6-7 あれだけシリアスに悩んでたじゃないか!
『事件解決によりジョブスキルがレベルアップします』
『[探偵術]が5から6にレベルアップしました』
『アクティブスキル[探偵の偽装工作]を取得しました』
(うぉっ! レベルアップした!)
頭の中に天の声が響き驚く照。
(という事は、これで事件解決したって事かな?
今回のレベルアップは1だけか……さすがに上がりにくくなってきたみたいだね。
ゲットしたスキルがどんなものか気になるけど、今は……)
照は改めてレイラに向き直る。
すでにレイラは、観念したように肩を落としていた。
その様子に、思わずミーナが声をかける。
「レイラっち、まさか本当に……? どうしてそんな事をしたニャ……?」
「…………」
「レイラ、黙ってちゃ分からないニャ。ちゃんと話して欲しいニャよ」
「……だ、だって……」
「だって……何ニャ?」
ミーナの追求に、ついにレイナが心境を話す。
「だって――罵ったときのドドンゴの笑顔が気持ち悪いんだもの!」
「……へ?」
思わぬレイラの返答にフリーズするミーナ。
だが一度堰を切ったレイラの文句は止まらない。
「パーティを組んで最初の頃はなんともなかったの!
でもホラ、エルフとドワーフって仲が悪いのが定番じゃない?
だからちょっとロールプレイで、ワザと冷たくしてみたのね?
そしたらドドンゴ、凄い気持ち悪い笑顔になっちゃって……。
それ以来ずっと、私の事そんな笑顔で見るようになったのよ!
私がどんなに悪態ついて、何とか距離を置こうとしても、いっつもその不気味な笑顔で付きまとってくるようになっちゃったの!
もうヤダ! いい加減にしてよ!
どうしてこんなに罵ってるのに、笑顔で寄ってこれるのよ?
ホントやめて! 何考えてるのよ? ワケが分からない!
怖いのよアンタ!」
レイラは一気にそこまで吐き出すと、ゼーハーと肩で息をする。
周りはその勢いに沈黙し、そのままドドンゴに注目が集まる。
レイラに散々ディスられたドドンゴは――
「だって拙者、ドMなんで……」
――気持ち悪い笑顔でそう申告した。
それを聞いた周囲の人間全員がフリーズする。
「初めてレイラ殿に罵られたとき、拙者は雷に打たれたかのような衝撃を受けたのだ。
これほどまでに甘美な罵倒は、拙者は初めての経験だった。
それ以来拙者は、レイラ殿に罵声を浴びせられないと生きていけない体となってしまった……。
だから……だから拙者は決めたのだ!
これから一生レイラ殿の傍にいて、死ぬまで罵られながら生きていこうと!」
恍惚の表情で自身の性癖を語るドドンゴに、周りはドン引き状態だ。
中でもレイラは顔を真っ青にし、悲壮な表情でドドンゴを見ている。
「な、何よそれ……一生付きまとうって……や、やめてよ! どうして私なの?」
涙目でイヤイヤをするレイラ。
それに対し、ドドンゴが応える。
「……拙者、レイラ殿を慕っているので」
その言葉に絶望的な表情を見せるレイラ。
そして――
「いっ、嫌ぁああああああああああっ!!!」
――そんなレイラの悲壮な叫びが、早朝の宿場町に響き渡った。
*
――それから、乃愛や陽斗たち他のメンバーがようやく起き始めた頃。
彼らに先立ち、冒険者パーティが宿を出立することになった。
ドドンゴは隠さなくなった不気味な笑顔で。
レイラは魂の抜けたような無表情で。
リーダーのロッドさんに連れられて、ともかく宿を出発する。
事件は解決しても、人間関係は何も解決しないまま……。
(……大丈夫かな、あのパーティ?)
彼らを見送った照は、そんな感想を持ったのだった。
そして照たちも宿屋を出るべく準備を始めた頃――
「なぁ照、ちょっといいか?」
そう言って朝弥が照を呼び出した。
人気のないところを探し、近くの空き部屋へ。
二人きりになると、悩み続けていた朝弥が自分の気持ちを語りだす。
「あれからオレ、ずっと悩んでた。
照が男になった以上今まで通りじゃいけない。
オレの照に対する気持ちを改めないといけない。
だけど今まで好きだった気持ちと折り合いがつかなくて、どうすればいいか分からなくなってた……」
そこまで話すと、黙り込んでしまう朝弥。
照は「そっか……」と相槌を打ち、朝弥の続きの言葉を待つ。
「とにかくオレは、変わろうと思ったんだ。
照に対する気持ちを捨てて、照との関係を一から作り直そうって。
でも……あの人たちを見ていて思ったんだ」
「あの人たち?」
「さっきの冒険者パーティだよ。あのドドンゴって人が、最後に言っていただろ?」
朝弥に言われて、ドドンゴの言葉を思い出す――。
*
――レイラが悲鳴を上げて拒絶をし、ミーナやロッドから諭されるドドンゴ。
『さすがにエルフとドワーフの恋愛は無理だろう、やめておけドドンゴ』
『そうニャ、想い続けたってお互い不幸になるだけニャ』
だがドドンゴは折れなかった。
『例え不幸だとしてもかまわない。
拙者にとって誰かを好きになれたことが奇跡なのだ。
だから拙者はこの先も、この恋に命を懸けて生きようと思う』
彼が言い放ったその言葉は、ドMストーカーでなければカッコいいセリフだった――。
*
「あのセリフを聞いて思ったんだ。
『誰かを好きになれたことが奇跡』だなんて、なんて素敵な言葉なんだろう。
オレもそんな風に言えるような恋愛がしたいって」
朝弥は感銘を受けた様子で、ドMストーカーの台詞を繰り返す。
「う、うん……言ったのがドMストーカーでなければ素敵なセリフだね……」
照は若干引き気味だが、それに気づかず語る朝弥。
「そして考えたんだ。
気持ちを押し殺そうとしていたオレは、もしかしたら間違ってたんじゃないかって。
だって今まで好きだったオレの気持ちは、いくら否定したってなくならないんだから」
「ふ……ふーん、そうなんだ……」
「だから……オレは決めたんだ。
自分の気持ちを偽らず、正直に生きようって。
――だから照、聞いてくれ」
「お、おぅ……な、何かな?」
「照……オレは……」
そして照の目を真っ直ぐ見つめ、朝弥が告げる。
「――オレはやっぱりお前が好きだ!」
「……へ?」
朝弥の告白に、血の気が引いていく照。
「ちょっ、待ってよ! 朝弥、自分が何言ってるか分かってるのか?」
「当然だ! むしろ今まで通りだ! 十年前からお前が好きだ!」
「今まで通り過ぎるよ! ねえ朝弥、分かってる? ボクはもう男なんだよ?」
「確かに今の照は身も心も男だ! でもオレの気持ちは変わらない! 男だって構うもんか!」
「構おうよ! そこはもっと考えようよ!」
思わす声を荒げる照。
「ホントにそれでいいの?
だってあれだけシリアスに悩んでたじゃないか!
それがストーカーに影響されてBLルートとか、本当にそれでいいの?
もっとよく考えてよ!」
「これが考えた結果だ!
オレは照が大好きだ!
だから今度こそ絶対、照に『朝弥なら男でも構わない』って言わせて見せる!
――神に誓って!」
「やめてー! おかしな事を誓わないでー!」
こうして、とある宿場町で起きた事件は解決し――
――一人の少年が新たな扉を開いたのだった。
――7話へ続く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます