第六話 記憶に残る修学旅行とは。

1. 記憶無くしたことないんだけどな……

 ここは、オレンジ一色のモノクロの世界。

 秋の夕陽が見馴れた近所の風景を……

 一枚の絵画へと変えていった。


 はずなんだけど、辺り一面、霧がかかった様に白い。

 足元もふわふわするし、まるで魔法のもやに包まれてしまったみたいだ。

 夢の中で夢だと気付く明晰夢を見ている訳だが、どうやら今日はいつもと勝手が違う。


 まあ、理由は大体分かっている。

 久し振りにビールを1本空けて寝たからだ。

 俺、八重洲ともかの精神はオッサンだが、体の方は女の子なのだ。

 俺的には数週間ぶりの飲酒でも、体の方ではあの量は初めてだったのかもしれん。

 ま、八重洲家に生まれたのなら、初めてって事ぁないだろうが。

 おっと、飲酒はハタチになってから。でした。


 とにかく、一見景色は変わっても、ここはいつもの夢の舞台。

 それは感じる。

 ほら、見馴れたブルドーザーのとこに、江藤なつきが微笑んで……

 いない!

 睨んでる!

 何で?

 お、俺何かしたか?

 昨日も夢の中でジト目をされたが、あれは俺の下衆(?)な発言のせい。

 でも今日は特に、なつきに文句言われる様な事してないし……

 虫の居所が悪いとか?


「んな訳ないでしょっ!」


 怒られた。

 じゃあ、やっぱり飲酒?

 いやいやいやいや俺、ハタチ×2なんですけど。中身は。


「そんな事じゃないわよ!」


 ええっ!?


「言いたい事はある。

 でもその前に一言いいかしら?」


 は、はい。


「何やってんだ! エロ爺ィー!」  


 ええっ!?

 いくらなんでもジジイはないでしょ。


「うっさい!

 どうすんだ? 明日から!」


 えっ?


「とん吉にあんな事して、明日からどう接するんだと聞いてる!」


 えええっっ!

 俺何かした?


「とぼけないでよ!

 酔った勢いでとん吉ヤスコちゃんに……

 あん、な、事。こん、な事……」


 えーーーーーーーーー!?


 いやいやいやいや全然わかんない!

 身に覚え無い。

 意味わかんない。


「えっ? 嘘じゃなくて、ほんとに覚えてないの?」


 ていうか、何やってたの俺っ!

 細かく教えて下さいっっ!


「えええっっ!?

 そ、その……まず、部屋に入って……

 寝てるとん吉ちゃんを後ろからギュー」


 後ろからギュー。


「それで……シャツの下から、両手をすべりこませて……」


 すべりこませ……て、なぬっ?


「わしづかみして、揉みしだいて……

 って、なに言わせるのよ」


 ううっ、それはやはり直にって事?


「もういいわよ! この話は!

 ほんとに記憶が無いんだったら、それでいいわよ」


 いやいやいやいや、本当に明日からどう接すんだよ?


「覚えてないの一点張りでいいでしょ。

 女の子相手のファーストキスなんてノーカウントよ!」


 キスもか!

 まじか……

 ま、まあ、ほんとに覚えてないからなぁ。


「そんな事より、私が言いたいのは!」


 ああ、そうだった。


「いつまで、なつきくんを放っておくのよっ!

 早く助けなさいよ!」


 まあ、それは俺も考えてんだよ。

 でも他クラスだし、どうやって……

 

 ん?


 なつきくん?


 なつきがなつきを助けろって……


「わたしは葉月はづき

 なつきくんの魂に寄り添って、応援してるの」


 えええっっ!


「いつも、あんたに叫んでんだけど、聞こえなくって」


 えええっっ!


「今日はやっとあんたに文句言えてるって訳よ」


 ここに来て新キャラ?

 俺のキャパではついて行けない……


「何よ、その新キャラって!」


 そういえば態度だけじゃなく、実際になつきよりちょっとでかいな。


「だからエロジジィーだっつーの!」


 何、胸押さえてんだよっ!

 体が大きいから、中学生くらいかなって言ってんだ!


「そうよ! 中2……え? 分かってるわよ。

 そんなに話してないでしょ」


 ん? 何?


「うん。そう言えばいいのね」


 だから何言って……


「あなたには情報はあまり与えるなって言われてるの」


 ええ!?


「秘密の多い女はミステリアスでしょ。だって」


 おい、解るように言えよ!


「とにかく、なつきくんを早く助けなさいよ!

 ずっと見てるんだからね!」


 おい、だから……


「っていっても、あの方経由だから、

なつきくん以外はぼんやりとしか分からないんだけど」


 あの方?


 おい! あの方って誰だよ!


「決まってるじゃない。あなたをこの世界に送り込んだ御方でしょ」

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