3. 光輝く場所へ


 俺には、とある能力がある。


 技能スキルと言っていい。

 チートとまでは行かないが、そこそこ強力だ。

 なにも異世界に来てから付いたって訳じゃなく、俺のは元々。

 それは平和的且つ友好的なスキル。

 その名も、「人たらし」だ。

 

 うちの近所には子供が少なかった。

 小学校低学年の頃一緒に登校してたのは、

雪姉ゆきねえ、なつき姉妹と鏡ノリちゃんの3人だけ。

 弟ヒデジとノリちゃんの妹ヨシコはまだ小さかったし、栗原テル坊は病弱なんでその頃は車通学だったからだ。

 だから登校中、俺らは周りの大人達のそれこそアイドルだったのだろう。

 迎えのマイクロバスを待つ、近所の土方仕事のおいちゃん、おばちゃん達は、みんな目をキラキラ、ニコニコさせながら挨拶してきた。

 雪姉と俺は特に愛想が良く、大変可愛がられた。

 それが嬉しかったのか、いつも俺は大人達が笑顔になる様に振舞った。

 学校だといじめられる俺が、そこではチヤホヤされる。

 自然と相手が喜ぶツボが分かる様になっていく。

 相手が喜んで、自分も嬉しい。

 結果的に「人たらし」と言われるような、懐に入れる技能になった。

 このスキルは目上に対して特に効果がある。

 俺は演劇部、福岡の演劇事務所、声優学院、劇団、バイトと……

 どこに行っても、先輩、先生、講師、上司といった、目上の人に可愛がられた。


 たとえば缶コーヒーをおごってもらうとする。

 あなたは相手に130円分の何かを与えられるだろうか。

 何でもいい、相手があなたに130円出して良かったと思えたら、またあなたに缶コーヒーや、それ以上の物や行為をくれるだろう。


 この「人たらし」のチート持ちの太閤様は、天下を取っているだろう?

 結構、侮り難いスキルなのだ。


 そしてこの「人たらし」スキルを発揮する場所。

 いや、発揮させねば成り立たない場所。

 人々を魅了し、泣かせ、笑わせ、喜ばす事が無上の幸福。

 俺が愛して止まない空間……

 それが、舞台ステージなのだ!



 出番がやって来た。

 俺らは舞台そで奥にスタンバっている。

 後は頼んでいた曲きっかけで飛び出すだけだ。


 曲は先日、ヤスコが話題にしてた国民的アニメ「ピータン」

 これなら会場にいるチビッ子達の受けがいいし、なにより知ってる曲だとこっちが踊り易い。

 ひとみちゃんに申請の時、あれば選曲してもらう様頼んでおいたのだ。


 伴奏が始まったら、2人、2人、なつきと飛び出し、客席に手を振ったりしながらステージ中を走り回って中央へ。

 所定の位置で、

「ピータン! ピータン! ピータン!」

 グーを突き出す。

 後は練習した5人連携の振りを思いきり披露するだけだ。


「みんな、さっきやった通りでいいからね」


「……うん」


 さすがに緊張しているようだ。


「みんな、顔近づけて」


「?」


 近くに集まる可愛い顔4つ。

 この4人の瞳を順に見詰めながら、


「いいか、このメンバーで、この場所で、この演目は、ひょっとしたらもう二度と出来ないかもしれない」


「!!」


「雛枝に直接観てもらえるとなると、尚更だ」


「「「うん」」」


「だったら、思いっきり楽しまないと、勿体無いぞ!」

 

「「「うん!」」」


 チュッ、俺は隣の燐光寺のほっぺに軽くキスをした。


「と、ともかさんっ!?」


「おまじないだよ」

 

 続けて国立にチュッ、ヤスコにもチュッ。

 そして……


「なつき、センターだからって力まなくていいから。

 一緒に楽しんで来よう」


「うん、ありがとう、ともか」


 チュッ。


「よしっ! 気合い入ったかな」


「まだだよ」

「ん!?」


 ちゅちゅちゅちゅっ!

 

 4人が一斉に俺のほっぺにキスをした。


「「「気合い、入った?」」」


「たっぷりと~」

 でへへ、入ったのか、抜け出たのか……


~エントリーナンバー38番……

 アナウンスが流れてきた。 

 待ったなしってやつだ。


「何かあったら俺がカバーするから。

 気持ちだけ切らさず、思いっきりやれ!」


 ちょうど伴奏が始まった。


「行こう!」


「「「はいっ!」」」


 俺達は暗い袖中そでなかから……

 光輝く舞台ステージへと飛び出した。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る