3. 春キャンプにて
ゴールデンウィークに旅行なんて行こうものなら、
そりゃ、混雑にわざわざハマりに行こうってなもんだ。
車出せば道路は渋滞。
電車乗れば座席は満席。
行楽地着いたら人の波だ。
俺は高校くらいから、春の連休には春キャンプをよくやる。
何かプロ野球みたいだけど、只のハイキングがてらのキャンプ。
行くのは母の実家からちょっと行った、小石原村の近く。
川崎に来てからは道志村とか。
散歩して、勝手にBBQして、帰りに小石原焼きを見て帰る。そんなもんだ。
この頃は、盆休みに家族+1、2人でキャンプってのが恒例だった。
だからゴールデンウィークにキャンプというのは、俺以外初めてになる。
父ちゃんに頼んだら、即OKだったので助かった。
「まだクソさみーのにキャンプ?」
とは言ってたけど。
「お早う、ともちゃん、おじさん」
なつきはキャンプ初参加だ。
いつもは親戚のてるみ君や、義理の叔父の格助兄ちゃんが一緒に行く。
「そう言えば、なつきちゃんは初めてよね」
母と弟ヒデジも出てきて用意を手伝う。
うちのワゴン車は9人乗りなので、荷物も結構積めるのだ。が、
「「「お早うございます。よろしくお願いします」」」
なに、ゾロゾロついて来てんだか。
とん吉ヤスコ、平川、国立、おまけに燐光寺休までやって来た。
あのさあ、9人乗りって9人乗れるけど、狭っちくなるんだよ!
おまけに荷物も積みにくい。
今回は鉄板とガスバーナーと食材くらいだが、食材は9人分だぞ!
ちっとは気を使え!
ちなみに雛枝は遠慮ではなく、家族旅行。
まあ、迂闊にも俺が、とん吉に声をかけてしまったせいだが……
また葉月にヘタレと言われてしまうかな。
とはいえ、人数の多いキャンプも結構楽しいもんだ。
人生楽しまなきゃ損だもんね。
運転席、助手席に両親。
その間にある小さめの席に弟ヒデジ。
後部座席の前列、つまり2列目の席に右から国立、平川、燐光寺。
3列目はとん吉ヤスコ、俺、なつきの順。
後部のスライドドアは左手で、少し通路的な隙間がある。
そこにも荷物を積んでいる。
とても快適とはいい難い状況。
だが、なつきととん吉に挟まれ、うん、これはこれで、いい狭さじゃないかな……
両手に花? 花だとも。
前の席には、かつて好意を寄せた子2人と元カノ1人。
見ようによってはハーレムだな、これは。
でも何でだろう、全くハーレムっぽさを感じない。
いやいやいやいや、今の方がいいのだ。
この面子が揃ってキャンプなど、俺の過去では考えられない。
異性として感じないって事は、友情面は豊かになっていくのだろうか。
それはそうと……
「やすみ! なんでお前がいるんだよ!」
俺は前の席をバシッと掴むと、平川に半分隠れつつ身を乗り出し、やすみをキッと睨み付けた。
「ええーー!? 今さら?」
「なつきに頼まれたからメンバーに入れたけど、
そもそも何でキャンプの事知ったんだっつーの!」
「ともか!
そんな言い方、ひどいでしょ!」
「はい!」
言い直そう。
「燐光寺くんは、どんな方法でなつきくんから、情報を手に入れたのかを教えてくれないかなあ」
ストーカーまがいの事をやってねえだろうな。
「え、その、なつき君に誘われて……です」
何?
「ごめん、ともちゃん、勝手に。
平川君達も来るからいいかな?
と思って」
なるほど、これを機会に仲良くか。
「ホントにお前から言ったんだな」
「うん」
「ごめん、燐光寺くん。私の早とちりだ」
「あ、その、やすみでいいよ……」
「調子に乗んな!」
「ともか! 汚い言葉はやめなさい!」
「ぎゃははは、ねえちゃん、汚いってさ、いろいろと」
「「「あははははは」」」
車は賑やかに山道を進んで行く。
ーーーーーーーーーーーーー
目的地の川のほとりは、毎年夏にキャンプする場所で、名も知らぬ山を上へ上へと上がった先にある。
川幅3、4mくらいで、車を駐車できるスペースがすぐ脇にあり、車と川の間にテントを調度よく張れるので、すごく便利だ。
この場所より上には民家は無く、水はきれいでそのまま飲める。
ここは平らだが、近くの岩はみんな結構大きく、川の上流って感じだ。
少し下の方には小さな滝もあって、滝壺はちょっとしたプールみたい。
夏には最高だが、今日はさすがに冷たすぎる。
評判次第だが、今度は盆に連れてきてやろう。
今日は日帰りなので、テントは張らず、お手製BBQ台を作る。
約1×2mの鉄板を持って来てるので、岩を積んで乗っけるのだ。
俺はこういうのが凄く好きなのだが、今日は男手が多い。
しかも目をキラキラさせながら作業してるので、仕方ない、諦めた。
平川、燐光寺、なつきは土台造りの手伝い。
俺、国立、とん吉は薪集めとなった。
以外にも、なつきは楽しそうに作業してる。
3人ともだが、こういう手作りなキャンプは初めてなのだろう。
男心をくすぐられるのだ。
一方俺ら美人女子チーム。
おっと国立さん、違和感なく混じってますねえ。
線の細い国立は力仕事は向いてなさそう。
「ミッキー行ってくるねー」
「ミチも気をつけて」
この親友2人は彼らだけしか使わないニックネームで呼び合う。
なんだろう、胸がドキドキする……
いけない恋のかほりが……
いやいやいや、薄い本じゃあるまいし。
おそらく、天然の国立の呼び方に毒されたんだと思う。
ミキオ君もミチヨ君を自然とそう呼ぶようになったのだろう。
「ねえ、ヤエちゃん、この先に滝とかある?」
しばらく薪集めをやっていた、とん吉ヤスコが聞いてきた。
「すぐ先にあるよ」
「えー、怖ーい」
「高さ2mくらいだから、大丈夫だよ」
「わあ、僕、見てみたいなあ」
「じゃあ、下の方の薪集めたら、ちょっと行ってみようか」
「「イエ~イ!」」
今は春だ。
水は冷たい。
もう、下着透け透けサービスショットは絶対やらないからな。
これは前振りじゃないから。
いやいやいや、お笑い芸人じゃないんだから。
ぜーったい、絶対落ちないようにしないとねっ!
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