7-5 悪夢再び……!
*
ひとまず彼女――暮乃真宵を落ち着かせるため、彼女が引きこもっていた部屋のベッドに座らせる。
ようやく泣き止んだ様子を見て、少しずつヒアリングを開始する。
「私……陽莉さんが羨ましかったんです……」
真宵はそう言うと、少しずつ自分の事を語り始めた。
「とても美人で、優しくて、ホワホワしてて……陽莉さんはまるでお姫様みたいな人でした。
そしてそんな姫様を守る、カッコよくも可愛い騎士様、それが照さまです。
小さい体に男勝りの性格で、陽莉さんが困っていると颯爽と現れて助けてくれる、そんな素敵な照さまに、私はずっと憧れていました。
私もまるでお姫様のように、照さまから守られたい。
陽莉さんのようになりたい。
きっとそう思っていたからでしょう。
異世界転移というものに巻き込まれて、気付くと私は陽莉さんになっていました。
私が陽莉さんの体を乗っ取ってしまった――。
そう考えると怖くて、皆さんに顔を合わせることができなくなっていたんです。
ごめんなさい、私が陽莉さんになって……ごめんなさい……」
そこまで話すと、肩を震わせ泣きじゃくる真宵。
「私のせいです……私のせいで陽莉さんが……うぅう……」
「ちょ、ちょっと待って、真宵ちゃん!」
慌てて照が説明する。
「真宵ちゃん、キミは勘違いしてるよ。キミは陽莉の体を乗っ取ったわけじゃない。キミのせいで陽莉が死んじゃったり、消えちゃったりしたわけじゃないんだ」
「……違うんですか?」
「むしろ陽莉は命が助かっているはずさ。ボクたちは死んでこの世界にやってきたけれど、陽莉は元の日本で今も元気に生活しているはずだよ」
「そう……なんですか……よかった……うぅ……私てっきり……ヒック……」
「そうだよ、だからもう泣かないで、陽莉ちゃん」
「はい……クスン……」
誤解だと分かりホッとする真宵は、代わりに浮かんだ疑問を投げかける。
「でも……だとしたら私は、どうして陽莉さんと同じ姿になっていたのでしょう……?」
「それならきっと、キミが『陽莉みたいになりたい』と思っていたのが原因だよ。どうやら異世界転移すると、その人が望む姿になっちゃうみたいなんだよね」
照はヤレヤレと両手を掲げながら話を続ける。
「鏑木昴って知ってる?
ラノベ部の隣にあったアニメ部の副部長なんだけど、コイツが転移して凄いイケメンに変身しちゃってさ。
そんな風に全く別人になっちゃう人もいるみたいなんだよ。
ボクだってほら、見た目は変わっていないけれど、性別は男に変わっちゃったし」
「…………は?」
その瞬間、能面のような表情になる真宵。
「……照さま……今、何と言いましたか?」
「……へ? いやあの、ボクが男になっちゃったって……?」
「それ……本当ですか? ……いえ、きっと冗談ですよね? 嘘ですよね?」
「い、いやその……ホ、ホントだけど……?」
「……あのカッコ可愛かった照さまが……男になった……?」
「か、カッコ可愛いかどうかはともかく……男になりました……」
「……い」
「い?」
「イッヤァアアアアアアアアアアッ!!!」
その瞬間、真宵のつんざく悲鳴が響き渡った。
「ウソよウソ!
あの照さまが、あのカッコ可愛い照さまが、なんであんな汚い男なんかに!
ウソ、信じない! 絶対ウソよ!」
「あ、あの……真宵ちゃん……?」
「……ダメ、そんなの絶対ダメよ! 男なんて穢らわしい存在になるなんて……! 何とかしないと、何とか……そうだわ!」
閃いた真宵は照に飛び掛かり、彼が「ちょっ、何を……っ!」とか言ってる間に、腰につけた[光の属性剣]を奪い取った。
据わった目で照を睨む真宵の手に、抜き身の剣がキラリと光る。
「大丈夫……見た目はまだ女の子だし、今ならまだ間に合うわ……」
「ま、真宵ちゃん、何をする気……?」
「今すぐチ〇コを切り落とせば……大丈夫、まだ大丈夫よ!」
「ちょ、まっ! じ、冗談だよね!」
返事代わりにブンッ!と振り回した真宵の剣が、のけ反った照の体をかすめる。
彼女が本気なのを知ると、照は慌てて部屋を飛び出した。
「待ちなさい! その汚らわしいモノを差し出しなさい!」
「ふざけんなぁあっ! 折角授かった大事な息子なのに!」
真宵から必死の形相で逃げる照の頭に、いつもの天の声が聞こえる。
『事件解決によりジョブスキルがレベルアップします』
『[探偵術]が6から7にレベルアップしました』
『パッシブスキル[探偵の観察眼]を取得しました』
「今はそれどころじゃ……てか、何も解決してないよね、この状況!」
天の声にツッコミを入れる照。
そして――
「照さまぁっ! 今すぐ助けますぅうっ!」
「いーやー! 殺されるぅううううっ!」
――チ〇コを狙われた照は、夜の城の中を全力疾走で逃げ惑うのだった――。
*
――翌日。
柱の陰から周りの様子を伺いながら、照がコソコソと城の中を移動していた。
「おや、照殿? 何しているでござる?」
後ろから掛けられた声にビクッと怯える照。
「な、何だ、昴か……脅かすなよ」
相手が真宵でなく昴だったことに、ホッと胸をなでおろす照。
「……照殿、何をそんなにビビってるでござる?」
「いや、真宵ちゃんに見つかったんじゃないかとビックリしただけだよ」
「真宵殿……ああ、そういえばあの陽莉殿は、本当は真宵殿だったそうでござるな」
「……そうなんだよ。しかも今は、彼女のせいでボクの息子が大ピンチなんだ」
照は大きくため息をつくと、昴に尋ねる。
「そういや昴は、真宵ちゃんが今どこにいるか知ってるかい?」
「彼女ならたしか『成人の儀』を受けに行ったでござるよ」
「『成人の儀』って、ジョブをもらえるアレの事? 今頃受けてるの?」
「彼女はこちらに来てから、ずっと引きこもっていたでござるからな」
「そっか……でも今は彼女が城にはいないのか、ならしばらくは安心だな」
そう言って安心した笑みを見せる照。
だが――
「いいえ、『成人の儀』ならもう終わりましたよ」
再び後ろから声を掛けられ、「ヒィッ!」と悲鳴を上げる照。
振り返ったそこに居たのは――
――昨夜までとはまるで違う姿の真宵だった。
「ま、真宵ちゃん、その恰好は……?」
「……イメチェンしました。あのままだとあまりに陽莉さんそのものでしたので」
ツンとした態度でそう答える真宵。
そんな今の真宵は、長かった栗色の髪をバッサリと切りショートカットにしており、それだけで印象が随分と変わっている。
さらには露出度多めの黒装束に身を包み、その様子はまるでくノ一のような出で立ちだ。
「安心してください、照さま」
怯える照に、真宵は優しい口調で話しかける。
「いえ、男に様付けはしたくないので、今後は『汚物』……いえ、普通に『照くん』と呼ばせていただきますが……」
「……今、何気に酷い呼称がサラッと混じってたよね?」
「ともかく今後は昨夜のように、照くんに襲い掛かるような事はしません。
今の穢れ果てた男の『照くん』は、あの『照さま』とは別人です。
だから私の憧れた『照さま』は、あの爆発と共に死んだと思って、奇麗サッパリと忘れようと思っています」
「お、男に生まれ変わっただけでこの酷い言われよう……」
「今思うと、この『照さま』に対する気持ちは、私の初恋だったのかもしれません。
初恋が叶わないとなった今、この心の傷を埋めるのは、新しい恋しかないと思っています」
「……アレ、その考え方、どこかで聞いた気が……」
「というわけで私はチーレムを目指します!
ボーイッシュ少女によるボーイッシュ少女のためのハーレム!
それがこれからの私の目標です!」
「あー! ボクの目標と被ってる! パクったな!」
「というわけでこれから忙しくなるので、これ以上汚物……じゃなくて照くんには構っていられません。
見逃してあげるので感謝してくださいね?」
「ひ、酷い! 何から何まで酷すぎるよこの子!」
思わず照が悲鳴を上げる中、昴が真宵に尋ねる。
「ところで真宵殿、その恰好……。もしかして真宵殿のジョブは……!」
「ええ、[忍者]です。なのでそれに合わせた装備をしてみました」
「ほほぅ……これは中々、目の保養になるでござる……ジュルリ」
「どうでもいいですが、あまりじろじろ見ないでくださいね、汚物二号……じゃなくて昴くん」
そのやり取りを見ていた照は、(嫌ってるのはボクだけじゃなく男全般なのか……)と学習する。
そして[忍者]というジョブが気になり、[探偵の鑑定眼]を使ってみる事にした。
――――――――――――――――――――
名前:暮乃 真宵(くれない まよい)
性別:女 年齢:16 種族:人間
状態:なし
ジョブ:[忍者]
――――――――――――――――――――
【称号】
[異世界からの来訪者][クレイジーサイコレズ]
――――――――――――――――――――
【ジョブスキル】
[忍術スキルレベル1][忍法スキルレベル1]
――――――――――――――――――――
【ステータス】
レベル:1
HP:25/25 MP:28/28
攻撃力:13 防御力:10 魔法力:12
俊敏力:15 幸運値:8
――――――――――――――――――――
【アクティブスキル】
[手裏剣術][火遁の術]
――――――――――――――――――――
【パッシブスキル】
[経験値×10倍][精力増強(小)]
――――――――――――――――――――
「ぬぁあああっ!」
その鑑定結果に、思わず声を上げる照。
何故なら――
(ク、クレイジーサイコレズ……)
――そこには、在ってはならない称号があったからだ。
(これってウェルヘルミナの持っていた称号と同じものだよね?
や、やばい……ウェルヘルミナと同じ変質者がまた一人……。
ボクはもしかして、とんでもない化け物を世に解き放ってしまったのではないだろうか……?)
あの引きこもりの扉を開けてしまった事を後悔しながら、照と他の来訪者たちとの再会は、無事(?)終了したのであった――。
――8話に続く。
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