6-6 十分間の盗難事件(解決編)

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※)前回6-4を投稿し忘れて、6-5の内容を先に投稿してしまっていたようです。

 申し訳ありませんがまだ読んでいない方は、先に「6-4 大っっっっっっ嫌いだっ!」を読んで、できれば「6-5 十分間の盗難事件(捜査編)」も読み直していただければと思います。

 特に6-4は六章の割と重要な話になるので、読み飛ばすと意味が分からなくなる可能性が大です……。

 注意不足でご迷惑をおかけして本当にすみません……m(_ _)m

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 冒険者パーティの四人に、照と朝弥、清霞、それと数名の従業員。

 関係者が揃った二階のラウンジで――。


「それで……何が分かったのかしら?」


 清霞が照に尋ねてくる。


「もしかしてもう犯人が分かったとか?」


「いえ、その前に確かめたいことがあるので、先にネックレスの在処を探しましょう」


 照の言葉に、ザワッと驚く一同。


「ネックレスが何処にあるか分かったのか? いったい何処だ?」


 リーダーのロッドの疑問に、照が答える。


「まず前提として、容疑者である冒険者の皆さんは、事件発覚時に全員この二階にいました。

 だとしたらネックレスを二階から一階へ運び出すチャンスはなかったはずです。

 ですが従業員の皆さんがこれだけ探しても出て来ない。

 それは何故か?

 もしかしたら窓から投げ捨てたのかもしれない。

 ですが一つだけ、可能性のある隠し場所があります。

 従業員の皆さんが探していないであろう場所、それは……」


 そして照が向かったのは、ラウンジの壁に設置された薪ストーブだ。

 照は傍にあった火ばさみを持つと、薪が燃やされている炉の中に突っ込み、中をガサガサとかき回す。


「あっ! あったよ!」


 そうして照が燃え盛る火の中から火ばさみを引き抜く。

 その先には丸い木の塊が挟まれていた。

 その硬貨ほどの大きさの木の塊は、おそらく人の顔をモチーフにした彫り物だ。

 おそらくという副詞がつくのは、キュビズムを彷彿とさせる奇抜なデザインだから。

 その顔のようなものには木の皮で編まれた紐が繋がっている。

 顔の彫り物の部分がペンダントで、紐がネックレスになっているようだ。

 照が[探偵の鑑定眼]を使ってみると――


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[世界樹のネックレス]

 女神を模したデザインのネックレスで、素材は世界樹の木と皮。

 リレイリというエルフの村で作られ、この村のエルフは外に出る際はこれを身に着けていなければならないと掟で決められている。

 わずかではあるが世界樹の加護を持ち、厄災を退けてくれる効果がある。

 効果:幸運値+5

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(やっぱり……これで決まりだね)


 鑑定結果を見た照は、自分の推理に間違いがないことを確信した。


「ああっ! 私のネックレス!」


 レイラは思わずネックレスを指さしてそう叫んだ。

 そしてネックレスを炉から取り出す様子を見ていたミーナが疑問を呈する。


「な、何でそんなところにネックレスがあるニャ? 何で燃えてないニャよ?」

「燃えてないのは素材が世界樹だからだな。世界樹は普通の火じゃ燃えないんだよ」


 ロッドがそう答え、さらに一人で納得する。


「だが確かに、普通の人間はそんな事を知るはずもないから、まさか木のネックレスが暖炉で燃えずに残っているとは考えないだろうな。探したとしても燃え残りがあるかどうか覗くくらいで、火の中まで探そうとは思わなかっただろう」

「ニャ、ニャンと! そういう事だったのかニャ」


 そんなロッドとミーナには目もくれず、レイラはドドンゴに食ってかかる。


「残念だったわね、ドドンゴ! ネックレスを燃やそうとしたみたいだけど、世界樹は燃えないのよ! 知らなかったでしょ?」

「ま、待ってくれ! 拙者は何もしていないぞ!」

「嘘つかないでよ! アンタは私を追い出したくて、こんな暴挙に出たんでしょ? このネックレスがないと私は掟で家に帰らなきゃいけなくなるって知って!」

「だから先ほども言っただろう! 拙者はそんな掟は知らなかったと!」


 慌てて否定をするドドンゴ。だが――


「……いえ、ドドンゴさん。貴方は知っていたはずですよ、その掟を」


 ――照がそう口を挟んだ。


「ドドンゴさん、貴方は言ってましたよね?

 このネックレスの事を『女神のネックレス』って。

 だけどこれ、どう見ても女神には見えませんよ。

 ドドンゴさん、どうしてこれを『女神のネックレス』と呼んだんですか?」


 その言葉にドドンゴが驚愕の表情を作る。


「そ、それは……」

「その理由は、『このネックレスを鑑定したことがあるから』でしょ?」

「――っ!」

「ネックレスを鑑定すると、このネックレスが女神を模して作られていることや、村の掟の事も書かれています。ドドンゴさんがネックレスを鑑定した事があるとすれば、モチーフが、女神である事や、村の掟の事も、貴方は知っていたはずですよ」

「そ、それは……」


 言い淀むドドンゴに、レイラが喜々として言い募る。


「やっぱり! やっぱりアンタが犯人じゃない! この嘘つき!」

「いいえ、レイナさん。それも違いますよ」


 レイナの言葉を否定する照。


「むしろ掟の事を知っていたからこそ、ドドンゴさんは犯人じゃあり得ないのです」

「ど、どういう事よ、それ?」


 混乱するレイラに、照が丁寧に説明する。


「確かに掟の事を知っていたのなら、ドドンゴさんがネックレスを処分して、レイラさんを追い出そうとしたという動機は成り立つかもしれません。

 ただ、その手段として火の中にネックレスをくべるというのは、ドドンゴさんの場合はあり得ません。

 だって……ドドンゴさんは、世界樹が燃えないことを知っていたんですから」


「なっ! それは……」


 レイラが戸惑いの声を上げる。


「……もしかしてネックレスの鑑定結果に、世界樹が燃えない事も載っていたの?」


「いいえ、ネックレスの鑑定ではそこまで分かりませんでした。

 でも、ドドンゴさんには別の鑑定結果から、その事を知る機会はあったはず。

 それは……ロッドさんの弓です」


 自分の名前が出て、思わず声を上げるロッド。


「オレの弓?」


「ロッドさんの弓も世界樹の枝から作られています。

 そしてその鑑定結果には、世界樹が燃えない事が書かれていました。

 ドドンゴさんは、これまでに弓の鑑定をしているはずです。

 だって、ボクの持っていた[光の属性剣]に、あれだけ興味を惹かれるくらいの武器マニアなんですから」


 照の指摘に、ロッドは「ああ……」と納得の声を上げた。


「……なるほど、それは確かに。ドドンゴならやるだろうな」


「弓の鑑定をしていたのなら、世界樹が燃えない事を知っていたはず。

 なのでもしドドンゴさんが犯人の場合、ネックレスを燃やそうとはせず、処分するのに他の手段を考えたはずです。

 例えばその窓から外に捨ててしまうとか?

 宿屋の裏手は川になっていますからね、投げ込んでしまえば流されて回収することはできなかったでしょう。

 でもそうはしなかった、何故か?

 理由は犯人が燃えない事を知らなかったか、ネックレスを処分する気がなくただの悪戯のようなものだったか、そのどちらかでしょう」


「――悪戯! そう、それよ!」


 その言葉を聞きつけたレイナが喜色を表す。


「私を追い出そうとまではしないにしても、嫌がらせでネックレスを隠したんだとしたら? それならドドンゴにも動機ができるじゃない!」

「いや、それもあり得ませんね」


 だが照がそれを即座に否定した。


「ただの悪戯や嫌がらせなら、別にネックレスを選ぶ必要はありません。

 レイナさんの部屋を見たとき、机の上には鞄や財布、魔法の杖など、失くしたら困りそうなものが他にもたくさんありました。

 なのに犯人はそれらに目もくれず、引き出しにしまってあったネックレスをわざわざ探し出して犯行に及んでいます。

 それもレイラさんがお祈りで部屋を空けた僅か十分の間に、ですよ?

 つまりこの犯人は単なる悪戯目当てではなく、ハッキリとした目的をもってネックレスを持ち出したという事です」


 その指摘にレイナが戸惑う。


「じ、じゃあ、いったい……」

「『レイラさんをパーティから追い出すためネックレスを燃やそうとした』、これが今回の犯人像です。これにドドンゴさん当て嵌まりませんでした。では他の人はどうでしょう?」

「……他の人?」


「ここでドドンゴさん以外の人にも目を向けてみましょう。まずはロッドさん」

「っと、なんだ?」


 いきなり名指しされて慌てるロッド。


「ロッドさん、貴方は世界樹が燃えないことを知っていましたね?」

「あ、ああ。そんな事、エルフなら知らない者はいないだろう」

「だったらネックレスを燃やそうと、炉の火にくべるわけがありませんね。悪戯目的説はすでに否定されていますから、これでロッドさんは容疑者から外れます」

「……当然だな、オレは犯人じゃないのだから」


「では次に……ミーナさん」

「は、はいニャ!」


 ミーナは硬い表情で返事をする。


「ミーナさんは、世界樹が燃える事を知りませんでしたよね?」

「は、はいニャ」

「つまりパーティメンバーの中で唯一、ペンダントを燃やそうとしかねない人物だという事ですよね?」

「は……はいニャ……」

「ですが貴方は、エルフの掟のことは知らなかった、そうですよね?」

「そ、そうニャ……」

「だとしたら貴方にとって、あのネックレスはただの木の工芸品で、わざわざ燃やす価値は無い。そうですよね、ミーナさん?」

「そ、そうそう! その通りニャ!」

「ではこれで、ミーナさんも犯人ではないことが証明されました」

「ホッ、良かったニャア」


 その結論に――

「ちょっと待って。 誰も犯人じゃないなら、いったい誰がこんな事をしたのよ?」

 ――清霞がそう疑問を投げかける。


 続いてレイラも照に向かって尋ねる。


「やっぱりドドンゴね? ドドンゴが犯人なんでしょ!」

「違いますよ、レイラさん。この三人以外にも、まだ容疑者がいるでしょう?」

「よ、容疑者? 誰なのよいったい……?」

「それは……」


 照は少し逡巡すると、まっすぐレイラを見つめて告げる。


「レイラさん、貴女自身です」


 その照の指摘に、レイラだけでなく周りの人間もザワッと騒めいた。


「な、何で私が犯人なのよ! 私がそんな事して、何の得があるっていうの?」


 犯人だと名指しされたレイラは、顔を真っ赤にして照に迫った。

 照は慌てる様子もなく答える。


「動機なら簡単です、ドドンゴさんをパーティから追い出すためですよ。

 自作自演で問題を起こして、それをドドンゴさんの犯行に見せかける。

 それがこの犯行の動機――そう考えればわざわざネックレスを選んだ理由もわかります。

 ネックレスなら『犯人が燃やそうとしたけど燃え残った』という言い訳もできますからね。

 これが財布や杖など、他のものだと手元に戻ってくる理由が作れませんから」


 その答えに一層慌てた様子のレイナ。


「なっ! ち、違う! 私じゃない!」

「ですが動機と手段が揃っているのは、レイラさん、貴女だけですよ」


 照の畳みかけに、周囲の者たちの騒めきが大きくなる。

 ロッドがパーティのリーダーとして、一歩前に出てレイラを問い詰める。


「どうなんだ、レイラ? この少女……じゃなかった、少年の言っていることは本当なのか?」

「ち、違うわ! 私は何もやってない! 私が犯人だって証拠でもあるの!」


 レイラがそう言うと、照は困ったように頬を掻く。


「証拠ですか……一応あると言えばあるんですけど……皆さん、指紋ってわかりますか?」

「指紋……指先の模様の事か? 一人ひとり違っているから、犯人の特定によく利用されるらしいが……」


 ロッドのその答えに、照はホッと胸をなでおろす。


「よかった、この世界にも指紋という文化はあるんですね、なら話は早い。

 窃盗事件として警察――じゃなくて衛兵を呼んで、この暖炉……じゃなくて薪ストーブ?

 ともかくコレを調べてもらってください」


 そう言い照は、ネックレスが投げ込まれていた薪ストーブを指さす。

 [探偵の鑑識眼]を使う照の目には、ストーブに何色もの指紋が見えていた。

 触った人ごとに色の違う指紋を鑑定していき、目当ての人間の指紋があった事に満足げに頷くと、照は話を続ける。


「このストーブには何人もの指紋がついています。

 そのほとんどがこの宿屋の従業員のものですが、ただ一人だけ部外者の指紋がありました。

 それが――レイラさん、貴女の指紋です。

 このストーブに触ったのは、従業員を除けば貴方だけ。

 なら炉のドアを開けてネックレスを放り込めたのも、レイナさんだけという事になります。

 このことは詳しく調べてもらえばいずれ分かる事ですよ」


「う……うぅ……」


 何も言い返せずに黙り込むレイラ。

 そして――


『事件解決によりジョブスキルがレベルアップします』

『[探偵術]が5から6にレベルアップしました』

『アクティブスキル[探偵の偽装工作]を取得しました』

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