9-7 Cカップで満足してしまった、それが私の敗因ね
5
その夜――。
[探偵手帳]のスキルを起動させ、タブレットを呼び出す照。
そして画面を操作し、助手の陽莉との通話回線を繋いだ。
しばらく呼び出し音が鳴った後――
「照ちゃん! 連絡待ってたよ!」
――画面に笑顔の陽莉が現れた。
照は努めて明るい声を出し、陽莉に応える。
「やぁ、陽莉! いま大丈夫?」
「うん! ちょうど私も照ちゃんと話したいと思ってたの!」
元気に話す陽莉は、昨日の事など気にしていない様子。
「照ちゃんってやっぱり凄いんだね~」
「……? どうしたのさ、急に?」
「照ちゃんて今、異世界で探偵やってるんでしょ?」
「探偵って、まぁ、そういうジョブに当たっちゃっただけだけどね」
「私ね、昨日からこのタブレットに書かれている事件の事を読んでたの。
やっぱり凄いよ、照ちゃんは。
こんなにたくさん事件や謎を解決してきたんでしょ?」
目を輝かせて称賛する陽莉に、照は思わず苦笑してしまう。
「いやぁ、解決できたのは、全部運がよかっただけだよ。
偶然閃いちゃっただけで、ボクとしてはこんな幸運がいつまでも続くわけないと思ってるんだけどね」
「ううん、そんな事ない! 異世界に行く前から、照ちゃんは凄かったじゃない」
「凄かったって……?」
「だって私が悪戯されて困ってた時は、その犯人をすぐ見つけてくれたし、私にきたラブレターも、封を開けずに誰が出したか当ててたし、そんな探偵みたいな凄い事、照ちゃん昔からやってたよ」
「そ、そうだっけ……?」
そう言われて思い返してみれば、確かに照にも思い当たる事はあった。
とはいえ照にとっては、それらも偶然の産物のようにしか思えない。
だが――
「そうだよ! 照ちゃんはずっと凄いんだから!
照ちゃんは私の自慢の幼馴染だよ!」
――陽莉にそういわれると、照は不思議とそう思えてくる。
好きな人に褒められると、こんなにも自信が湧いてくるんだと、照は初めて知った。
「……ありがとう、陽莉」
「だから……だからね、照ちゃん……」
「……なに、陽莉?」
「ひとつだけ約束して、照ちゃん」
「……何を?」
照が首をかしげると、陽莉は真剣な表情で言葉を放つ。
「こっちの世界に帰って来るって約束して」
「そ、それは……」
それは昨日、陽莉が照にお願いしたのと同じ言葉。
「……昨日も言ったよね。こっちから元の世界に戻る方法はないんだって。だから……」
「それなら大丈夫、照ちゃんは凄いもん!
今すぐは無理でも、いつかきっと戻る方法を見つけられる!
私、信じてるから!」
「そ、それは……」
思わず口ごもる照。
その様子に、陽莉は悲しい顔を見せる。
「それとも……照ちゃんは帰りたくないの?
私ともう二度と会えなくたって、それでも平気だっていうの……?」
「ち、違う! そうじゃなくてボクは――」
「ボクは……何? ねぇ照ちゃん、ちゃんと教えて? 照ちゃんの気持ち、ちゃんと教えてよ」
「ボクは……」
照は考える。
自分はどうしたいのだろう?
陽莉にどうしてほしいのだろう?
「ボクは……帰りたい」
そして照は自分の気持ちを口にする。
「ボクは帰りたい。
帰ってもう一度陽莉と会いたい。
会って陽莉とずっと一緒に生きていきたい」
「照ちゃん……」
「でも……帰る方法が無いんだ。
必死に探すつもりはあるけど、見つかるのがいつになるか分からないし、そもそも見つかるかどうかも分からない。
そんな状況なのに、陽莉に待っててくれなんて言えないじゃないか!」
「…………」
「でも、本当は待っててほしいんだ!
ボクが帰る方法を見つけるまで、陽莉にはずっと待っててほしい!
我儘だって分かってる!
でも、ホントは待っててほしいんだ!
だって、好きだから!
ボクは陽莉が大好きだから!」
「――っ!」
照の告白に、目を丸く顔を赤くする陽莉。
そしてしばらくの沈黙の後――
「……分かったわ、照ちゃん」
決意を込めた陽莉の声。
「私、待ってる。ずっとずっと照ちゃんの事待ってる」
「……陽莉……」
「だって、私も照ちゃんの事が好きだもん。
女でも男でも関係ないよ。
私だって……私だって照ちゃんが大好き!
ずっと一緒に居たいんだから!」
そんな陽莉の言葉に、今度は照が目を丸くして驚く。
「ひ、陽莉、それって……」
「だから……お願い照ちゃん、約束して。
きっとこっちの世界に帰ってくるって。
私、ずっと待ってる。
照ちゃんの事、ずっとずっと待ってるから」
そんな陽莉の決意に、照の心が喜びに震え上がった。
そして照は決意する。
「分かったよ、陽莉。必ず帰るから。だから、待ってて、陽莉」
それは照が異世界に来て以来、初めての決意――
状況に流されずに決めた、照の初めての目標となった――。
エピローグ
陽莉とタブレット越しに初めて会った日の夜――。
自室のベッドに横になりながら、乃愛は考える。
(彼女が瀬名陽莉――照くんの想い人ね。
今後、私が照くんの横に立つために、倒さなければいけない相手――。
彼女を見ていて分かったわ、私に何が足りないのか。
私が照くんに愛されるために足りないもの、それは――)
そして乃愛は自分に言い聞かせる。
(――それはおっぱいよ!)
それが乃愛の答えだった。
(私が彼女に劣るもの、それはあのおっぱい以外に考えられないわ!
あの圧倒的なボリューム、あれこそが照くんの愛してやまないおっぱいよ!
そして私に足りないもの――!)
その事に思い至り後悔する乃愛。
(くぅうっ、何て事なの!
こんな事なら異世界転移の際に巨乳にしてもらえばよかったわ。
今のCカップで満足してしまった、それが私の敗因ね。
……いえ、今からでも遅くないはず。
S級ダンジョンを攻略して女神に会えば、おっぱいを大きくしてもらえるかもしれないじゃない)
そして遠い目で独り言ちる。
(……また一つ、S級ダンジョンを攻略する理由ができたわね)
こうして乃愛もまた、改めてダンジョン攻略を胸に誓うのだった。
――最終回に続く。
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