5-7 我儘に生きて死んで――
「「「うぉおおおおおおおおおおっ!」」」
周囲から割れんばかりの歓声が上がった。
その歓喜の中で陽斗と清霞、蓮司は再会を果たす。
陽斗は自分のマントを外すと、服がボロボロの清霞に被せてやった。
清霞はそれを受け取りつつ、陽斗をジロリと睨みつける。
「陽斗……貴方、今までどこ行ってたのよ!」
「やあ清霞さん、久しぶり! せっかくの再会を祝して、久々にセックスでもしよっか?」
「ちょっ! 会っていきなり何言ってるのよ!」
清霞は顔を真っ赤にして否定する。
「だいたいアンタのとヤッた事なんかないでしょ! 人聞きの悪い事言わないでよ!」
「……そだっけ? 一回くらいヤッたような気がするけど……」
「ヤッてない! 私は年下には興味ないって言ったでしょ!」
「あーそういえば! たしかクニミツのおっさんの事が……」
「わーっ! わーっ! 余計な事言うな!」
陽斗と清霞の様子に、蓮司が呆れた声を上げる。
「久しぶりに帰ってきたと思ったら……お前ら仲良いな」
「「仲良くない『よ!』『けど?』」」
二人は見事にハモっていた。
*
「す、すごい……あのドラゴンを一撃で……」
戦いの様子を見ていた朝弥が、感嘆の声を上げる。
(だけどあの人……間違いない、陽莉の兄貴の陽ニィだ! まさか陽ニィまでこの世界に来ていたなんて……)
そう確信した朝弥は、陽斗の下に駆け寄り声をかける。
「陽ニィ! 陽ニィだよな!」
「……あぁん? オレにお前みたいな弟はいないぞ? オレの兄妹は、胸がHカップにまで育っていると聞き、元の世界に戻ったら会いたい人ナンバー1になった陽莉だけだ」
「……あー、うん。やっぱり陽ニィだ……」
呆れ顔の朝弥に、清霞が訊ねる。
「貴方達、知り合いだったの?」
「ええ、実は……」
朝弥が答えようとしたそのとき――
「おーい! 陽斗兄ちゃん!」
朝弥にとって聞き覚えのある声が、なぜか頭の上から聞こえてきた。
見上げると空にグリフォンが旋回している。
「ピィイッ!」と鳴いたグリフォンは、次第に高度を下げると陽斗の隣に着陸した。
その背から照、乃愛、燐子の三人が降りてくる。
「陽斗兄ちゃん、助かったよ。この子を迎えに寄こしてくれて。お陰で二人を助けることができた……って、アレ?」
照が陽斗に話しかけ、その途中に隣にいた朝弥に気付く。
「朝弥! 朝弥が何でここにいるのさ?」
「て……照ぅうううううううううっ!」
心配し続けようやくの再会に、感極まった朝弥が照に抱き着く。
「わっぷ! ちょっ! 朝弥! やめ……」
「うぉおっ! 会いたかったよ照! 心配したんだからな! うぉおおおおおっ!」
「ぐへっ! だからやめ……やめろって言ってるだろ!」
苦しくなった照が、思わず朝弥を突き放す。
激しく押された朝弥は、そのまま尻餅をついてしまった。
「いってぇ! 何するんだよ照!」
「『何するんだ』はこっちの台詞だよ! いきなり抱き着かないでよね!」
「だって……心配してたんだぞ! 照の事が大切だから、無事で思わず喜んじゃったんじゃないか!」
「あー、またそういう事を言う……。やめてって言ってるでしょ?」
「なんだよ、好きな子に会えて喜んじゃダメだっていうのか?」
「……朝弥、その事なんだけどさ……」
「……? な、何だよ?」
少し不安そうな顔をする朝弥に、照が重大な事実を告げる。
「ボク、異世界転移して男になっちゃったから」
「…………へ?」
エピローグ
――アインノールド城から少し離れた森の中。
湖に向かう細道を、一人の少女が歩いていた。
「おのれ、イストヴィア公爵! これで負けただなんて認めませんわ!」
その少女はアインノールド侯爵、ウェルヘルミナだ。
「湖の神殿の魔法陣で、もう一度隷属魔法を起動すれば……」
まだ野望を捨てていない様子で、彼女は湖の神殿へ向かっていた
足元には彼女の従魔であるスライムのブルーが、心配そうに付き添っている。
「プルルルル……」
「……大丈夫よ、ブルー。わたくしは負けませんわ、こんな事くらいで負けて……」
その時、ドンッと背中に衝撃を感じ、続いて鳩尾が熱くなった。
その感触に驚いたウェルヘルミナは、確認しようと自分の体に目を落とす。
――ウェルヘルミナの鳩尾から、剣の切っ先が生えていた。
そのあり得ない光景に、ウェルヘルミナは目を見開く。
痛みで小刻みに震えだす体を押して、自分の背中を確認すると――
そこにいたのは緑色の肌に醜い顔をした、人間の子供のような大きさの魔物。
いわゆるゴブリンだ。
その小型の魔物が、剣を逆手に持ち、頭の上に振りかぶるようにして、ウェルヘルミナの背中に剣を突き立てていた。
「こんな……魔物なんかにわたくしが……」
ブシュッ!と剣が引き抜かれると、血がスプレーのように吹き出し、そのままウェルヘルミナは力なく倒れこむ。
ブルーが「ピィイイイッ!」と悲壮な泣き声を上げ、ウェルヘルミナの周りを飛び回る。
だが――
ゾロ……ゾロ……ゾロ……
次第に集まり始めるゴブリン、その大群の様子に――
「ピ……ピィイイイイッ!」
ブルーは情けない声を上げてその場から逃げて行った。
残されたウェルヘルミナは息も絶え絶えで、多量の出血に最早助かる見込みもない。
そんな彼女の横に立つゴブリンは、剣を振り上げ――
「嫌だ……わたくしは……負けな……」
――虫の息だった彼女に、無情な一撃が振り下ろされた。
それが……我儘に生きたウェルヘルミナの最後だった。
――6話に続く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます