第九章「二度目の初恋を異世界で」
9-1 拙者の奴隷肉便器という手も……
1
スライムのダンジョンでレベリングした翌日――。
清霞に案内され、来訪者六人は閑静な街の一角へやってきた。
「ここがキミたちの住む寮よ」
そう清霞が紹介したのは、ニ階建てで体育館ほどの大きさの洋館だ。
立派な観音開きのドアを開けると、吹き抜けの広いロビーがあった。
吹き抜けの二階部分を手すりのある廊下が囲っており、正面にある広い階段からその廊下へと繋がっている。
「おー、豪華な屋敷だなぁ。なんだか貴族っぽい」
「照くん、ぽいじゃなくて元々貴族の別荘だった屋敷を改築したのよ。当主が殺されて跡取りもいなくて、お家断絶になっちゃったから」
「殺された? 清霞さん、もしかしてそこには深いミステリーが?」
「いいえ、乃愛さん。ただ使用人の妻に手を出そうとして、返り討ちに遭っちゃっただけよ」
「しょーもない理由だった!」
一階は共有のリビングや階が4フロアに分かれており、来訪者六名はその1フロアを住居として宛がわれるようだ。
「どこがいいかは話し合いで決めてね」
清霞に促されて話し合った結果、一階が男子、二階が女子という区分けで――
一階Aフロア…鏑木昴
一階Bフロア…櫻井朝哉
一階Cフロア…惣真照
一階Dフロア…空室
ニ階Aフロア…淡谷六花
ニ階Bフロア…周防燐子
ニ階Cフロア…東雲乃愛
ニ階Dフロア…空室
――という部屋割りとなった。
「それじゃ各自部屋へ――行く前に、皆に聞いておきたいことがあるんだけど……」
清霞さんが神妙な面持ちで皆に尋ねる。
「キミたち、今後の展望は考えているのかな? 日本に帰れない以上、こちらで何をして生きていくかを考えてもらいたいんだけど……」
「それならもう決まっているでござるよ!」
真っ先に答えたのは元キモオタの昴だ。
「拙者はもちろんチーレム目指して冒険者になるでござる! パーティメンバーは全員美少女で、エルフと獣人は外せないでござる!」
昴はムフーッと鼻息が荒い。
次に答えたのは乃愛だ。
「清霞さん、私も冒険者になるわ。そしてダンジョン攻略を目指すつもりよ」
それに倣い、真宵も自分の希望を語る。
「わ、私も一応冒険者になるつもりです……。そ、それで女の子ばかりのパーティを組みたいと思っています……」
「あら、だったら真宵さん、私とパーティを組まない?」
真宵のそのプランを聞き、彼女をパーティに勧誘する乃愛。
真宵は戸惑いの声を上げる。
「えっ? わ、私と……?」
「貴女は確かラノベ部だったわよね? という事は、こういうゲームの世界には詳しいのでしょう? 私はいまいちゲームには疎いから、真宵さんが組んでくれると助かるのだけれど」
「そ、そんな……乃愛先輩が、私なんかと……?」
「ええ、私には貴方が必要なの」
「――っ!」
その瞬間、真宵の顔が真っ赤に染まり、頭の中でファンファーレが響いた。
「み、乃愛先輩! いえ、乃愛お姉さま! 不束者ですがよろしくお願いしましゅ!」
「ありがとう。よかったわ、同じ日本人同士の方が気が楽だもの。――そうだ」
乃愛は甘噛みした真宵とガッチリ握手をし、ついでに燐子やリッカにも誘いをかける。
「どうせなら燐子さんとリッカちゃんもどうかしら? 同じ日本人同士で組めばやりやすいと思うのだけど?」
だか燐子は首を振る。
「私はこの街の衛兵に志願しようかと思っているんだ。
元警察官としては、冒険より街の平和を守る仕事の方が性に合ってると思ってね」
「リッカも冒険者は無理かなぁ~?
だって子供だしぃ~、なるならやっぱり学生だよね~」
どうやらリッカも誘いを断るようだ。
「学生になるって、山本先生はもともと教師じゃ――『ゴンッ!』――いってぇっ!」
不用意なセリフを言った朝哉の脛をリッカが蹴り上げた。
膝を抱えて悶絶し、地面を転がり回る朝弥。
「やだなぁ朝哉おにいちゃん。『リッカちゃん』でしょ? 『リッカちゃん』!」
「リ・……リッカちゃん……」
「そうそう、もう間違っちゃダメだよ?」
「は、はい……」
リッカの黒い笑顔に、顔を引きつらせながら朝哉が答える。
「と、ところで朝哉くんはどうするつもりなの?」
清霞に聞かれた朝哉は、体制を立て直しながら答える。
「オ、オレは蓮司さんにお願いして騎士団に入れてもらうつもりです。
前のドラゴンとの戦いの時、蓮司さんや清霞さん、陽ニィ達がめっちゃ強くて憧れたんですよね。
清霞さんは魔法職だし陽ニィはどこかに行っちゃったし、だったら蓮司さんに弟子入りさせてもらおうかなって。
それに少人数で冒険するよりも、大勢で切磋琢磨できる方が自分には合ってると思うので」
「そう、分かったわ。それじゃ後は……」
清霞は照に目を向ける。
「照くん、キミはどうするつもりなの?」
「いや、その……それなんですけど……」
照は沈んだ様子で清霞に尋ねる。
「そもそもジョブ[探偵]のボクって、何ができるんでしょう?」
「何がって……」
「戦闘スキルも生産スキルもなくて、できるのは事件の捜査だけ。こんなボクにできる仕事ってあるんでしょうか……?」
「そ、それは……」
それを聞いていた燐子が口を挟む。
「なら私と一緒に衛兵に志願するのはどうだ? 衛兵なら事件捜査の仕事もあるだろう」
「いえ、それは無理よ、燐子さん。戦闘スキルを持たない人間は、兵役に就くことができないわ」
清霞が首を振り否定する。
「そ、そんな……じゃあニートにしかなれないんじゃ……」
「よし照、じゃあこうしよう!」
涙目になる照に朝弥が提案する。
「オレと結婚して専業主婦に……」
「だからボクは男だって言ってるだろ!」
「なら私のヒモでもいいわよ」
「み、乃愛先輩まで……」
いつもの二人に詰め寄られてさらに涙目な照。
「だったら照殿、拙者の奴隷肉便器という手も……」
「――ふざけんな、昴! 死ね!」
「ウヒィッ! ちょっとしたなろうジョークでござるよ!」
「うるさい! 昴のは悪質なんだよ!」
マジ切れする照に、思わず逃げ出す昴だった。
そんな馬鹿なやり取りをしていると、何かを思いついたように清霞がポンと手を叩く。
「そうだわ、照くん。たしかキミ、鑑定スキルが使えたよね? だったら『鑑定屋』になってみたら?」
「『鑑定屋』?」
聞きなれない言葉に照が聞き返すと、清霞が説明してくれる。
「冒険者ギルドの隣に素材買取所があるんだけど、そこで魔物のドロップ品やダンジョンから発掘されたものを鑑定するのが鑑定屋よ。
[鑑定]ってスキルは生産職ならだれでも使えるんだけど、わざわざ鑑定士になろうとする人は少なくて、慢性的に人手不足なのよね。
照くんの[探偵の鑑定眼]は[鑑定]の上級と同レベルらしいし、歓迎されると思うんだけど」
「なるほど……それならボクにもできそうだな……」
……というより、そのくらいしかできないんじゃないかと考える照。
「分かりました。とりあえず『鑑定屋』というのをやってみたいと思います」
こうして来訪者たちの、ひとまずの進路が決まったのだった。
*
「広っ! しかもめっちゃ豪華!」
照が通されたのは、スイートルームもかくやという豪華なフロアだった。
間取りは3LDKだがとにかく広い。
こんな豪華な住まいを無料で用意してもらえるなんて、この国で来訪者という存在がどれだけ大事にされているかが分かる事案だ。
「一般的日本人なボクには、この広さと豪華さは持て余すよ……」
フロアを一通り見て回った後、リビングの高級感漂うソファーに腰を掛ける。
「すごい……化繊なんてないはずなのにフカフカのスベスベだ」
落ち着かない部屋で何とか落ち着こうとする照。
「……っと、そうだ! ステータスオープン!」
照は自身のステータスを開き、新しく得たスキルを確認する。
――――――――――――――――――――
【取得スキル解説】
[探偵助手]
探偵術レベル8で取得。
探偵の助手を任命できる。
助手任命はスキル[探偵手帳]から行う。
設定された相手はスキル[助手手帳]を得る。
――――――――――――――――――――
「探偵としてバディを決めるスキルって事なのかな?
でも、選んだからって何ができるんだ?
この、選ばれた人に与えられる[助手手帳]ってスキルは何だろう?」
さらにスキル[助手手帳]を二重鑑定する。
――――――――――――――――――――
[助手手帳]
探偵助手に任命されることで得られるスキル。
[探偵手帳]のデータを閲覧することと、手帳同士で遠隔通話することができる。
――――――――――――――――――――
「つまり選んだ人と、いつでも話ができるって事か。
……それだけ? 何だかショボくね?」
そう言うとゴロンとソファーに横になる照。
「探偵助手かぁ……どうしようコレ?」
昨日このスキルの事を話したときの、乃愛と朝弥の様子を思い出す――
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