2-4 そういうヤバめのチートを希望されても構いませんよ?
「だいたい本物の犯人は、すでに異世界転移を済ましてますしね」
――などととんでもない事を言い出した。
「ふぇっ! それってどういう……って、危ない危ない、またドッキリですね。もう騙されませんよ」
「……………………」
「……どうして何も言わないんです?」
「いえ……ちょっとしゃべりすぎたと思って……」
「な、何ですかそのリアクション? ホントなの? ドッキリなの? どっち?」
信じると騙され、疑うと黙る、女神様の手口に翻弄される照。
「ではいよいよ異世界転移です、心の準備はいいですか? できたら『はい』と答えてください」
「くっ! 答えない気ですか?」
「うるさいですね、順番通りこなしてようやく貴方で最後なんです。さっさと終わりにさせてください」
「……順番通りって言ってる時点で、転移者がボク以外に複数いるって自白してますよね?」
「……心の準備はいいですか?」
「なにがなんでも流す気ですね、分かりました」
やられっぱなしの照が、ここで反撃に転ずる。
「じゃあ心の準備ができてないので、ボクは当分ここにいます」
「…………女神を脅迫する気ですか?」
「いえいえ、滅相もない。だれも女神様の残業を増やそうだなんて思ってませんよ」
ぐぬぬっ……という表情を一瞬みせる女神様。
だがすぐに切り替えた様子で照に告げる。
「……分かりました、こうしましょう、惣真照さん。このままサクッと転移していただけるなら、代わりに私が何でも願いを叶えましょう」
「ん? 今、何でもするって言ったよね?」
「ええ、もちろんで……ごめんなさい、何でもは言い過ぎました」
嫌な予感がしたようで、素直に謝る女神様。
「まぁでも、たいていの事はオッケーですよ。例えば……専用のチートとか? 考えただけで相手が死んだり、回復魔法と言いながら何でもアリだったり、そういうヤバめのチートを希望されても構いませんよ?」
……それは確かにヤバそうだ。
「……ちなみに地球に帰してもらうというのは?」
「残念ながらそれはできません。異世界転移は一方通行がお約束、いくら駄々をこねたところでそれだけは無理です。貴方はラノベを読んでるんですよね? だったら十把一絡げのラノベ主人公のごとく、貴方もサクッと未練は捨ててしまいましょう!」
「……そういう言い方をされると抵抗を覚えるけど……確かに帰れないなら諦めるしかないよね……」
「その通り! さぁ前向きに、貴方の願いを告げるのです」
「ボクの願い……それなら一つ、ずっと願い続けたものがある……」
その照の言葉を聞き、意を得たと言わんばかりの笑顔を見せる女神――。
「さあ言いなさい、惣真照。貴方は異世界転移に何を望みますか?」
「ボクは……ボクが望むのは………………………………………………
………………………………………………………………………………
……チンコだ!」
「…………へ?」
思ってもみない答えに、女神の笑顔が凍り付いた。
「だからチンコだよ! ボクは物心ついたときからずっとチンコが欲しかったんだ! チンコチンコ! ボクにチンコをください!」
「――っ! 分かった! 分かりました! つまり男に生まれ変わりたいって事ですね? 分かったからチンコを連呼しないでください!」
思わず耳を塞ぎ、顔を真っ赤にしてイヤイヤをする女神。
「……ホントに? ホントにボクを男にしてくれるんですか?」
期待に目を輝かせる照に、疲れた様子で女神は答える。
「……ええ、その程度なら朝飯前です。(というかその程度の願い、女神に頼まなくたって、転移すれば勝手に叶っちゃうんですが……)」
「……ん? 何か言いました?」
「いえ何も。それで、心の準備はできましたか?」
「はい!」
「それでは……(後で何もしなかったと言われたら嫌だし)サービスで服ぐらいは男物に変えておきましょう。
それでは異世界へ送りますよ。さようなら――」
そして最後は投げやりに、女神は照を異世界に送るのだった。
5
異世界エスセリオ――。
その世界の東の大陸の、東原と呼ばれる地方にあるセーヌ王国。
そのセーヌ国に所属するアインノールド侯爵領を収める領主の住む城。
その城の地下にある、三人の来訪者が閉じ込められた牢屋では――。
「……そう……ハァハァ……そんな事が……んくっ……あったのね……ハァハァ」
「だ、大丈夫ですか乃愛先輩? 何だか顔が赤いですよ?」
「気にしないで照くん……ハァハァ…………魔法陣を見つけてから爆弾現場特定までの流れで……ハァハァ……ちょっと……んあっ……しちゃっただけだから……ハァハァ……」
「……しちゃったって、何を?」
――牢屋では、照の話を聞いた乃愛が悶えていた。
「なるほど、それで照は男になったのか。しかし……その話が本当だと、私たちの中に爆弾犯がいると言う事になるぞ?」
そう言ったのは燐子だ。
「しかも……その犯人は乃愛しかありえないのだが……」
「……何よそれ……ハァハァ……ちょっと待って…………すぅううう、はぁあああ………………」
呼吸を整え、持ち直そうとする乃愛。
「すぅううう…………よし、もう大丈夫。それで、燐子さんは私が連続爆弾魔だというのね?」
「私は自分が爆弾魔ではないと知っているし、照くんも違うと考えていいだろう。だとしたら消去法で、犯人は乃愛以外にいないじゃないか」
「面白い事をいうのね、燐子さん。それで言うなら、私も私が犯人じゃないと知っているわ。だから私にとっては、犯人は燐子さん以外に考えられないのだけど」
「――って、ちょっと待って!」
剣呑な雰囲気になる二人に、慌てて照が口を挟む。
「――そうだ! 思い出しました! 異世界転移してきたのは、ボクたち三人だけじゃないかもしれません!」
「……どういう事かしら、照くん?」
「ウェルヘルミナ様……いえ、ウェルヘルミナが言ってたんですけど……」
照はウェルヘルミナの言葉を思い出す――
『魔法陣が消えたと言う事は、どうやら今回の来訪者はテル様で最後のようです。これで四人……いえ、あの方は消えてしまわれたので、全部で三人のようですね』
――たしかにウェルヘルミナはそう言っていた。
「転移されてきたあの魔法陣から光が消えたとき、ウェルヘルミナはそう言ってたんです。これって『四人いたけど一人消えた』って事ですよね?」
「ええ、確かにそうね。その四人目がいたとして、異世界に来てすぐに逃げ出せたと言う事は、こちらの世界の知識を持っていたのかしら? そう考えると、今マヌケに捕まってる私たちより、その『消えた来訪者』の方が犯人として疑わしいわね」
そう乃愛が納得の意を示すと、燐子もそれに追随する。
「うん、そうだな。七芒星で異世界転移する方法なんて知ってたんだ、相当事情に通じてるヤツに違いない」
「……アレ? 燐子さんは七芒星の噂、聞いた事が無いんですか?」
「……何だ、その噂というのは?」
「昔流行った異世界転移する方法の噂です。
『満月の夜、七芒星に七人の生贄をささげよ。さすれば自らの命を持って、異世界の扉は開かれん』
……って。
まさか本当に異世界転移できちゃうとは思ってもみなかったですけど」
「……知らないな、今初めて聞く話だ」
燐子がそう言うと、今度は乃愛がそれに続く。
「私も聞いた事が無いわね、そんな噂。いつ頃話題になった話なの?」
「ボクが小学校六年くらいだったと思うんですけど……アレ? 乃愛先輩も知らないんですか? 結構話題になったと思うんだけど……」
(そういやあの噂って、どうやって知ったんだっけ? 最初に言い出したのは……たしか陽莉が……)
照が頭をひねっていると――
「ともかくこれで、照くんが男になった理由が分かったわ。ついでに私たちがこの世界に送られてきた理由もね。あと分からないのは……燐子さん、貴女の正体よ」
――そう乃愛が別の問題を切り出してきた。
「……私の正体?」
「あの爆発に巻き込まれた人間が異世界にやってきたというのなら、普通に考えれば貴女もウチの学校の生徒だと考えられるけれど……。
あなたのステータスを見たとき、年齢が35歳になっていたわ。
だとしたら年齢的に生徒ではなく先生。
だけど私には、貴方のような先生がいたという記憶はない。
それに見た目も十代にしか見えないし……。
ねぇ、燐子さん。貴女はいったい何者なの?」
「……そうだな、じゃあ今度は私の事を話しておこうか」
そうして燐子は一息つくと、自分が何者かを語り始める。
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