第七章「この素晴らしい再会に祝福を」

7-1 ママって呼んでもいいんですよ?

プロローグ


 アインノールドからイストヴィアへと向かう道中の宿場町。

 そこで一泊した一行が、翌日出立すべく馬車に乗り込もうとしていたのだが……。


「……あれ? 陽斗がいないわね?」


 気づいた清霞に蓮司が答える。


「アイツなら『馬車の旅飽きた』ってどっか行っちまったぜ」

「……また逃げたわね、あいつ」


 そんなアクシデントに見舞われながら、一行は車上の人となる。

 そして再び、イストヴィアに向けて馬車の旅が始まったのだった。





 ――イストヴィアへ向かう馬車の中で。


「ステータスオープン」


――――――――――――――――――――

 名前:惣真 照(そうま てる)

 性別:男 年齢:16 種族:人間

 状態:なし

 ジョブ:[探偵]

――――――――――――――――――――

【称号】

 [異世界からの来訪者][ゴブリンの友]

――――――――――――――――――――

【ジョブスキル】

 [探偵術レベル6]

――――――――――――――――――――

【ステータス】

 レベル:1

 HP:30/30 MP:18/18

 攻撃力:15 防御力:10 魔法力:12

 俊敏力:8 幸運値:35

――――――――――――――――――――

【アクティブスキル】

 [探偵の鑑定眼][探偵の魔探眼][探偵手帳][探偵の鑑識眼]

 [探偵の偽装工作]new

――――――――――――――――――――

【パッシブスキル】

 [経験値×10倍][死神体質][物理ダメージ5%軽減]

――――――――――――――――――――

【取得スキル解説】

[探偵の偽装工作]

 探偵術レベル6で取得。

 [鑑定偽装]と同等のスキルで、ステータスを自由に書き換えることができる。

 自分よりステータスレベルの高い鑑定士には、簡単に偽装が見破られるので注意が必要。

――――――――――――――――――――


 照は新たに得たスキルを確認していた。


([探偵の偽装工作]はステータスを偽装できるスキルか……どれどれ)


 試しに照は、自分のステータスを書き換えてみる。

 レベルを100にしてみたり、ジョブを[勇者]に変えてみたり。

 だが……


「む、むなしい……」


 いくら書き換えてみたところで、ステータスの表示が変わるだけ。

 実際の数値やスキルは元のままだ。


(自分のステータスで隠さなきゃいけないモノなんてないし、今のところは使い道のないスキルだな……)

(ちくしょう、いつか本物のチートを手に入れてやる!)


 そんな野望を胸に誓う照だった。

 と、そこへ――


「ねぇ照くん。また一つ、聞きたいことがあるのだけれど」


 そういって隣に座った乃愛が、前日同様に腕を絡ませてくる。


「ちょっ! また肘におっぱいが……! な、何ですか乃愛先輩?」

「今朝宿屋で、何やら事件を解決したという噂を聞いたのだけれど……本当なのかしら?」

「え、ええまぁ……」

「それで……どうして私を起こしてくれなかったのかしら?」

「ど、どうしてと言われましても……」

「私がどれだけミステリーが好きか、まだ分かってくれていないのかしら? ねぇ、分かってくれていないのかしら?」

「い、いやその……」

「もしかしてその体に徹底的に叩き込まないと分かってもらえないのかしら? ねぇ、照くん?」

「ふぁあっ! 耳に息を吹きかけ……ひぁあっ! ちょっ、やめ、どこ触って……アフンッ!」


 一方的なボディタッチで嬲られる照。だがそこへ――


「よせ、乃愛先輩! 照が嫌がってるでしょう!」


 そう言って照と乃愛を引き離したのは、乃愛とは反対側の隣に座っていた朝弥だ。

 朝弥は照を乃愛から奪い返すと、今度は自分の胸にギュウゥッと抱き込んだ。


「ちょっ、苦しい、朝弥!」

「言っておきますが先輩、照はオレのものです。先輩には渡しませんから」

「ムギュウ……や、やめて朝弥、強く抱きしめないで! 頭ナデナデしないで!」


 その様子を見た乃愛が、朝弥に言い返す。


「あら、朝弥くん。どうやら貴方の方が、照くんに嫌がられているようだけど?」

「そんなことありません! コイツとオレは昔からの親友ですから! 先輩こそ盛りの付いた猫のように、照に付き纏うのはやめてください!」

「何ですって、このホモ野郎!」

「うるさい、この発情女!」

「や~め~て~!」


 いがみ合う二人に挟まれて、照は――


(違うよ神様、こうじゃない。ボクが最初に憧れたハーレムは、こんなんじゃないんだよ、神様……)


 ――心の中で神様にクレームを入れ続けるのだった。





 ――一方、清霞、燐子、蓮司の乗るもう一台の馬車では。


「蓮司……貴方、妙に静かね? あ、もしかして、隣に知らない女性が座ってるから緊張してる?」

「――っな! 何言ってんだ清霞、おぅコラ!」

「貴方、昔から女性が苦手だったからねー。仕方ないわね」

「ち、ちげーっつてんだろ! 苦手なんじゃなくて硬派なんだよ!」

「……あぁ、すまない。私のせいだったら謝る」

「だ、だから燐子さん、アンタのせいじゃねーって! あ、こら、何笑ってやがんだ清霞!」


 ――こっちはこっちで楽しそうだった。





 ふたたび日が暮れ始めた頃――。

 遠くに見えていた城壁が、ようやく目の前に現れた。


「着いたわ、公都イストヴィアよ」


 城門をくぐり待ちの中へと入る一行。

 中世ヨーロッパを彷彿とさせるレンガ造りの建物が並んでいるが、看板などが日本語になっているのがシュールな光景だ。

 そんな街並みの中、活気のある街路を進み、馬車は町の中心にあるイストヴィア城へ。


「お帰りなさいませ、サヤカ様、レンジ様。そしてようこそ、来訪者の皆様」


 そう言って迎え入れてくれたのは、年はまだ十四歳、赤と白のドレスがまるで日本の巫女衣装を思わせる、黒髪ツインテールの小柄な美少女だ。

 大勢の侍女を引き連れて、城内のエントランスで一行の到着を待ち構えていた様子。

 清霞はその少女の姿を認めると、嬉しそうに小走りで駆け寄る。


「あらヒミコ様 どうしてお城にいるんですか?」

「お父様が戦後処理でしばらくアインノールドから戻ってこられないそうで、その間の名代として学園から戻ってまいりましたの」

「そうですか、お久しぶりです。ヒミコ様は相変わらずかわいいですね~」

「あ、ありがとうございます。お姉さまもいつもお綺麗です」

「あら、お姉さまだなんて……」


 そこで清霞はモジモジしだし、そして……


「……ママって呼んでもいいんですよ?」

「そうやって周りから固めようとするのはやめてください、サヤカ様」


 そんな清霞の懇請は、ツインテール少女にバッサリ切って捨てられた。


「あぅう……ヒミコ様のイジワル……」

「そんなにお父様の事が好きなら、さっさと告白すればいいのです。そうすれば朴念仁のお父様も再婚を考えるようになるでしょうし……」

「で、でも告白してダメだったら……」

「そこまでは知りませんわ。ダメなら諦めてください」

「あーん、やっぱりヒミコ様イジワルだー!」


 そんな二人の様子は、仲の良い姉妹のようだ。

 しばらく二人のやり取りが続いた後、ツインテール少女は居住まいを正し、改めて来訪者たちに自己紹介をする。


「わたくしはイストヴィア公爵の娘、ヒミコ・イストヴィアと申します。新たな来訪者の皆様、お見知りおきを。それでは今から、他の来訪者の皆様の下へ案内させていただきますわ」


 そう言って可愛く頭を下げた少女――ヒミコ姫は、照たちを先導するように歩き出す。

 それを照は慌てて引き止めた。


「待ってください! その前にボクは、引きこもっているという陽莉に会いたいのですが……」

「ヒマリ様……ですか? 分かりました。では私が案内いたしましょう。申し訳ありませんがサヤカ様、他の皆さまを応接室へ案内していただけますか?」

「わかったわ、ヒミコ様」


 そしてヒミコ姫が照を連れて先に行こうとする。そこへ――


「ま、待って! オレも照と一緒に行くよ」

「二人っきりで話がしたいから、朝弥は絶対ついてこないで!」


 慌てて朝弥がそう言ってきたが、照は断固拒否をした。

 ショックで涙目な朝弥を残し、照は陽莉が引きこもっているという部屋に案内してもらう事となった。





 イストヴィア城の一角、陽莉のいる部屋の前――。


「ねぇ陽莉、そこにいるの?」


 コンコンとノックしながら照が語り掛けた。

 すると部屋の中でガタッと音がし、中に人がいる事がわかる。

 だが――。


「陽莉、出てきてよ、ねぇ」


「お願いだよ、陽莉の顔が見たいんだ」


「どうして……ねぇ陽莉……」


 照が何度呼び掛けても、部屋の中からは何のリアクションもなかった。

 案内してくれたヒミコ姫が教えてくれる。


「ヒマリ様は、この世界に来られてからずっとこの状態なんです。お食事も殆ど取られてなくて、皆で心配しているのですが……」

「そんな……陽莉……」

「テル様、このままお待ちになられても、きっと出て来てはいただけないでしょう。ひとまず他の皆さんと、合流なされてはいかがです?」

「……そう……だね。……陽莉、また来るから!」


 諦めた照は、ひとまず他の来訪者たちのいる応接室へと向かうことになった。

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