第五章「高1ですが異世界で戦争はじめました」

5-1 処女ビッチとはいえ所詮は処女

プロローグ



 ――星の煌めく夜の空を、照と陽斗の乗ったグリフォンが飛んでゆく。

 向かうは乃愛と燐子が囚われているアインノールド城だ。

 彼らの頭上には四分の一ほど欠けた月が浮かぶ。

 居待月と呼ばれるその月を見上げる照は、グリフォンの背で焦りの表情を滲ませていた。


(ボクたちが異世界転移してきた日が満月。それからあれだけ月が欠けている。その間乃愛先輩や燐子さんはあの城に……。二人とも、大丈夫なのかな……?)


「……大丈夫だ、照。気を揉むなよ」


 照の様子を察した陽斗が声をかける。


「さっきも言ったろ、隷属魔法はそもそも魔物専用の魔法で、さらに知性のある者にかけるのは難しい。ましてや人間にかけるなんて余程でなければ無理な事。だから大丈夫、照の友達はまだ無事なはずだ」

「陽斗兄ちゃん……」


 陽斗の言葉に、少し安心した様子を見せる照。

 陽斗は優しい声で話を続ける。


「だから安心しろ、照。安心して空の旅を楽しめ。ほら、いい眺めだぞ。月ばっかり見てるんじゃない、景色を見ろ景色を」

「や~め~て~! 高い所だって思い出させないで~! 高所恐怖症だって言ってるだろ!」


「いいから見ろって、ホラ!」


「い~や~~~~っ!」


 ……二人は順調に、アインノールド侯爵領へ近づいていた。





 ――照がいなくなったアインノールド城。

 そこでは女性だけの、怪しくも奇妙な夜会が繰り広げられていた。


 蝋燭の灯りだけの薄暗いベッドルーム。

 豪華に彩られた装飾に、天蓋のある豪華なベッド。

 そのやわらかいシーツの上に、乃愛はそのしなやかな肢体を投げ出すように寝転がされていた。

 彼女の手足には鎖の付いたベルトが巻かれ、鎖はベッドの四隅にある柱に括り付けられている。

 その、両手足を広げたはしたない格好のまま、身動きひとつできない無抵抗な乃愛に、寄り沿うようにウェルヘルミナが寝そべっていた。


「――ねぇ、ノア様。ご気分はどうですか?」

「……そうね、最低な気分だわ」

「ウフフフフ、怒った顔も素敵ですわ。それに……肌もこんなにきめ細かくて……ほら、こんなにスベスベ――」


 ウェルヘルミナの手が乃愛の太ももを怪しく撫でる。

 それは次第に腰、脇と乃愛の体を上がっていき、そして――。

 ついには彼女の程よく膨らんだ胸へと手がかかった。


 モミモミ……。


「ウフフフフ、ノア様ったら、柔らかくも張りがあって、素敵なものをお持ちですのね」


 上気した顔のウェルヘルミナが、乃愛の耳元でささやく。

 その手は乃愛の胸に添えられたままだ。

 ウェルヘルミナの指が怪しく動き、乃愛の胸を優しく揉み解す。


「――さぁノア様、このまま二人で楽しみましょう」


 そして、潤んだ瞳で乃愛を見つめるウェルヘルミナは、そのまま彼女を――。

 ――――――――。

 ――――。





 ――一時間後。


 モミモミモミモミモミモミモミモミモミ……。


 ベットの上で、ウェルヘルミナは乃愛の胸をひたすら揉み続けていた。


「……ねぇ、ウェルヘルミナ」


 たまらず乃愛がウェルヘルミナに訊ねる。


「これはいったい何なのかしら?」

「ウフフ。さすがのノア様も、そろそろ音を上げ始めましたか?」

「音を上げるも何も……本当に意味が分からないわ。いったい何がしたいのかしら?」

「決まっているじゃありませんか! こうして胸を揉む事で、ノア様に恥辱を与えているのです!」

「……はぁ?」

「これほどの辱めに健気に耐えるノア様の姿……ああ、たまりませんわ! いつまで耐えられるか見ものですわね、ウフフフフ……」

「…………」


 あまりに意外な返答に、思わず黙り込んでしまう乃愛。

 乃愛は色々と頭の中で整理をし、(ひょっとしてこの子……)と訊ねてみる。


「……ねぇ、ウェルヘルミナ」

「何ですか、ノア様?」


「貴女……セックスって知ってる?」


「セ……ックス……? 何ですの、それは?」

「それじゃタチやネコは? 貝合わせって分かるかしら?」

「な……何ですの、それ? そんなもの存じ上げませんわ」

「そう……」


 やっぱり……と乃愛は得心する。


(この子……性的にバカなのね)


 そんな乃愛の憐れむような視線に、不快感を露にするウェルヘルミナ。


「な、何ですの? ノア様は一体何がおっしゃりたいんですの?」

「……そうね、ウェルヘルミナ。貴女に言えることはこれだけよ。この……


 ヘタクソ!」


「なっ! わ、わたくしがヘタクソ……?」


 その一言に、ショックを受けるウェルヘルミナ。

 乃愛はさらに言い募る。


「そうよ、貴女の独りよがりな愛撫じゃ、いくらされたって私の体は堕とせない。貴女なんて、惣真照の足元にも及ばないヘタクソよ」

「そ……惣真照? どうしてあの男が出てきますの?」

「決まってるじゃない、それは彼が最高のテクニシャンだからよ。彼のあの卓越した推理力による、繊細で、かつ暴力的なまでの解決劇! ああ、思い出しただけで体が疼くわ……あふんっ」


 さんざん乳を揉まれても微動だにしなかった乃愛が、思い出しただけでつい嬌声を上げてしまった。

 その様子を見て、ウェルヘルミナは敗北を知る。


「お、思い出しただけでこんな……!」

「そう、あんなテクニシャンな彼の超絶技巧を味わってしまったら、貴女のようなテクニックの欠片もない愛撫でなんて、心はおろか体だってイけないわ!」

「そ……そんな……このわたくしが、何の価値もないから捨ててやった、あの男より劣っているというのですか!」

「ええ、ウェルヘルミナ。処女ビッチとはいえ所詮は処女。性的経験の皆無な貴女が、彼に勝とうだなんて百年早いのよ!」

「――っ! 『しょじょ』が何だか分かりませんが、途轍もない敗北感ですわ――!」


 ガックリと肩を落とすウェルヘルミナ。

 このまま敗北を受け入れるのかと思いきや、ギリリと奥歯を噛み締めて立ち上がる!


「……認めません、やっぱり認められませんわ! わたくしがあんな男に劣っているなどと! 見ていなさい、ノア様! 今日は無理でも明日こそ、ノア様をアンアン言わせて見せますわーっ!」


 そしてそのままバタンとドアを開け、ベッドルームから飛び出していったのだった。


 ――ちなみに。

 ベッドルームで起きた一連の騒動の間、二人はずっと着衣のままでした。


 ……裸だなんて一言も書いてないからね? 18禁じゃないよ?





 ウェルヘルミナの折檻(?)を終え、乃愛は牢に戻される。

 その牢の中には、先に燐子が戻っていた。

 乃愛の姿を見とめた燐子は、軽く手を上げ彼女を迎え入れる。


「ああ、戻ったか乃愛」

「ええ……燐子さん、そちらはどうだったの?」

「……ベッドに磔にされて、ずっと侍女に胸を揉まれていたよ。侍女は例の魔法で操られているのか、無表情で揉み続けるからひたすら怖かったよ……」

「あー、そちらもそんな感じでしたのね……」


 二人は顔を見合わせてため息をつく。


「でもまぁこれなら、当分は身の危険はおろか貞操の危機もなさそうね」

「……とはいえいつまでこんなところに閉じ込められていなきゃならないんだか。うまく隙を見て抜け出せればいいんだが」

「それなら大丈夫よ、燐子さん。きっと照くんが助けてくれるわ」

「彼が? しかし乃愛、彼は……」

「大丈夫、彼は本物の探偵だから。探偵ならどんなピンチも逆転できるはずだもの」


 乃愛は照にそう期待を寄せる。


 そのころ照は――高所恐怖症を発揮しグリフォンの背で絶叫していた。

 ……泣き叫ぶ彼の姿は、とてもそんなヒーローには見えなかった。

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