5-2 ……こ、これが男性器?



 照が空を飛び、乃愛が乳を揉まれた翌日――。

 朝弥が転移したイストヴィア城から、照が転移したアインノールド城へと向かう街道を、蓮司の率いる騎馬隊三千と、清霞の率いる馬車の魔術師団五百が行軍していた。

 軍の先頭で指揮するのがイストヴィア銀槍私兵団団長の蓮司、その後方の馬車に控えているのがイストヴィア魔法私兵団団長の清霞だ。

 そして朝弥は清霞と同じ馬車に乗り、焦る気持ちを必死に抑えていた。


「――くそ! まだ照のもとには着かないのか? 急がないと今頃、どんな目にあっているか分からないのに……!」


 その気持ちを察知して、清霞が朝弥に声をかける。


「焦らないで、朝弥くん。アインノールド城に着くのは明日よ。今からそんなに気を張ってたら持たないわ」

「分かってます。分かってますけど……もっと早く着かないんですか?」

「それは無理よ。いくらイストヴィア領とアインノールド領が隣同士だとは言え、行軍にはそれなりの時間がかかるわ。むしろこれでも急いでいる方よ。歩兵は残し騎馬と馬車だけで先行して、何とか明日に到着できるって状態なんだから」

「でも……照が……」

「だから焦ってはだめよ、朝弥くん。キミの想い人はきっと無事よ。私たちが必ず助け出すわ。だから……そうね、今は助け出してからの事を考えましょう」

「……助け出してからの事?」

「そう、城にとらわれた想い人を助け出せば、再会したときにきっと感謝してくれるわよ。これってキミの気持ちを伝える絶好のチャンスじゃない?」

「……オレの気持ちを伝えるチャンス……?」


 朝弥は想像する。

 危機に陥った照を助け出し、自分の思いをアイツに伝える。

 そしたら照は――。


『ありがとう、朝弥。助けてくれて嬉しかったよ』

『ボク、ようやくわかったよ。朝弥がどれだけ大切な存在か』

『だから……いいよ。ボクの全部、朝弥にあ・げ・る』


「――うぉおおおおっ! 照、絶対に助け出してやるからな!!!」


「そうよ、朝弥くん! ポジティブに行きましょう! 愛は必ず勝利するのよ!」


 清霞に励まされ、元気を取り戻す朝弥。

 だが……もう一度言っておこう。

 朝弥は自分の想い人が、男になってしまっていることをまだ知らない――。





 ――その夜。

 昨日と同じ怪しいベッドルームで、乃愛がまたもや拘束されていた。

 ベッドの上で磔にされた乃愛を、ウェルヘルミナが怪しい笑みを浮かべながら見下ろしている。


「ウフフフフ、ノア様。昨日のリベンジをさせていただきますわ」


 乃愛の頬に手を当て、優しく撫でながらウェルヘルミナは続ける。


「今日一日、ノア様のおっしゃった事を必死に勉強してまいりましたの。セックスとは何か? 処女とは何か? わたくし、知らないことだらけでビックリしてしまいましたわ。ですが……今のわたくしはエロ知識の宝庫! エロエロすぎて困ってしまうくらいエロエロですわ! ノア様、今のわたくしを、昨日のわたくしと同じだと思わない方がいいですわよ」


(……まさか真面目に勉強してくるなんて……しまったわ、余計な事を言ったかしら?)


 少し青ざめた様子の乃愛に、満足そうな笑みを浮かべるウェルヘルミナ。


「ウフフ、まずは手始めに、ノア様の処女を華麗に散らして差し上げましょう。そのために、こういうものを取り寄せましたのよ」


 ウェルヘルミナはそう言うと、運び込まれたワゴンから30センチほどの大きさの木箱を取り出して乃愛に見せつける。


「この中には『ディ〇ド』と呼ばれるものが入っていますの。ノア様は『ディ〇ド』が何かご存知ですか? 男性器を模した張形の事だそうですわ。ノア様のために急遽取り寄せましたのよ?」

「――なっ!」


 その言葉にさすがの乃愛も声を上げる。


「……ねぇ、ウェルヘルミナ。……まさか本気じゃないわよね?」

「ウフフフフ、その顔ですわ。わたくし、ノア様のその顔が見たかったんですの」

「そ……そうなの? なら願いは叶ったわけね。ならもういいじゃない、これ以上はまたの機会という事で……」

「ダメですわノア様、ここまで来てお預けなんて。ウフフフフ、痛かったらごめんなさい。わたくし頑張って、優しく破瓜させてあげますから」

「ちょっ! 嘘でしょ……?」

「それじゃ行きますわ――!」


 恍惚の表情で、ウェルヘルミナがパカッと木箱を開ける。

 中にはモザイクなしでは見せられない、リアルに男性器を模った木製のディ〇ドが入っていた。

 そしてそれを、ウェルヘルミナが取り出――


「……何ですの、これ?」


 ――せずに固まってしまう。


「……こ、これが男性器? ……き、気持ち悪いですわ! 怖いですわ! おぞましいですわ! 何ですの、この禍々しい物体は?」


 木箱を持ったまま、真っ青な顔で震えるウェルヘルミナ。


「……む、無理! こんなもの触れられません、無理ですわ……! 怖いよう……ふぇえ……おち〇ちん怖いよう……」


 ……挙句、ポロポロと泣き出す始末。

 見かねた乃愛が声をかける。


「……ねぇ、ウェルヘルミナ?」

「――ひぃっ!」


 その拍子に、悲鳴を上げるほど驚いて、木箱を放り出してしまうウェルヘルミナ。

 カランカランと音をたて、床を転がるリアルディ〇ド。

 そのシュールな光景に、何とも言えない沈黙が流れ……。


「……ねぇ、ウェルヘルミナ。もういいんじゃない……?」

「――っ! まだ終わっていませんわ、ノア様!」


 ぐぬぬ……と歯噛みするウェルヘルミナだったが、まだ諦めてはいないようだ。


「わ、わたくし、もう一つ勉強してきましたのよ。ファンタジー世界における定番のエロシチュエーション、それは……おいでブルー!」


 叫ぶウェルヘルミナが、合図を送るように手を振り上げる。

 するとポヨンッと、丸い水色の物体が飛び出した。

 ウェルヘルミナの従魔である、スライムのブルーだ。


「定番のシチュエーション、それは――スライムプレイ! スライムににゅるにゅるされながら、じわじわと服を溶かされていく屈辱! ノア様に耐えられますか? さぁ、行きなさいブルー!」

「キュイイイイイっ!」


 ウェルヘルミナの掛け声に合わせ、ブルーが鳴き声をあげてピョンッと乃愛に飛び掛かった。

 服の上から隙間から、彼女の肢体に纏わりつくブルー。


「……ちょっ、やめっ……そこっ……ダメッ……ひぁんっ!」


 これにはさすがに耐えきれなかったか、乃愛は体をくねらせ嬌声を上げる。

 乃愛の敏感なところを責めながら、じわじわと服を溶かしていく。

 その官能的な姿に、思わず息をのむウェルヘルミナ。

 顔を真っ赤にし、ハァハァと息も乱れだす。


「……やっ! ダメッ……そんなっ……ふぁあっ! ……くぅん!」


 さらに悩ましげな声で悶える乃愛。

 肩、脇、腹と服が溶け、どんどん彼女の肌色が露わになっていく。

 そして――大事なところが見えてしまいそうなその瞬間――!


「――――っ!」


 ウェルヘルミナが声にならない悲鳴を上げた。


「もう無理! 無理ですわ! エロすぎ! エロすぎです! もうわたくしは……きゅうぅ……」


 頭に血の上りすぎたウェルヘルミナは、腰が砕けてヘナヘナと座り込んでしまう。


「あぅうううううううう……」

「キュイイイイッ!」


 頭から煙を出さんばかりに、エロにのぼせてしまったウェルヘルミナ。

 その様子に乃愛を責めるのをやめて主人の元へ向かうブルー。


「だ、大丈夫……大丈夫ですわ、ブルー。……でももう今日は無理……。ノ、ノア様、今日のところはこれで勘弁して差し上げますわ……ふみゅう……」


 ウェルヘルミナはそう言い残すと、心配そうに足元で震えるブルーと共に、フラフラとした足取りでベッドルームを出て行った。


「……で、私はどうすればいいの……?」


 取り残された乃愛は、もう少しで大事なところが見えてしまいそうなギリギリの姿で、しばらくの間ベッドの上に放置されるのだった。


 ……ギリギリ見えてないから18禁じゃないよ?

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