6-5 十分間の盗難事件(捜査編)

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※)6-4を投稿し忘れて、6-5の内容を先に投稿してしまっていたようです。

 申し訳ありませんが、改めてひとつ前の「6-4 大っっっっっっ嫌いだっ!」を読んだ後に、この「6-5 十分間の盗難事件(捜査編)」を読み直していただけるようお願いします。

 注意不足で本当にすみません……m(_ _)m

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 その女性の叫び声は頭の上――つまり二階から聞こえてきた。

 照と朝弥が慌てて二階に向かうと、とある客室の前の通路で、昨日の冒険者パーティが言い争いをしていた。


「いいから返しなさいよ、このチビ!」

「そう言われても……拙者にはいったい何の事だか……?」


 昨日同様、エルフのレイラがドワーフのドドンゴを怒鳴りつけているようだ。

 猫人族のミーナが慌てて仲裁に入る。


「ま、待つニャ、レイナっち! いきなり泥棒と言われても分からないニャ、いったい何があったのか、ちゃんと説明するニャよ」

「だから盗まれたのよ! 私の付けていた『世界樹のネックレス』が!」

「ネックレスって……いつも身につけているあのお守りかニャ? たしかにそれは大変だけど、でもそのくらいで、そこまで怒らなくたっていいじゃニャいか」


 軽く窘めるかのようなミーナの台詞に、レイラは目をむいて突っかかる。


「そのくらいじゃないわよ! あれは私の部族が村の外に出るときに身につけていなきゃいけない物なの! 失くしたら村に戻らなきゃいけないのよ!」

「って、ええー! そんなに大事なものだったのかニャ?」


 どうやら無くなった『世界樹のネックレス』というものは、相当大切なものだったらしい。

 ミーナが焦った声を上げ、その言葉を聞いてドドンゴも驚く。


「な、なんと! あの女神のネックレスが、そこまで大切なものだったとは……!」

「しらばっくれないでよ、ドドンゴ! 貴方知ってて盗んだんでしょ!」

「い、いや全く知らなかったが……ロッド殿、あのネックレスはそんなに有名なものなのか?」

「いや……エルフ族の中でも珍しい部族のしきたりだからな。同じエルフのオレも何となく聞いたことがあった程度だ。世間的には知られていないんじゃないか?」


 困ったドドンゴがリーダーのロッドに尋ねるが、レイナの『村の外に出るときに身につけていなきゃいけないネックレス』というのは、どうやら同族の彼ですらあまり知らないマイナールールのようだ。


「ともかくレイナっち、ドドンゴを犯人だと決めつけるのはやめるニャ」


 ミーナが宥めようと必死だ。


「そもそもパーティメンバーを疑うのがおかしいニャ。ただの泥棒の仕業じゃないのかニャ?」

「ただの泥棒って、誰があんなものを盗むのよ!」

「あんなものって……世界樹が素材なら、盗めば高く売るんじゃないかニャ?」


 ミーナが疑問を投げかけると、それにロッドが――


「世界樹は珍しいけど、所詮は木だからな。ネックレスに使われる程度の大きさだと、何の素材にもならないだろう。せめてこの弓くらい大きい素材でなければ価値はないだろうな」


 ――と、自分の弓を取り出してそう答えた。

 ちなみに、照がまたしても野次馬根性的に鑑定をしてみた結果――


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[世界樹の弓]

 世界創成から存在すると言われる大樹、世界樹の枝から作られた弓。

 世界樹は火で燃えないため、この弓も火に耐久性がある。

 放った矢に風属性を与え、飛距離を倍に延ばす。

 効果:攻撃+45 風属性付与 飛距離倍化

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 ――相当の業物のようだった。


 冒険者パーティの言い争いが続く中、それを見ていた照は――


(こういう他人の揉め事には、首を突っ込まない方がいいんだろうけど……でも、これってレベルアップのチャンスだよね?)


 ――と、そんな事を考え始めた。


(今まで事件を解決する度に[探偵術]というジョブスキルのレベルが上がってきた。

 現在のレベルが5、あとレベルを5つ上げればレベルMaxになる。

 そしてレベルがカンストすれば……新しいジョブがもらえる!

 つまり――ボクにもまだチートでハーレムのチャンスがあるじゃないか!)


 そこまで考えて照は――

(……って、いやいや待って。今は陽莉がいるから、ハーレムはいらないんだった……)

 ――と、慌てて考えを改めた。


(そう、ハーレムはいらない、でも……。

 やっぱりチートは欲しいよね、だって男の子の夢だから!

 新しいジョブのゲットを目指すのは悪い事じゃないはず!

 そのためにはまず、この事件を解決して……って、ちょっと待って)


 そこで照はふと弱気になる。


(事件解決って言っても、ボクにそんな事できるのかな……?

 そりゃこの異世界エスセリオに来てから、二つほど事件を解決してきたけど……。

 でもそれって運がよかっただけって感じなんだよなー……。

 だからまた同じように事件を解決しろって言われても……自信ないよね……)


 そうして悩みだす照。

 だが――(いや、そんな弱気じゃだめだ!)――と考え直した。


(そんな事言ってたらいつまでたっても[探偵]はやめられない!

 ダメで元々、男は度胸!

 失敗したところで死んじゃうわけじゃないし、やってみる価値はある!

 だからここは――!)


 そして照は決意した。

 そんな悩める照の横では――


「だからこのチビ以外に犯人は考えられないの! 早くコイツを追放してよ! でなきゃ私が辞めるから!」

「お、落ち着くニャ、レイナっち!」

「そうだぞレイナ! ひとまず落ち着け!」

「すまない皆……拙者のせいで……」


 レイナがさらにヒートアップし、収拾がつかなくなってきていた。

 その時――


「ちょっと待ったぁ!」


 ――そう叫び、まっすぐ手を上げると争う冒険者の間に割って入る照。

 突然の乱入にポカンと呆れた顔をする冒険者パーティ。

 そして、「お、おいっ、何やってんだよ照!」と、慌てる様子の朝弥を尻目に――


「その揉め事、ボクが解決して見せましょう!」


 ――照はそう言い放ったのだった。





 レイラの泊まっている客室に、捜査の名目でやってきた照。


「そのネックレスというのは、この引き出しに入ってたんですね?」

「そ、そうよ! 昨日寝る前にココにしまって、今朝見たらなくなっていたのよ!」


 備え付けのテーブルの引き出しを開きながら照が尋ねると、イライラした様子のレイラが、クローゼットの中を探しながらそう答えた。

 照は引き出しを引き出しを占めて机の上に目を移す。

 そこにはバッグと財布、それに魔法の杖が置かれていた。


「まったく……どうしてこんな奴に捜査なんて……」


 手を止め不満を漏らすレイラに――


「あら? 私の命令がそんなに気に食わないの?」


 そう言ったのは、部屋の扉の前に立って、こちらを監視している清霞だ。

 あれから騒ぎを聞きつけ起きてきた清霞に、照が状況を説明すると、『面白そうね』と捜査に協力してくれる事となった。

 ちなみに残りの四人――乃愛、燐子、陽斗、蓮司は、まだ起きてきていない。


「さ、サヤカ様! いえ、滅相もありません!」


 慌ててレイラは居住まいを正し、部屋の中の捜索を再開した。

 清霞は数少ないS級冒険者であり、かつて国を救った英雄の一人であり、今は軍のお偉いさんだ。

 レイラが畏まるのも無理はない。


「そう、それじゃ捜査を続けなさい、照くん」

「わ、分かりました。それじゃレイラさん、ちょっと質問させていただきますけど……」


 清霞に急かされ、照がレイラに問いかける。


「昨日この引き出しにネックレスを入れてから、この部屋を離れたのはいつ、どのくらいの時間ですか?」

「それは……今朝のお祈りで10分ほど外に出ていたけど、それくらいかしら? あとはずっと部屋にいたわ」

「じゃあ盗まれたとしたらその10分間ですね。……というか、ホントに盗まれたんですか? 部屋の中をよく探しました?」

「だから今、探してるでしょ? でもどこにも見当たらないじゃない!」


 レイラが苛立たしげにそう答える。と、そこへ――


「すみません、いいですか?」


 ――と、廊下の外から声がかかった。

 そこにいたのは、宿屋の制服を着た従業員の女性だ。


「従業員総出で、空き室と冒険者の方々の部屋の中を調べましたが、そのような木のネックレスはありませんでしたよ? あとはまだ起きてきていないお客様の部屋だけですが……」


 捜査に協力してくれた従業員がそう報告してくれた。


「ああ、それなら大丈夫、ボクらの仲間は犯人じゃありませんから」


 照がそう答えると、清霞が驚いた表情を見せる。


「へぇ……照くん、犯人じゃないって言いきるって事は、何か根拠があるのかしら?」

「ええ、清霞さん。ボクたち一行にはアリバイがありますからね」

「アリバイ?」

「はい、清霞さん。実は事件の前、ボクは部屋に戻るレイラさんと、階段ですれ違っているんです。覚えてませんか、レイラさん?」

「……ああ、そういえば階段で挨拶したわね」


 思い出したようにレイラが答えた。照が続ける。


「だけどその挨拶の前、ボクは朝弥の部屋の前にいました。起こすかどうか十分ほど悩んで、最終的にドアをノックして留守だと分かったんですけど……」

「で、それがなんだっていうの?」


 尋ねるレイラに、照が答える。


「ネックレスが盗まれた時間は、今朝レイラさんがお祈りで部屋を離れた十分間――。

 その犯行時刻である十分間、ボクは朝弥の部屋の前にいたんです。

 ボクたちが泊まった部屋の間取りを思い出してください。

 二階の客室フロアは、ラウンジから左右に分かれていて、右側のフロアに冒険者パーティの皆さんが、左側のフロアにボクたちの仲間が泊まった部屋があります。

 ボクが朝弥の部屋の前にいる時間、同じフロアにある仲間全員の部屋のドアが見える状態でした。

 そしてそこにいた十分間、部屋から出てくる人も部屋に戻って来る人もいませんでした。

 つまり――」


 照がそこまで説明すると――

「つまり貴方が連れ全員のアリバイの証人という事ね」

 ――と、納得した様子でレイラが台詞を引き取る。


「だから貴方たちの中に犯行を行える人はいなかった、というわけね」

「まぁ、あくまでボクの主観では、ですけどね。ボクが嘘をついていると疑われたら、証明できる手段はありません」

「……別に疑ったりしないわ」


 そう言うとレイラは肩を竦める。


「だって犯人はドドンゴで決まりだもの。私はドドンゴ以外疑ってないわ」

「そう決めつけていいとは思いませんけど……」


 照は苦笑いをしながらレイラの言葉を受け取る。


「でも、従業員はそれぞれ早朝から仕事中でお互いのアリバイが主張できるようですし、犯人がいるとすればやはりレイラさん達冒険者パーティの中しか考えにくい状況ですね」


 そんな会話を続けながら、照とレイラの二人は、レイラの泊まった部屋の中を徹底して家探ししたのだが――結局何も見つからなかった。

 もうここには何もないだろうと、探すのをやめてラウンジへ移動する二人と清霞。

 そこで朝弥と、他の冒険者パーティの三人と合流した。


「宿屋の従業員さんにも手伝ってもらって、他の三人の身体検査をさせてもらったけど、何も見つからなかったよ」


 ラウンジで待っていた朝弥がそういうと、照は満足そうに頷く。


「やっぱり。それじゃ決まりだね」

「決まりって……何かわかったのか?」


 首をかしげる朝弥に、照が答える。


「ああ、スキルじゃ見えない真実が見えたよ」

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