかにわたくしが……」


 ブシュッ!と剣が引き抜かれると、血がスプレーのように吹き出し、そのままウェルヘルミナは力なく倒れこむ。

 ブルーが「ピィイイイッ!」と悲壮な泣き声を上げ、ウェルヘルミナの周りを飛び回る。

 だが――


 ゾロ……ゾロ……ゾロ……


 次第に集まり始めるゴブリン、その大群の様子に――


「ピ……ピィイイイイッ!」


 ブルーは情けない声を上げてその場から逃げて行った。

 残されたウェルヘルミナは息も絶え絶えで、多量の出血に最早助かる見込みもない。

 そんな彼女の横に立つゴブリンは、剣を振り上げ――


「嫌だ……わたくしは……負けな……」


 ――虫の息だった彼女に、無情な一撃が振り下ろされた。


 それが……我儘に生きたウェルヘルミナの最後だった。



 ――6話に続く。

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