7. ここはあの世?
どうやら俺、八重洲ともかは死んだらしい。
よく映画なんかで、死んだ後に雲だか霧だかに包まれてるシーン。
あれに良く似ている。
足元も何だかフワフワしているし。
これで女神様なんか現れたりしたら、チート能力貰って異世界転生したりして。
TSした世界に行ったら殺されて、今度はうはうはハーレム世界に行っちゃた件。
とかね~。
「バカーーーーーッ!」
うわっ!
女神様じゃなくて、葉月か。
「バカじゃないの! バカバカバカ!」
痛い痛い痛い痛い!
なんでお前が……って、あれ?
何だよここ、お前の世界じゃねーか。
「当たり前でしょ! この、この、この!」
だから痛い、痛い、痛い、痛い!
夢なのに痛いんだって!
でも何で?
俺、酒呑んでないんだけど。
「麻酔効いてんのよ! 死ね! 死ね! 死ね!」
折角生きてたんイテ、だからイテ、殺すなよっ!
「あんたなんか死んじゃえ! 殺してやるーーー!」
だから殺すなっつーの!
んぬぬ……落ち着けよ……なあ、んぬっ……お前……っ、なに怒ってんだよっ……
「なに怒ってるだあ?
ふん!」
お! やっと手をどけたか。
そうそう、落ち着いて話し合おう。
ニンゲンはケモノでは無……
「バカーーーーーーーーーッ!」
ぐふっ!
お、お前、今度はタックルかよっっ。
んぐぐ……
「私が……
どんだけ心配したと思ってんだーーっ!」
!!
「あんな、立って、叫んで、動いて……
マンガじゃないんだからね……」
……すまん。
「危なかったんだよ……
もうちょっとで、だよ……
アニメじゃないんだから……」
悪かったよ……
「もう……
大切な人を失うのは、嫌なの……
う、ううっ……」
ごめん、葉月……ごめんな。
「許さない」
うむむ
「ぎゅっとして……」
え?
「いいから、ぎゅーってして!」
あ、ああ。
「うわーーーーーん」
葉月……?
「わあーーーーん!」
マンガみたいな泣き方だな。
「うええーーーーーーーん」
……大丈夫か?
「勘違いしないでよ!
私は今3人分の感情で泣いてんの」
3人分?
「なつきくんと私、それとあの方」
そうか、魂が繋がってるから、2人の感情が流れ込んで来るのか!
でも、なつきは分かるが、あの方も心配してくれたんだ。
「当たり前じゃない!
あなたを死なす為に連れてきたわけじゃないのよ!」
ご、ごめんなさい……
「そうだよ! いつも無茶ばかりして!」
な、なつき?
「なつきくんも、今病室で椅子に座ったまま寝てるのよ」
あ! そういう事か。
同じ感情が重なったときに、魂も重なるのか。
これってシンクロニシティだな。
いや、ただのシンクロか。
俺のケガを見て、3人の感情が同調したからな。
3人が離れた次元? 空間? 場所にいても、ただのシンクロだな。
偶然の一致じゃないとシンクロニシティとは言えないか。
まあ、俺もユングはよく分からん。
「なにブツブツ言ってんのよ。
あんた反省してんの!」
分かってるよ……
反省しました、本当に。
悪かったな、みんな。
もう無茶しない。
「分かったなら……頭もなでなでしなさい」
ああ、分かった分かった。
「勘違いしないでよ!
これは私が頼んでんじゃないんだからね」
分かってる分かってる。
「また子供扱いしてるでしょ」
そんな事ないよ。
ありがとな、葉月。
「うん、良かった……
本当に良かった……
ともか……」
まぶたの上からも明かりの眩しさが伝わる。
おそらく俺は病室のベッドに寝かされているのだろう。
葉月の話では、側の椅子でなつきが寝ているはずだ。
なつきにもえらい迷惑かけちまったな。
あと心配も。
俺はゆっくりとまぶたを開く。
部屋の明かりが、さらに眩しく瞳を射す。
少し眉間にしわを寄せながら、慎重に首を上げていく。
痛っ、腹にひびく……
体のどこを動かしても、腹筋ってのは使うんだな。
目だけ動かして周りを見る。
これは痛くない。
椅子に座ったまま、首をガクッと下げて、なつきが眠っている。
両親もいるのかと思ったら部屋にはいないらしい。
なつきに留守番をたのんで、飯でも食べに行ってんのか。
部屋の全体を見てみると、2人部屋だが片方のベッドは使われていない。
仕切りのカーテンも開けてあって荷物もないので、今は俺の個室状態の様だ。
ひょっとしたら、先生が手配してくれたのかもな。
視線をなつきに戻す。
さっきの明晰夢にも出てきていた。
葉月の感情の中に、だけど。
少しづつ、なつきに俺の素性が知られていく……
俺、葉月、あの方、元の世界と前のともか。
すべてを知った時、あの子は俺をどう見るのか……
俺の事を好きで、いや、恋をしてくれるのか。
そう、俺がなつきに想った様に。
助けてくれた平川でなく、一番仲の良かった国立にでもない感情。
ああ、そうか。
何となく分かった気がする。
俺の負の思い出がなつきに起こっていた。
じゃあ、オレンジの日の思い出は……
「ん……ん?
ともか……起きたの?」
「ああ。
いつもすまない。
心配かけたね」
「ほんとだよ。
いつも無茶ばっかり」
「さっきも言われた」
「ははは。
やっぱり今の夢って」
「ああ。俺と同じ夢」
「じゃあ、ちゃんと反省してるんだ」
「はい。
反省しましたです」
「はい。
わかりましたです」
「ありがとう……です、なつき。
そして、ただいま」
「良かった、本当に良かった……です。
おかえり、ともか……」
お前にもなでなでしてやりたかったが、腹が痛くて出来やしない。
なつきがそっと添えてきた手に、指を絡めるのが関の山だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます