2. 賽は投げられた


「行こう! さいは投げられた!」


 ステージに上がる準備を一通り済ませた皆を前に、俺はげきを飛ばす。


「我々は最早、進むしかないのだ!」


「なあミチ、さいってあのサイか?

 投げられるのか?」


 またしても小声で平川が、話の腰をポッキリと折る。


「良く聞く言葉だけど、ほんと、何だろう?

 ねえカナさん」


「ええっ!?

 うーん、医者が投げるのは分かるけど……先生?」


「えーーっ!

 そんなのテストに出さないから!

 さじの方は出してもっっ!」


 先生、ムキになるなよ、大人げないなあ……


「あのね、たぶん、サイコロだよ」


 意外にもなつきが知ってた。


「「「おおーーっ!」」」


「前に洋画劇場で言ってたのが気になって、お父さんに聞いたんだ」


 さすが春太おいちゃん、辞書人間。

 俺も辞書とまではいかないが、


「カエサルがルビコン川を渡る時に、もうやるしかないよっ、て感じで言ったんだ」

 こういう舞台や映画のワンシーンは蘊蓄うんちく込みで大好きなのだ。


「ともかさん、ごめん、カエサルって誰?」


 え?


「なんか間抜けな名前だな」


「ともか、確か、洋画でやってたのは……」


「シーザーでしょ? なつきちゃん。

 でもそれは英語読みで、本来はカエサルが正しいんだってよう」


 ああ、そうだった!

 中学か高校位で急に世間でもそうなって、俺も間抜けな響きだって思ったんだよ。


「「「おおーーっ! すごいヤスコちゃーん」」」


「えへへへ」


 そうでした。

 こいつは楽に九大受かる天才でした。

 ちぇっ、美味しいとこ全部持ってかれちゃったよ。

 だがまあいいか、随分と肩の力も抜けた様だし、計算通り。

 なんちゃって。

 さ~て後は出番を待つだけだ。



 アイドルコンテストに参加すると決まってから、みんなは一斉に動いてくれた。

 まず、みんなの持ち物で使えそうな物を集めて吟味する。

 ひとみちゃんが日射し避けに持ってきたショールみたいな布地2枚。

 それを留めるためであろう安全ピン1箱。

 ヤスコの替えのTシャツ数枚も可愛い。

 昨日使って水洗いした、俺、ヤスコ、ひとみちゃんの水着。

 恥ずかしながら、俺とヤスコはビキニを持ってきてた。

 せっかく復活したヤスコのエロボディー&俺の腹筋アピールの為だ。

 俺のは赤に黄の花柄。

 ヤスコはその逆カラーのお揃い。

 昨日は充分、男どもを悩殺してやった。たぶん。


 これらを使って何をする?

 ステージ衣装を作ろうと思う。

 まあ、大した事は出来ないだろうが、予選とはいえステージに上がるのだ。

 ちょっとは見映え良くしたいじゃないか。


 ひとみちゃんに出場の申請をしてきてもらう。

 こういうのは大人の、しかも引率の教師にやってもらえば、まずトラブるまい。

 平川には買い出しを頼む。

 なつきと国立はそのままでも充分だが、やすみにはリボンなり、カチューシャなりは必要だろう。

 あと飲み物等もついでに頼む。


 雛枝はおそらく本選には参加出来ないだろう。

 なので彼にはタイムキーパー兼、演出助手になってもらう。

 あらかじめ、気をつける箇所を教えておく。

 指先までピンってなってるかとか、立ち上がるタイミングは合ってるかとか。

 変だと思ったら指摘するように。

 そうして俺は動きを付ける事に集中するので、30分おきに彼には時間を報告してもらう。


「みんな~、出場は3時位だって~」


 ひとみちゃんが帰ってきた。

 俺の予想ではもっと早くだった。

 結構参加者が多いのかもしれん。

 今昼前なので3時間位か……


 なるべく簡単だが、見映えのいい大きな振りを多くして、連動した5人の動きの気持ち良さで魅せるとしよう。

 まだこの頃には派手に見えるんじゃないかと思う。

 俺レベルの振りでも何とかなるんじゃないかと期待しよう。


 うちの師匠はダンスを俺らに積極的にやらせた。

 クラシックからヒップホップまでを深くはないが多くやった。

 舞台の冒頭は必ず集団で踊って派手に始まる。

 当時は得意じゃなかったんで、何でダンス? と思っていたが、年取って分かった様な気がする。


 自分の体は自分の思った通り動かしているようで、実際にはそれほど動かせてはいない。

 ダンスはそれを補正するのに最適だという事だろう。

 手足の先、指の先まで意識して綺麗に動かさねば。



 2時間半程みっちりやった。

 思ったより飲み込みが速い。

 さすが若さが違う。

 ま、教え方もいいんだが。


 燐光寺はひとみちゃんにメイクしてもらい、ほかの4人は衣装を着ける。

 とん吉は自分の水着ビキニになつきの短パン。

 短パンの裾を曲げて安全ピンで留め、ホットパンツみたくする。

 サイズがヤスコにはちょっときついのがエロくていい。

 ミチにはスク水(男)の裾を安全ピンで留めてちょっとセクシーに。

 腰にパレオみたくショールを巻く。

 上はヤスコのTシャツを着て、胸の下でキュッと結ぶ。

 これの形は燐光寺も同じ。

 俺はビキニにGパン。

 そしてセンターなつきは、ひとみちゃんの水着ワンピの上に、平川の半袖シャツをボタンではなく胸の下でキュッ。

 以上。


「僕……これ、恥ずかしすぎる……」

 なつきが顔を真っ赤にしてモジモジしている。


 ゴクリ。


 俺、平川、雛枝、なぜかひとみちゃん、は生唾を飲んだ。

 ヤスコと国立はムッとする。


「先生、終わった?」

 

 俺たちに背を向け、メイクをしてた燐光寺も終わったようだ。

 クルリこっちを向く。


 ぱわ~~っと音が付くほど可愛らしい顔。

 俺の予想した美形より、お人形さんみたいな可愛らしさ。

 かなり、ひとみちゃんの趣味だな。


 よし!

 とりあえずの用意は出来た。

 後は練習した事をそのまま出せばいい。


「行くぞ!」


「賽は投げられた!」

 

 

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