最終話 歩き出そう、未来(あした)へ。
1. 新たなる決意
そこは全てがオレンジ色の世界。
10月11日の夕陽に染められた、その濃淡のみで表現されるモノクロの世界。
幼馴染みで初恋の
振り返り、依存して、逃げていた思い出の場所……
あの時と同じ景色の中に、今俺は立っている。
これはいつもの明晰夢ではない。
再び目にする事になった、現実の世界。
夢の中で何度も見ていたブルドーザーの脇に……
今日は
なつきは俺を見詰め、優しく微笑んでくれている。
あの時こうしとけばというターニングポイントに戻ってきた。
ただし、性別は変わったけど。
「
ああ。
「みんなと、別れは済ませたの?」
ああ。
「そっか……
辛かったでしょうね」
ああ。
「あなたは良くやってきた。
それは側で見てきた私が一番分かってる!」
ああ、そうだな。
「あと一歩よ。
ゴールテープがあなたに切られるのを待っているわ」
ああ、そうだな。
「今の台詞、ちょっとかっこ良くない?」
ああ、そうだな。
「………………」
………………
「へんぶれげばちょびぺ」
ああ、そうだな。
「何が!」
えっ!
「何がそうなんですか!」
あ、え? ああ、そうだなあ、あ、あは、あははは。
「笑ってごまかすなっ!」
ハイッ! すみません!
「まったく。
また私を
ごめん。
俺もまさか、ここまでやられるとは思わなかったんだよ。
「やられる?」
ああ。
「何が?」
ええっ?
「…………」
何がって、その、あれだよ……
「だから、あれって何なのよ」
だ、だから、その……
あれ、あれだよ、ほら、その……
「ん?」
……恋だよ。
恋しちゃったんだよ、なつきに。
「知ってるわよ、そんな事」
んな! てめえ~!
「何怒ってんの? そんなの、大前提の事だったでしょ。
過去の負の清算するのに、形だけ真似るつもりだったの?」
そりゃあ、そうだけど……
「あなたのよく言う、物事の本質って、
あなたが偽物でも変わらないの?」
うっ……
「なつきくんは本物よ。
本気で恋してる」
それは分かってる。
「分かってんなら、照れたり、恥ずかしがる事ないでしょ」
そ、そんなんじゃないんだよ。
「何が?」
好きなんだよ、なつきが。
もう、どうしようもない程にさ。
好きで好きで好きで好きで……
ずっと女のままでもいいって。
このまま
よぼよぼの爺さん婆さんになったら、ふたりで支え合ってひとつになって。
同じ人生を共に過ごしたい……
同じ想いを、ふたり同じだった想いを叶えたい……
このまま此処に残っていたい!
「ともか……」
ダメだ!
絶対にダメだ!
これは俺のもんじゃない……
俺は失敗した。
あの時俺は失敗したんだ。
勇気を出せず、努力もせず、やらなかった、やってこなかった!
俺にひとみちゃんを責める資格なんてない。
あれは俺だ!
俺の事なんだ!
この世界はともかの物だ。
努力も、苦労も、その先の達成感も。
経験も、挫折も、恋愛も、幸福も。
この未来は全て、ともかの物だ!
俺のもんじゃない!
そんなこたぁ、分かってんだ……
分かってんだけど、辛いんだ……
「ともか」
えっ!?
「今度は私がギュッてしてやってんの」
葉月……
「んふっ、なでなでもしてあげる」
おまっ!
……う、うん、ありがとう。
「ともかは頑張った」
おい、よせよぅ。
「ううん、すごく頑張った」
やめてよぅ。
「でもそれって、失敗やら後悔があったからじゃないの?」
……そうかも。
「ともかちゃんも、色々経験を積んで成長するのよ」
そうだな。
あいつの未来だもんな。
俺が横取りしちゃいけない。
「何言ってんの、ともかちゃんって、あんたの事よ」
へ?
「ともかちゃんは昔失恋して、後悔して……
でも立ち上がって、夢に努力しました」
……うん。
「そして夢にも挫折して、クサって、バイトばかりしました」
うん……
「そしてまた
どうする?
……いいよ、好きにして。
私もずっと、側にいてあげる」
ともかちゃんは……
更にまた失恋して、後悔もして、その大きな壁を乗り越える。
腐っていたのも経験。
人との別れも経験。
そしてもちろん、出会いも。
俺はまだ、成長できる!
歩き出せば、必ず前に進む!
立ち止まり、弱音を吐いても、歩き出せばまた進み出す。
諦めないかぎり、挫折はしない!
「それが貴方の、八重洲ともかの本質だものね」
ああ。
諦めの悪いのが、俺のいいクセなんだ。
「うふふっ」
あははは。
ありがとう、葉月。
こればっか言ってるな。
「ありがとう、ともか。
私もこればっか言ってるわよ」
あははは。
「うふふっ」
ーーーーーーーーーーーー
朝が来た。
10月11日、それがオレンジの運命の日付。
この半年間に意味があったのか、試される様な気がする。
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