4-5 ゴブリンの友

『条件を満たしました。上位種[ゴブリンキング]に進化を開始します』


 ――怒りに満ちたゴブ助の脳裏に天の声が響いた。


 瞬間、ゴブ助の体がバクンッと風船のように膨れ上がる。

 体が急激に成長し、元のゴブ助の二倍はあろうかという姿に変貌していく。


「おお、魔物の進化か! 珍しいものが見れたな!」


 その様子を見守る陽斗は何故か楽しそうだ。

 メキメキ、バキバキと音を立て、ゴブ助の体が不自然に作り替えられてゆく――。


 やがて成長が止まり、姿を現したのは、山のように巨体なゴブリンだ。

 ゴブリンキング――そう呼ばれるゴブリンの最上位種。

 身長は2メートルを優に超え、筋肉がはち切れんばかりに膨れ上がる。

 オークと見間違う程のその体躯は、まさにキングと呼ぶに相応しい迫力だ。


「……フッ……フははッ! 凄イ、凄いゾ! これなラ――」


 進化を終えて高揚するゴブ助は、そのまま陽斗に向き直り、


「これなラ貴様を殺せるゾォおおおおおおおおオッ!」


 拳を振り上げ襲い掛かった!

 だが陽斗は体を沈めると、振り下ろされたゴブ助の拳をかいくぐり、その脇の横を軽やかなステップですり抜ける。

 そしてすれ違いざま剣を抜き――


「聖剣スキル[チェインブレイド]」


 ――陽斗がスキルを解き放った。

 その瞬間、無数の太刀筋がゴブ助を襲う。


「――っがは!」


 次の瞬間、ゴブ助は全身から血を吹いた。

 気づけば体中に刀傷を負い、ゴブ助はドサリッと力無く倒れこむ。


「お前スゲーな。こんなギリギリでゴブリンキングに進化するなんて、なかなか根性あるじゃないか。でもまぁ……」


 陽斗はそう言うと、剣を逆手に持ち替え振り上げる。


「終わりだ、死ね」


「――待って!」


 ゴブ助を庇う二度目の声。

 ゴブ助にやられたダメージから回復した照が、再び陽斗の前に立ちふさがった。


「照……お前、馬鹿なの? なんでまだそのゴブを庇ってんの? あれだけぶっ飛ばされてまだわからないの?」

「……いや、充分分ったよ。人間と魔族は敵同士、決して相容れない。この世界ではそれが当たり前なんだって」

「だったら――」

「――だけど! ゴブ助とは今日、一日中一緒にいたんだ! 情が湧いたって仕方ないだろ! 頼むよ陽斗兄ちゃん、ゴブ助を助けてよ!」

「…………」


 照の懇願に、陽斗は渋い顔を作る。

 そこへ女王が提案をする。


「なら主様が此奴を従魔にしてしまえばよいのではないか?」

「従魔か……でもなぁ……」


 提案を受けた陽斗は、ゴブ助の傍にしゃがみ込んで尋ねる。


「よう、ゴブ助……だっけ? お前負けを認めるか?」

「……ふザ……けるナ……お前は殺ス……絶対……に殺ス……」

「……これはダメだな、負けを認めない相手に隷属魔法は殆ど効果がない。これだから知性のある魔物は従魔にするのが難しいんだよ。うーん、どうするかなあー……」


 そうして陽斗は考え込むと、ゴブ助に質問する。


「お前はマリー――魔の森の女王にも復讐しようと思ってるか?」

「……女王様ハ……関係なイ……お前だけダ……人間、お前だけは絶対ニ……」

「……じゃあいいや。おい照、お前の望み通り、コイツは見逃してやる」

「ほ、本当かい、陽斗兄ちゃん!」

「ああ、コイツ程度ならいつでも返り討ちにできるからな」

「あ、ありがとう陽斗兄ちゃん!」

「というわけで……おいゴブ助、オレが憎ければいつでもリベンジしに来い。ただし次は殺すからな。勝ちたきゃもっと強くなって、せめて魔王種のロードオブゴブリンにでも進化してから来ることだ」


 そう言って陽斗はゴブ助から離れ、


「それじゃ帰るか。行くぞ照、マリー」


 そのまま村の出口に向かう。


「あ、ちょっと待ってよ!」


 照は慌てて陽斗を追おうとするが、足を止めてゴブ助に向き直る。


「……ありがとう、ゴブ助」

「……? ……なぜ礼を言ウ……?」

「あの時キミ、手加減してくれたろ? 君が本気で殴ってたら、レベル1のボクなんて一発で死んでるよ。だから……。魔物と人間は敵同士かもしれないけど、それでもキミには感謝してる。それだけ伝えておきたくて……」

「…………」

「……それじゃゴブ助。バイバイ、元気でね」


 そう言い残し、照はその場を立ち去る。

 そんな照の頭の中で天の声が響いた。


『称号[ゴブリンの友]を取得しました』





――――――――――――――――――――

 名前:惣真 照(そうま てる)

 性別:男 年齢:16 種族:人間

 状態:なし

 ジョブ:[探偵]

――――――――――――――――――――

【称号】

 [異世界からの来訪者]

 [ゴブリンの友]mew

――――――――――――――――――――

【ジョブスキル】

 [探偵術レベル5]

――――――――――――――――――――

【ステータス】

 レベル:1

 HP:15/30 MP:9/18

 攻撃力:15 防御力:10 魔法力:12

 俊敏力:8 幸運値:35

――――――――――――――――――――

【アクティブスキル】

 [探偵の鑑定眼][探偵の魔探眼]

 [探偵手帳]new

 [探偵の鑑識眼]new

――――――――――――――――――――

【パッシブスキル】

 [経験値×10倍][死神体質]

 [物理ダメージ5%軽減]new

――――――――――――――――――――

【取得スキル解説】

[探偵手帳]

 探偵術レベル4で取得。

 事件の記録を自動的に記録するタブレットを呼び出せる。

[探偵の鑑識眼]

 探偵術レベル5で取得。

 目に見えない指紋、血液、薬品等の痕跡を見る。

 痕跡に重ねて鑑定を行う事で、詳しい分析が可能。

――――――――――――――――――――


 森を進む陽斗、その後に付いて行く照は、歩きながら自身のステータスを確認する。


([探偵術]ってもうレベル5なのか、早いよね。

 多分[経験値×10倍]の効果だろうけど。

 ……でもステータスレベルは1のまま……。

 ゴブ助に殴られて、よく死ななかったよね、ボク……。


(覚えたスキルは[探偵手帳]と[探偵の偽装工作]か……。

[探偵手帳]……よくわからないから使ってみるかな?)


 照が[探偵手帳]のスキルを起動させる。

 すると目の前に、日本にあったタブレットのようなものが現れた。

 触ってみると普通のタブレットと同じで、タッチパネルで動く代物のようだ。

 中にはアインノールド城で起きた神官長焼死殺人事件と、今解決したばかりの連続殺ゴブ事件の詳細なデータが入っていた。


(なるほど、今までの事件の記録が見れるのか。

 確かに探偵らしいスキルだけど……到底チーレムなんて目指せる能力じゃないなぁ。


(次は[探偵の鑑識眼]だけど……。

 目に見えない指紋、血液、薬品等の痕跡を見る、ねぇ……。

 これも試しに何か……そうだ、これを……)


 照は廃墟で拾った[光の属性剣]を、腰から鞘ごと外して掲げ、[探偵の鑑識眼]を使ってみる。

 すると剣のあちこちに、赤く光る指紋のようなものが現れた。

 それをさらに[探偵の鑑定眼]で鑑定してみる。


――――――――――――――――――――

 惣真照の指紋

――――――――――――――――――――


 鑑定結果はこの通り。


(つまり警察の鑑識みたいな事ができるスキルかな?

 んー、これも探偵としては凄いスキルだろうけど、チーレムには程遠いな……。

 やっぱりジョブ[探偵]じゃチーレムは無理そうだね……ガッカリ……)


(あとは……この[ゴブリンの友]って称号だけど……)


 照は[ゴブリンの友]を二重鑑定する。


――――――――――――――――――――

[ゴブリンの友]

 ゴブリンと心を通わせたものに与えられる称号。

 取得スキル:[物理ダメージ5%軽減]

――――――――――――――――――――


(ゴブ助……もしかしてボクのこと、友達だと思ってくれたのかな……?)


 照は別れたばかりのゴブ助のことを思い、少し暖かい気分になった。


「よし、着いたぞ」


 そう言って陽斗が足を止めたのは森が開けた場所。

 森の中にぽっかり空いた草地、ここが陽斗の目的地だったらしい。


「それじゃ行くか、照」

「……行くってどこに?」

「決まってるだろ、アインノールド城だよ。友達が捕まってるんだろ? 約束通り助けに行くんだよ」

「本当に! でも、ここからどうやって城まで行くのさ?」

「あー普通に馬でニ週間くらいかかるかな? だけど……」


 陽斗は手を掲げで「サモン!」と叫ぶ。

 その途端、目の前の地面に六芒星に似た魔法陣が広がる。

 直径5メートルほど、まぶしい輝きを放つその魔法陣から、せり上がるようにして魔物が姿を現した。

 その姿は上半身が鷲で下半身がライオン――グリフォンと呼ばれる魔獣だ。


「オレの従魔のグリフォンで、名前はグリードだ。こいつに乗っていけば三日で着く」

「うぉおおおっ! これってグリフォンってやつだよね? スゲーッ!」

 体長3メートルはあろうそのグリフォンを見て、照は興奮した声を上げた。


「それじゃ照、背中に乗り込め。マリー、また会いに来るよ」

「待っておるのじゃ、主殿」


 陽斗にエスコートされグリフォンの背に乗る照。


「それじゃ行くぞ! 飛べ、グリード!」

「クワァアアアアア!」


 女王を残し、グリフォンが宙に舞う。

 目指すのはアインノールド城。

 乃愛と燐子を助けるために――。



 ――5話へ続く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る