6-2 ファンタジーだ! ファンタジーな人たちがいるよ!

 あまりの乃愛の言い分に言葉を失う照。

 たまらず向かいに座った燐子に助けを求める。


「ねぇ燐子さん、助けてください。お願いですから、燐子さんからも何か言ってやってくださいよ。この人ちょっとおかしいんです。ガッカリ美人なんです」

「……ああ、何だ? 聞いてなかった」


 照と乃愛があれだけ騒いでいたにもかかわらず、やっと気づいた様子の燐子。

 そういえば燐子は馬車に乗ってからずっと静かに俯いていたと、照は気づいて心配になる。


「大丈夫ですか、燐子さん? 馬車に乗ってからずっと黙り込んでましたけど……?」

「すまない、ちょっと考え事をな。……爆弾魔の件、やはり考え直さなければいけないようだ」

「……爆弾魔の件?」


 照が尋ねると、燐子は真剣な表情で語り出す。


「私たちが巻き込まれた爆破事件の犯人――。

 その正体は姿を消した四人目の来訪者だとばかり考えてきた。

 だが清霞さんの話だと、私たち以外にさらに四人も、異世界転移とやらをした人間がいるという。

 だとしたらその中に本当の爆弾魔が紛れ込んでいるのかもしれないと思ってな……」


「は、はぁ……」


 急にまじめな話が始まって戸惑う照に、燐子は気付かず話を続ける。


「それにしてもウェルヘルミナはどこへ行ったんだろう? 彼女がいれば行方不明の来訪者がどんな奴だったか聞き出せたのに……」

「そ、そっすねー……」

「……見ていろ爆弾魔。刑事だったプライドにかけて、必ず捕まえてやる」

「…………」


 一人シリアスぶって、険しい表情を作る燐子に、照は――


(何だか燐子さんだけミステリーしてるなぁ……)


 ――そんな感想をもらすのだった。





 先を行く馬車の中で、そんなガールズトーク(?)が繰り広げられていたころ。

 その後を追う男だらけの馬車のキャビンの中では――。


「あっちの馬車は楽しそうだなぁ~。オレもあっちに乗りたかったのに……」


 そう不満を漏らしたのは陽斗だ。

 キャビンの中を見渡すと、ハァとため息をつく。


「何が悲しくて、こんな男ばかりで馬車の旅を……」

「オメーみたいな性欲魔人を女の群れに放り込むとか、そんな危険な事できるわけねーだろ!」


 乱暴な口調で切り返す蓮司。


「だいたい陽斗、テメェ二年近くも顔見せねぇで、いったい何処をフラフラしてやがったんだ?」

「ん~、まぁ、エロエロ……じゃなくてイロイロ?」

「お前……二年も女のケツ追っかけてたんじゃねーよな?」


 ジト目で睨む蓮司に、陽斗は胸を張って答える。


「追うならオレは、ケツよりも断然おっぱいだが?」

「そういう意味じゃねーよ! ったく、お前は全然変わってねーな」

「蓮司さんも変わってなさそうだな。まだ女性は苦手なままなのか?」

「ちっ、ちげーし! 苦手じゃなくて硬派だっつってんだろうが!」


 そんな仲の良い男子特有のノリで、旧交を温め合う陽斗と蓮司。

 そんな二人の会話に加わる事もなく、朝弥は馬車の隅で鬱々としていた。


(照……どうして男なんかに……)


 考えるのはもちろん照の事だ。


(小学生の頃に出会って、一目惚れで、それからずっと好きだったのに……)

(ずっと好きだって言い続けて、ずっと断られ続けて、それでもいつかきっと、オレの気持ちは伝わるんだって思い続けてきたのに……)

(どうして……どうしてなんだよ照……)


 一人思い悩む朝弥。

 特殊な悩みにすぐ答えが出るわけもなく、馬車の旅は続く。





 日が沈み、空が茜色から紫紺に染まるころ。

 イストヴィアへ向かう街道をゆく照たちの乗った馬車は、街道沿いにある小さな宿場町にたどり着いていた。

 

「今日はここまでね。この町で一泊して、また明日出発よ」


 清霞の一言で、一行はこの宿場町で宿泊することとなった。

 照たち七人と御者を含めた全員の部屋の取れる宿屋を探すと――。

 オフシーズンなのか、一件目の宿屋ですぐに人数分の空き部屋が見つかった。


 チェックインを清霞に任せ、宿屋のロビーで待つ他の仲間たち。


「朝弥、今日はここに泊まるんだってさ」


 手持無沙汰で待っている間、照が何気なく朝弥に話しかけたのだが……。


「…………」

「……朝弥?」


 暗い顔で何も答えない朝弥に、照は怪訝そうな表情をみせた。

 と、そこへ――


「だから言ったでしょ! もうこんな奴とは組んでいられないって!」


 ――そんな女性の怒鳴り声がロビーに響き渡った。

 驚いた照が辺りを窺う。

 照たちがチェックインを待つ宿屋のロビーには、もう一組の来客グループがいた。


(……何だろう? 喧嘩かな?)


 興味をひかれた照が、こっそり様子を伺う。

 全員が武器と防具で身を固めた、四人組の冒険者パーティだ。

 それも――全員が人間ではない様子。


(うわっ! ファンタジーだ! ファンタジーな人たちがいるよ!)


 内心で思わず歓喜の声を上げる照。

 どうやら彼らは喧嘩中のようだ。


「とにかくもう嫌なのよ! こんなチビと一緒にパーティを組むのは!」


 そう叫んだのはブロンドのストレートヘアの美女。

 耳が人より長く尖っている――エルフ族と呼ばれる亜人種族の特徴だ。

 エルフとは森に住み、人より二倍ほど長生きで、精霊魔法と弓術に優れ、全員が見目麗しいとされている。

 照がこっそり[探偵の鑑定眼]を使うと……。


――――――――――――――――――――

 名前:レイラ

 性別:女 年齢:36 種族:エルフ族

 状態:なし

 ジョブ:[森林衛士]

――――――――――――――――――――

【称号】

 [森の守り人][C級冒険者]

――――――――――――――――――――

【ジョブスキル】

 [精霊魔法レベル6][弓術スキルレベル2]

――――――――――――――――――――


 やはりあのエルフ族で間違いないようだ。

 ちなみに彼女のジョブは[森林衛士(レンジャー)]。

 これはエルフ族にのみ与えられる種族専用職で、エルフ族の得意とされる[精霊魔法]と[弓術スキル]を覚えることができる。


「す、すまない、レイラ殿を怒らせるつもりは無いのだが……拙者の何がそんなに気に食わないのだろうか……?」

「全てよ、全て! ドドンゴ、アンタの存在自体が我慢ならないのよ!」


 レイラというエルフの少女にに怒鳴られているのは子供のように小柄な男。

 小柄とはいえその体は屈強な筋肉で覆われていて、戦士として鍛えられている事が分かる。


――――――――――――――――――――

 名前:ドドンゴ

 性別:男 年齢:18 種族:ドワーフ族

 状態:なし

 ジョブ:[鍛冶士]

――――――――――――――――――――

【称号】

 [槌の使い手][C級冒険者]

――――――――――――――――――――

【ジョブスキル】

 [槌術スキルレベル5][鍛冶スキルレベル4][鑑定スキルレベル6]

――――――――――――――――――――


 照が鑑定するとやはり『種族:ドワーフ族』と出た。

 ドワーフとは人間の子供程度の身長しかなく、そのほとんどが生産系のジョブを与えられる職人気質の亜人だ。

 ちなみに生産系のジョブばかりだからと言って、彼らが戦えない種族というわけでは無い。

 小柄ながらも頑丈な体に、生まれつき[槌の使い手]という称号と[槌術スキル]を持っているため、むしろタンク役として高い戦闘力を持つ種族なのだ。


「もう沢山よ! ドドンゴ、貴方はこのパーティから出て行って!」

「ニ、ニャアァ……レイラっち、さすがに言いすぎニャンよ……」


 怒鳴るレイラを見かね、口をはさんできたのは仲間の少女だ。

 真っ赤な髪に猫耳、お尻から長い尻尾を生やし、動きやすさ重視なのか軽装で露出の多い恰好をしている。


――――――――――――――――――――

 名前:ミーナ

 性別:女 年齢:16 種族:猫人族

 状態:なし

 ジョブ:[猫闘士]

――――――――――――――――――――

【称号】

 [闇夜の住人][C級冒険者]

――――――――――――――――――――

【ジョブスキル】

 [猫格闘術レベル4][隠密スキルレベル5]

――――――――――――――――――――


 猫人族は猫の獣人だ。

 獣人とは人狼族、猫人族、兎人族、鳥人族、竜人族の五つの亜人の総称で、それぞれ人に獣の特徴を持った姿をしている。

 ちなみに彼女の猫人族という種族は、ネコ科の耳と尻尾を持ち、女性は猫のようにしなやかな身体能力を、男性は獅子のように強靭な肉体を、そして種族独特の格闘術を使う事で知られている。


「ドドンゴだって立派に役に立ってるニャンよ? 何がそんなに気に食わないニャ?」


 猫人族のミーナが諭すように話すが……。


「うるさいうるさい! とにかくもう私は限界なのよ! こんな奴と一緒にパーティを組むなんてもううんざりなんだから!」

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