6-3 いつにも増してヒステリックだったニャア……

「うるさいうるさい! とにかくもう私は限界なのよ! こんな奴と一緒にパーティを組むなんてもううんざりなんだから!」


 エルフ族のレイラはヒステリックに叫んで話にならない。

 そこでここまで黙って見ていた、パーティの一番年長であろう男が声を上げる。


「いい加減にしろ、レイラ! 何がそんなに気に食わないのか知らないが、同族としてお前の態度は見ていて恥ずかしいぞ!」


 レイラと同族だと言った彼は、長い銀髪に彫りの深い整った顔、そして確かにエルフ族の特徴である長くて尖った耳をしている。


――――――――――――――――――――

 名前:ロッド

 性別:男 年齢:42 種族:エルフ族

 状態:なし

 ジョブ:[弓術士]

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【称号】

 [森の守り人][B級冒険者]

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【ジョブスキル】

 [短剣術スキルレベル6][弓術スキルレベル8]

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 エルフとしては珍しく、ジョブが[森林衛士]ではなく[弓術士]となっている。

 そして他のメンバーが[C級冒険者]なのに、彼だけが[B級冒険者]の称号を持っていることから、やはり彼が一番強い、このパーティのリーダーなのだろう。


「なっ! ロッド、私と同じエルフのくせにドワーフなんかの味方をする気なの? こんなチビを!」

「だからそういう仲間を貶める発言をやめろと言ってるんだ!」


 レイラはリーダーであるエルフの男――ロッドにも食ってかかるが、彼に一喝されてしまった。


「レイラ、お前は少し頭を冷やせ。先に自分の部屋に行ってろ」

「うぅ~、もういい、分かったわよ! 覚えてなさい、ドドンゴ!」


 そんな捨て台詞を吐き、レイラはロビーから二階へ続く階段を駆け上っていった。

 残された三人の冒険者パーティメンバー。


「やれやれ、レイラっちはいつにも増してヒステリックだったニャア……」


 階段を駆けあがったレイラを見送って、猫人族のミーナが呆れたような声を上げた。

 それを聞きつけたドワーフのドドンゴが、ミーナに頭を下げる。


「すまないミーナ殿、拙者のせいで気を使わせていしまって……」

「何を言うニャ。今回のいざこざに関しては、悪いのはレイラのほうニャよ。普段はここまで我儘な子でもないのに、ドドンゴに対してだけあんな……いったいどうしたのかニャア?」

「レイラ殿はエルフなのだから、ドワーフである拙者を嫌うのも仕方のない事ではないのか?」


 そんなドドンゴの指摘に、リーダーのロッドが口を挟む。


「おいおい、エルフとドワーフの確執なんて何百年も昔の話だろう。同じエルフのオレから見ても、あのレイラの態度は異常だよ」


 そう言い眉をしかめるロッドの表情には、リーダーとしての苦慮がありありと出ていた。

 大きくため息をついて言葉を続ける。


「今回の事はいくら何でも目に余る行為だ。レイラはあまりにパーティというものをないがしろにし過ぎている。もしレイラがどうしてもドドンゴをパーティから外せと言うなら、オレとしては彼女の方を外したいくらいだ」

「ニャッ! それは困るニャッ! ウチとレイラっちとは前のパーティからの付き合いニャ! それに彼女が辞めたらパーティに魔法を使える人間が居なくなってしまうニャよ! 特にウチら猫人族は魔法の使えない種族だから、魔法の使える仲間は大事にしてるニャ!」

「分かってる、だから今、何とか関係を修復しようとしているんじゃないか」


 軽く言い合いになるロッドとミーナの様子に、ドドンゴが再び頭を下げる。


「すまない二人とも……やはり拙者のせいで……」

「だからドドンゴのせいではないと言ってるだろう。キミにはいつも感謝してる。鍛冶師であるキミがいてくれるおかげで、我々は装備品に不自由することなく戦えているのだから」


 そうフォローを入れるロッドに、ミーナはうんうんと頷き肯定する。


「そうニャそうニャ。それよりドドンゴこそ大丈夫かニャ? あれだけ悪態をつかれ続けてたら、嫌になって『パーティを抜けたい』だなんて言い出さないかニャ?」

「それなら大丈夫だ。拙者は何があってもこのパーティを抜けるつもりはない」

「それなら安心ニャ。あとはレイラっちがもう少し温和な態度をとってくれればいいんだけど……」


 大きくため息をつくミーナ。


「あの様子じゃなかなか難しそうだニャア……」

「そうだな……。まぁ暫くは様子を見よう。明日になればコロッと機嫌が直っているかもしれないしな。それじゃオレたちも、今日のところはこれで解散としよう。あとは各自自由行動だ」


 リーダーのロッドがそう決断し、ミーナとドドンゴもそれに従う。


「じゃあウチも部屋で休むニャ。ドドンゴは?」

「拙者は近くの武器屋でも見て回ろうかと思っている」

「オレは軽く酒でも飲むか。この宿屋の食堂でも酒が出るようだし」


そうして冒険者パーティは散会した。


(スゲー! エルフにドワーフに獣人! 定番のファンタジー種族が勢ぞろいだよ!)


 野次馬根性で冒険者パーティの様子を伺っていた照は、心の中で喜びの声を上げていた。

 散会したパーティのうち、獣人の少女が階段を上り客室のある二階へ、エルフの青年がロビーの隣にある食堂へ。

 残りのドドンゴと呼ばれていたドワーフの男が、宿屋の外へでようとロビーを横切って玄関近くにいる照たちの方へ歩いてくる。

 そして照とすれ違う距離までやってきたそのとき、ドドンゴの目が照の腰にある剣に向けられた。

 そして目を見開き、驚きの表情を見せるドドンゴ。


「お、おいお主! その剣を拙者に見せてくれ!」

「へ? コレ?」


 突然話しかけられた照は戸惑い、ドドンゴの指した腰の剣に目を落とす。

 それは魔の森の廃墟で拾った[光の属性剣]だ。

 照は「まぁいいか」と、ベルトから鞘ごと外してドドンゴに渡す。


「おお……これは素晴らしい……」


 その剣に施された秀麗な装飾に、ドドンゴは感嘆の声を上げる。


「この装飾の様式は三百編ほど前に流行ったラディンスタイルだな。細部にまで行き届いたこの細工は、まさに芸術品、職人技と言わざるを得ない。どれどれ、鑑定してみるか……。[光の属性剣]……刀身に光魔法がエンチャントされているのか。この素晴らしい細工に光の演出……なるほど、素晴らしい芸術品だ! だがしかし……」


 次第にドドンゴが声を荒げ始める。


「……何だこの錆びは? これほどの芸術品を錆びさせて、なおかつ普段使いしているだと? おいお主! いったい何を考えて、これを腰につけている!」

「えっ? いやその……ごめんなさい……?」


 怒られて訳も分からず謝る照に、その様子で正気に戻るドドンゴ。


「い、いや、拙者こそすまない。

 あまりの細工の美しさに、つい我を忘れてしまった。

 いくら観賞用とはいえ剣は剣、実用する行為が悪いわけではないからな。

 だが……ぐぬぬ、あまりに粗末な扱いを……!」


 どうやらドドンゴというドワーフは、相当の武器マニアのようだ。


「そ、そうだ! お主頼む、せめて拙者に、その錆びを落とさせてもらえないだろうか?」

「へ? 錆びを? ……いやまぁ、落としてくれるって言うならお願いしたいけど……」

「そ、そうか! では今日一晩、この剣を預からせてくれ! 明日の朝にはピカピカにしてお主に返そう! それでいいな?」

「わ、わかったよ……」


 勢いに押されて頷く照。


「よし、決まりだ! では早速錆落としをしてこよう! うぉおっ、楽しみだ! 本来の輝きを取り戻したこの剣の姿が!」


 ドドンゴはウキウキした声でそう言い残すと、踵を返して客間へ続く階段を昇って行った。


「な……何だったんだ今の……?」


 呆れた様子を見せる照。そこへ――


「お待たせー、チェックインが終わったわ」


 清霞がフロントカウンターから戻ってきた。


「泊りはそれぞれ個室になるから。はい、みんな鍵取りに来て」


 そう言い客室の鍵を順番に配り始める清霞。


「…………」


 朝弥は鍵を受け取ると、無言のまま客室のある二階に向かう。


「……朝弥……アイツ……」


 その姿を目で追う照は、眉をひそめて何とも言えない表情をしていた。





 ――その夜。


(――っ! くそっ! オレは一体どうすればいいんだ?)


 朝弥は宛がわれた客室で、答えの見えない悩みに一人悶々としていた。


(好きな女の子が男になっただなんて、そんなのどうすりゃいいんだよ?)

(こんなの……どう向き合っていいのかすら分からないじゃないか……)


 そこへ、コンコンッと客室のドアがノックされた。


「ねぇ朝弥、中にいるの?」


 その声の主は、照だ。

 今一番会いたくない相手に、朝弥の心臓がドキリと跳ね上がる。


「朝弥……少し話があるんだけど、いいかな?」

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