4-2 セックスはスポーツ、浮気は文化
*
「はぁあああ……た……助かった……」
危機を脱した照は、大きく息を吐きながらヘナヘナと腰を下ろす。
(しかし……この女性はいったい何者なんだろ? 『魔の森の女王様』って言ってたし、そういや『従魔』とも言ってたよね……。見た目は人間だけど……やっぱりモンスターなのかな?)
気になった照は鑑定を使う。
――――――――――――――――――――
名前:マリー
性別:女 年齢:356 種族:ノーブルリッチ
状態:[隷属状態]
――――――――――――――――――――
【称号】
[ダンジョンマスター][魔の森の女王][従魔]
――――――――――――――――――――
【ジョブスキル】
[死霊術レベルMax][水魔法レベルMax][氷魔法レベルMax][阻害魔法レベルMax]
――――――――――――――――――――
【ステータス】
レベル:60
・
・
・
「……おや? そなた今、妾に鑑定をかけたかえ?」
「ふぇっ? い、いやや、マリーさん。そんな滅相もない!」
照は慌てて鑑定をやめ、誤魔化そうと嘘をついたが……。
「隠しても無駄じゃ。経験を積めば鑑定の気配くらい分かるようになる。怒らせたくなければ、むやみに他人の鑑定などせんことじゃな」
「ごめんなさい! 勝手に鑑定してごめんなさい!」
隠しきれないと分かると直球で謝る照であった。
「ところで……お前、誰だっけ?」
そして陽斗はまだ照が何者か分かっていない様子。
「ボクだよ、惣真照! 陽莉の親友の中の親友だった照ちゃんだよ!」
「照って……ああ、あのチビか? どうして異世界なんかにいるんだ?」
「実はある事件に巻き込まれて死んじゃって……って、陽斗兄ちゃんこそどうして異世界転移なんかしてるんだよ? 六年前に行方不明になったんじゃなかったの?」
「おーオレ、行方不明扱いなのか? オレの記憶では定番のトラック事故で死んだはずなんだけどな?」
陽斗は考えるようにうーんと腕を組む。
だが――「まあいいや」と、すぐにどうでもよくなったようだ。
「それより照、陽莉のヤツは元気か?」
「えっと……どうかな? ボクが死ぬまでは元気だったけど……今は生きているのか異世界転移しちゃったのか……どっちだろ?」
「うーん、まぁ大丈夫かな? 例え死んでても、こっちに転移してるなら無事(?)だろうし。それにしても、陽莉の事はずっと心配してたんだよ、オレの天使な巨乳妹は、ちゃんとGカップくらいには育ってるのかなって?」
「……そうだった。この人……おっぱい星人な上に歪んだシスコンだったよ……思い出したわ」
好きな子の兄が残念だった事にちょっぴり凹む照。
そんなガッカリな兄は、照に対してさらに深い質問をする。
「……で、どうなの?」
「……現在Hカップ。高一なので更なる成長の可能性アリ」
「陽莉……立派になってお兄ちゃんは嬉しいぞ」
妹の成長を、涙を流して喜ぶ兄であった。
「……ダメだこの人」
そんなおっぱいトークばかりの状況から、照が話を切り替える。
「と、ともかく……。まさか陽斗兄ちゃんまで異世界転移してるとは思わなかったよ。ホントに久しぶりだね、生きててよかったよ。」
「そうだな、久しぶりだ。おれの知ってる照は小学生だったが、今は高一か。見違えたよ」
「そりゃ陽斗兄ちゃんがいなくなって六年だからね」
「いやぁ、懐かしいな」
「そうだね~。久しぶりだよ、陽斗兄ちゃん」
「よし、じゃあ再会を祝してセックスでもしとくか?」
「――って何で? 何でそうなるの?」
会話の急な展開に、思わずツッコむ照。
その様子に陽斗は首をかしげる?
「なんだ、照? もしかして恥ずかしいのか? たしかに貧乳は不名誉な事だが、あまり気にするな。オレは貧乳でも一晩だけなら我慢できる男だぞ」
「一晩だけって……そんな事言われて喜ぶバカはいないよ!」
「……む、もしかして嫌なのか?」
照の態度に、本気で戸惑った様子を見せる陽斗。
「おかしいな、オレと会った女は大抵、オレに抱かれたがるはずなのに……?」
「陽斗兄ちゃん……アンタ異世界でどんな生活送ってるの?」
「別に……来訪者としては普通だと思うけどな。普通にチートでハーレムな感じだぞ?」
「それ普通じゃないから! [探偵]なんて使えないジョブで苦労してる人もいるから!」
「ちなみに照、オレはこっちの世界に来て学んだよ」
「……何を?」
「セックスはスポーツ、浮気は文化だって」
「最低だ! この人最低だよ!」
全力でツッコミ続けたため、ゼーハーと肩で息を切らす照。
(おかしい、ボクの知ってる陽斗兄ちゃんはこんな人じゃなかったのに……)
昔の陽斗を思い返してみる照。
(……いや、たしかに妹のおっぱいの成長を祝ったり、変な人ではあったけど……。
でも、ここまでおかしい人じゃなかったはずだよね……。
異世界転移していったい何が、陽斗兄ちゃんをこうさせたんだろ?
……よし、バレるかもしれないけど鑑定してやれ)
そしてコッソリ[探偵の鑑定眼]を使う。
――――――――――――――――――――
名前:瀬名 陽斗(せな はると)
性別:男 年齢:24 種族:人間
状態:なし
ジョブ:[勇者][魔物使い]
――――――――――――――――――――
【称号】
[異世界からの来訪者][百人切り][おっぱい星人][性欲魔人][英雄に至る者][S級冒険者}
――――――――――――――――――――
【ジョブスキル】
[聖剣スキルレベルMax][精霊魔法レベルMax][鞭スキルレベルMax][隷属魔法レベルMax]
――――――――――――――――――――
【ステータス】
レベル:66
HP:872/872 MP:387/387
攻撃力:456 防御力:320 魔法力:119
俊敏力:210 幸運値:74
――――――――――――――――――――
【アクティブスキル】
【聖剣スキル】
[セントスラッシュ][ホーリーインパクト][コンビネーション][チェインブレイド][レゾナンスエッジ][クアッドノヴァ][ダイナストロア][スターバースト][グランドクロス]
【精霊魔法】
[ヴェント][リヒト][アクウァ][アルボル][イグニス][シャドゥ][フロスト][プアゾン][グロム][クロノス]
【鞭スキル】
[ツインウィップ][バインド][クイックスラップ][ブラッドリップ][マイティラッシュ][サークルバインド][バイパーショット][スタンピード]
【隷属魔法】
[テイム(上級)][従魔鑑定][コーリング][サモン][リポート]
――――――――――――――――――――
【パッシブスキル】
[経験値×10倍][精力増強(大)][リバーサルソウル][ピークエクスペリエンス][攻撃力+25P][HP最大値+150P][MP最大値+100P][従魔の絆][隷属の極意]
――――――――――――――――――――
「――っな!」
鑑定結果に驚く照。
複数のジョブ、ステータスの高さ、スキルの多さ、性欲関連の称号……。
だけど、それらより気になったのが……。
(――っ、隷属魔法!
これってウェルヘルミナと同じ魔法じゃないか!
しかもレベルMax?
だったら……陽斗兄ちゃんなら……)
「……? どうした、照? オレのステータスを見たまま固まっちゃって」
当然のように鑑定されたことに気付き、尋ねてくる陽斗。
対して照は――
「お願い、陽斗兄ちゃん! 乃愛先輩と燐子さん……いや、隷属魔法にかかったあの街のみんなを助けてよ!」
――陽斗に向かってそう懇願した。
「…………どういう事だ? 詳しく聞かせろ」
ようやく真面目な顔をした陽斗に、照は今までのいきさつを語る。
異世界転移から成人の儀、そしてランダムテレポート……。
照は異世界転移してから魔の森に来るまでの経緯を全て陽斗に語って聞かせた。
そして照が話を終えたとき、陽斗は険しい表情になっていた。
「そ、そんな……そんな恐ろしい事が……」
「分かってくれた? 陽斗兄ちゃん!」
「まさか…………照が男になっちゃっただと?」
「いやいや! 今はそこ、どうでもいいから!」
慌ててツッコミを入れる照。
だが――
「何言ってるんだ、重要な事だろ!」
――と、陽斗はいたって真剣な様子。
「可愛い女の子のお願いだと思って聞いてたら、まさかの男だったなんて……。え~、やる気出ないわ~」
「こ……この人……異世界に来てすっかりダメ人間になっちゃって……」
陽斗の変貌ぶりに思わず涙を流す照。
一方の陽斗は――
「……いや待てよ。男でもこのくらい可愛ければ一回くらい……試してみるか……?」
――と、何だか怖い事を言い始めた。
「ちょっ、試さないで! やめてよ、怖い事言うの!」
「……ああそうだな。想像してみたが、やっぱりおっぱいが全く無いのは無理だ」
「こ……この人は……。どこまでおっぱいが好きなんだ……?」
「なんだ照、お前はおっぱいが嫌いなのか?」
「――大好きだけど! でも今はそれどころじゃないだろ! とにかくお願い、助けてよ! 皆に掛けられた隷属魔法、陽斗兄ちゃんなら解除できるでしょ?」
「うーん、どうするかなー」
腕組みをして考え込む陽斗。
その様子を見た女王様が語り掛ける。
「なんじゃ主様、もしかして迷惑しておるのか? ならその人間、妾が処分してやってもよいぞ?」
「……………………いや、コイツは大切な知人だ。手を出すな」
「随分と間があったけど何で? 何で、ねぇ陽斗兄ちゃん!」
ツッコむ照に、だが二人は構わずイチャつき始める。
「主様がそう言うのなら手は出さぬよ。妾は主様の言いなりじゃからな」
「アッハッハ、可愛い奴だな、マリーは」
「ウフフ、だったら主様、もっと撫でてほしいのじゃ」
イチャイチャイチャ………………。
「…………あのぉ、そもそもお二人はどういったご関係で?」
見ていられなくなった照が、思わず質問してみた。
「……関係のう。言ったと思うが、妾は主様の従魔じゃ。
昔、主様と戦って、妾が負けた。
その時の強さに惚れた妾が、主様の従魔になる事を受け入れたのじゃ。
以降、魔の森から長時間離れられぬ妾に、主様は時々こうやって会いに来てくれるのじゃよ」
女王様が話していたそのとき――近くの茂みがガサリと音を立てる。
そして――
「ぐ……ぐゥウうううう……」
――先ほどと同じように、あのホブゴブリンが再び姿を現した。
「どうしたのじゃ? 帰れと言うたはずじゃが?」
森の女王様が睨みを聞かせる。
だが今度は――
「……はやリ納得できなイ……そこの人間を殺させロ!」
――そう言ってホブゴブリンは引き下がらない。
「兄を殺した犯人ハ、そいツ以外に考えられン! だカら殺さなけれバ気が済まなイ!」
「ふむ……お主、何を根拠に申しておる?」
女王様が腕組みをして尋ねると、ホブゴブリンはその根拠を語る。
「兄の遺体には大きな刀傷があっタ!
兄の命を奪ったのは人間の作った剣ダ!
鉄の武器を使うモンスターなドこの森にはいなイ。
なら犯人は人間以外にいなイ!」
「……なるほど、疑う根拠はあるのじゃな」
「それにソの人間が殺したのは兄だけではなイ!
兄を含めてこれまでに八匹のゴブリンが同じよウに切り殺されていル!
このマまそいつを放置すれば、また仲間が殺されル!」
「……切羽詰まった事情もあるようじゃな。だが間違いじゃ、此奴は犯人ではないぞ」
「違っていても構わなイ! 人間なんぞついでに殺して何が悪イ!」
「妾も人間などどうでもよいが、一応は主の知人じゃからな」
目の前で自分の命のやり取りがなされているのを聞き、戦々恐々とする照。
「ちょっと待って、ボクの命をそんなに軽く扱わないで!」
そしてその隣で――
「よし、じゃあこうしよう」
――と、陽斗が何かを思いついたように手を叩く。
「あのホブゴブリンが言っている連続殺人……じゃない連続殺ゴブ事件。照が解決してやれよ」
「……って、はいぃ? 待ってよ陽斗兄ちゃん! どうしてボクがそんな事?」
「だって照、お前[探偵]なんだろ? だったら探偵らしいところを見せてくれよ。そしたらオレも、お前の友達を助けるの手伝ってやるから」
「えぇえ~……なにその交換条件……? そもそもジョブが[探偵]なだけで、ボクが探偵なワケじゃないんだけど……」
「そんなに嫌か? ならいいや。その代わり照の友達は助けないし、お前はずっとこの魔の森にいる事になるな」
「うぇえっ! それは困るよ!」
無茶な条件を突きつけられて慌てる照だが、残念ながら[探偵]という戦えないジョブしかない人間に拒否権はない。
「……分かったやるよ、やればいいんだろ」
照は諦めた様子でそう言うと、こっそりとホブゴブリンの様子を伺う。
「ぐルるぅうううウウウ……」
(……でもやっぱ無理! こんな奴と犯人探しなんて無理!)
めっちゃ睨んでくるホブゴブリンに、照は心の中で号泣するのだった。
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