5-6 S級ドラゴンvsクローバーエッジ
*
――再び城外の戦場で。
巨大なドラゴンと対峙する乃愛と蓮司。
部下の騎士たちが民衆を先導し、ようやく安全な距離まで避難できた事を確認すると、二人は戦闘を開始する。
「出し惜しみはしないわ! 古代魔法レベル10[ラグナロク]!」
清霞が杖を構えてそう叫ぶと、ドラゴンの立っている地面に魔法陣が現れ、青白い炎が吹き上がった。
炎は巨大な柱となってドラゴンの体を包みこむ。
「グギャァアアアアアアアア!!!」
ジョブ[賢者]にしか使えない古代魔法、その最大レベルの魔法だ。
たとえSランクの魔物でも、直撃すればただでは済まない。
そこへ蓮司が追い打ちをかける。
「槍術スキル[ソニックダイブ]!」
槍を中段に構えたまま、体ごとドラゴンに突っ込んでゆく。
切っ先がドラゴンの左肩に当たった瞬間、衝撃波とともに肩口が抉れてはじけ飛んだ。
「グォオオオオオオオッ!」
さらなるドラゴンの悲鳴が上がった。
手ごたえを感じた蓮司がニヤリと笑う。と、そのとき――
――ドラゴンの口が大きく開かれ、鎌首をもたげて蓮司を狙う。
「――っ! このぉっ!」
ゴォオオオッ! と吐き出された吹雪のブレスを、体を捻って辛くも躱す蓮司。
そして慌てて距離をとった。
背後から清霞が声をかける。
「大丈夫? 蓮司!」
「ああ、心配ねぇ! このまま行くぞ! Sランクってもこれならオレたち二人で……」
そこで蓮司は言葉を失う。
清霞に返事を返したその一瞬、わずかに目を離した隙に、ドラゴンが姿を消していた。
「なっ? どこ行った!」
「上よ、蓮司!」
清霞の焦った声が響き、蓮司が空を見上げる。
そこには一瞬で上空へ飛びあがり、蓮司目掛けて猛スピードで落ちてくるドラゴンの巨躯があった。
――ズゥウウウウウウウウンッ!
蓮司を踏み潰さんとするドラゴンのスタンピング。
その巨躯からは考えられない軽やかな身のこなしだ。
「っぶね!」
斜め後方へ飛びあがり、何とか回避する蓮司。
だがそこへ――ブォンッ! と横薙ぎにされたドラゴンの尻尾が襲い掛かる。
まさかの追撃に対応できず、太さ1メートルもある尻尾が蓮司に直撃――!
「ぐぉおおおおおおおっ!」
――蓮司の体は高く舞い上がり、そのまま地面に叩きつけられた。
「れ、蓮司!」
蓮司の心配をする清霞だが、今の状況で助けに行く暇はない。
ドラゴンの攻撃はまだ終わらない。
「クワァアアアアアアアア!」
ひときわ甲高い鳴き声を上げたドラゴンの周りに、無数の魔法陣が浮かび上がる。
そしてその一つ一つから、清霞目掛けて巨大な氷の槍が打ち出された。
氷魔法[アイスニードル]の超多重攻撃だ。
「土魔法[アースウォール]!」
清霞は慌てて防御のためのスキルを使う。
だがドラゴンの魔法は、その膨大な魔力で強化され、一発一発が通常の[アイスニードル]の何十倍もの大きさだ。
それがまるで散弾銃のように打ち出され、土の壁はあっという間に削り取られる。
「きゃああああああああああっ!」
雨のように降り注ぐ氷の矢の雨に、清霞がたまらず悲鳴を上げた。
そして魔法が打ち尽くされた後――。
「はぁ……はぁ……こんな……」
致命傷は避けたものの、体のあちこちに傷を負い、服が破けた清霞の姿があった。
そのセクシーな様子は某戦艦擬人化ゲームの大破グラのよう。
そんな清霞に躊躇なく、ドラゴンは追撃せんと口を開く。
「――っ!」
清霞はドラゴンの様子に気付くも回避が間に合わない。
ゴォオオオオオッ! と、ドラゴンが吐いた吹雪のブレスが清霞を襲った。
*
その少し前――。
蓮司の攻撃により左肩口が抉られ、ドラゴンが二度目の悲鳴を上げた――。
それを見た周囲の騎士たちから「「「オオーッ!」」」という歓呼の声が上がる。
騎士たちに交じって戦闘を見ていた朝弥も、思わず手に汗を握る。
「す、すごい……あんな大きな魔物を相手に……」
「当然だろう、新入り!」
朝弥のつぶやきを聞きつけた仲間の騎士が答える。
「団長たちはかつてのSランク冒険者パーティ『クローバーエッジ』の元メンバー! そして今は、オレたち公爵軍最強の騎士と魔術師だからな!」
「『クローバーエッジ』……?」
「おうとも! 『愚連の騎士レンジ』に『静淑の賢者サヤカ』、そして『放蕩の勇者ハルト』。三年前、たった三人でSランクの魔獣ベヒモスを倒し、セーヌ王国を救った最強の冒険者パーティよ! 今回だってあのお二人がいれば、Sランクのドラゴンだって簡単に……」
だが誇らしげだった騎士の言葉は、そこで止まってしまった。
信じられないドラゴンの身のこなしから、蓮司が攻撃を食らってしまう。
「ああっ! 蓮司さん!」
「そ、そんな! 団長たちでも無理なのか? くそっ、あの三人が揃っていれば……。ハルト・セナ様がおられればこんな事には……!」
「……ハルト・セナ……?」
その聞き覚えのある名前に、思わず聞き返してしまった朝弥。
(セナは陽莉と同じ苗字……。
――瀬名陽斗、まさか本当に陽ニィなのか……?)
さらにドラゴンの魔法攻撃で、清霞が追いつめられる。
「さ、清霞さん、危ない!」
「くそぉっ! ハルト様さえいれば――」
そしてドラゴンが、清霞に向かって吹雪のブレスを――
*
(――もうダメ、殺られる!)
おもわず清霞は目を瞑った。
そこへ――
「おいおい、何諦めてんだよ、清霞さん」
――そんな軽口を叩きながら、いつの間にか清霞の横へ立つ男。
清霞が何者かを確認する前に、ドラゴンから吹雪のブレスが吐き出される。
「聖剣スキル[クアッドノヴァ]!」
男が剣を抜き素早く振るうと、一、ニ、三、四発の剣撃が放たれた。
剣撃は白く煌めく衝撃波となって、
一、ドラゴンのブレスを引き裂いて、
ニ、ブレスの威力を完全に殺し、
三、ブレスを吐いたドラゴンの口を直撃し、
四、追撃でドラゴンを仰け反らせた。
「ギャアアアアアアアアアッ!」
ブレスを上回る攻撃で押し切られ、ドラゴンはたまらず雄叫びを上げた。
それを行った男に、思わず目を見開く清霞。
「は……陽斗!」
「やぁ清霞さん、久しぶり」
ドラゴンのブレスを切り裂いた男――陽斗は軽く応える。
「は、陽斗、どうしてここに……!」
「それはまた後で。まだ戦いは終わってないよ」
「っ! そ、そうね」
「それじゃ清霞さん、次は氷の魔法を頼むよ」
「氷? スノードラゴンにそんなもの……」
「いいから。足元を狙って頼むよ」
「――っ! 分かったわ!」
陽斗の意図を汲み取り、清霞は詠唱に入った。
だがその詠唱が終わる前に、バサッとドラゴンが羽を広げる。
その行動でドラゴンが空へ飛び立つ気だとわかる。
(――ダメ、間に合わない!)
詠唱の終わらない清霞が、内心で焦った声を上げた。
ドラゴンが羽ばたきを始め、いざ空へ浮かび上がろうとしたその瞬間――
「槍術スキル[オメガストライク]!」
そんな声と共に、極太な白い閃光がドラゴンを襲った。
閃光はドラゴンの片翼を貫き、吹き飛ばす。
翼を失ったドラゴンはバランスを崩し、空へ舞い上がれずに地上に落ちる。
そのスキルの発射元には、先程吹き飛ばされたはずの蓮司が立っていた。
「蓮司さんナイス!」
「うっせーぞ、陽斗! 遅れてきていいとこだけ持っていこうとしたってそうはいくか!」
陽斗と蓮司が軽口を叩き合った。
そして、清霞の詠唱が終わる――。
「古代魔法[ニヴルヘイム]!」
その瞬間、ドラゴンの足元の大地が白く輝き、広域の氷のフィールドが出現する。
地面から凍てつく世界が具現化し、ドラゴンの足を凍らせた。
「グッ、グォオオオっ!」
ドラゴンは慌てて身じろぐが、足が地面に張り付いて動けない。
その様子を確認した陽斗が、ドラゴンへ向かって駆け出す。
そして地面を蹴り、体高10メートルはあるドラゴンの、さらに頭上高くまでジャンプした。
「聖剣スキルレベル10[グランドクロス]!」
ジョブレベルは10がMax、つまりこのスキルは[勇者]の切り札だ。
陽斗が十字に剣を振るい、輝く十字の剣撃が放たれる。
それは先ほどブレスを引き裂いた剣撃よりもはるかに大きく力強い。
ドラゴンは必死に身を躱そうとするが、足が凍り付いていて逃げられない。
「ギャアアアアアアアアアッ!」
断末魔を上げるドラゴン。
そして――十字に切り裂かれたドラゴンは、ズゥウンッと地響きをあげて倒れこんだ。
身躯を四つに分断されて生きているわけもない、陽斗たちの勝利だ。
「「「うぉおおおおおおおおおおっ!」」」
周囲から割れんばかりの歓声が上がった。
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