2. 男は誤魔化し、女は追及す

 修学旅行2日目。

 只今の時刻は午前5時。

 起床時間の1時間以上前に目が覚めてしまった。

 もちろん、俺以外の女子は静かに寝息を立てている。


 俺は敷布団の上にあぐらを組み、昨夜の夢の内容を反芻していた。

 夢の中に現れた、葉月というツンデレ美少女。

 なつきと同じ顔でツンデレとは、俺の好みをついてくる。

 まあ、あいつはデレが無かったからツンツンだけど……


 あの葉月って少女の言葉が正しければ、俺は「あの方」によって、この世界に転送? 召喚? 転換? させられたって事になる。

 そうなると、俺の考えが根本から覆されてしまう。


 告白できなかった、俺の未練やら後悔やらの思いで過去に戻ったのなら、その原因をクリアすれば元の世界に帰れる可能性も出てくる。

 しかし、俺とは関係無い力「あの方」とやらのせいでここに来たのだとしたら、俺の問題をどうこうしたところで、全く意味が無いのかもしれない。


「あの方」がどんな意図で俺を過去に跳ばし、なつきくんの魂には葉月を寄り添わせたのか。

 あの葉月にしろ、どんな存在なのかも分からない。

 性格は違うと思いたいが、外見は中学生のなつきと寸分違わない。

 いや、あの夢そのものが、酔った俺の妄想の代物ということもあり得る。

 とにかく分からない事だらけだ。


 あれこれ考えを巡らしてみても解決出来るわけもないが、だが確実に、いま解決しなければならない事案もある。


 チラッ、チラッ


 考えに耽る俺を先ほどから、寝たふりしながらチラ見する少女が一人。

 どうやら昨晩、可憐な少女ともかにフレンドリーなスキンシップを受けた……

 いや、受けたらしい、親友で美少女のとん吉ヤスコちゃんである。

 ごめんなさい、ほんとだったら即逮捕されているレベルのセクハラだ。

 やはり葉月が言っていたように、記憶に無いの一点張りしかない。

 ここは役者のスキルで、寝惚けてたって路線で。


「ふあ~~っ、よく寝た。

 ん、ヤスコちゃん、起きてるの?」


「えっ!?

 んあ、お、おはよう……」


「昨日は良く眠れた?」


「う、うん。眠れたよ……」


 頬を赤くして、もじもじ下を向き答えるヤスコ。


「良かったあ。

 私もね、お布団入った途端に夢の中」


「うそ……」


 ヤスコは驚き俺を見る。

 

「ヤエちゃん、何にも覚えてないの?」


 おっ、いい感じの流れ。


「ん?

 何? どうかしたの?」


「そう……そうなんだ。

 何にも覚えてないんだ……」


 ううっ、とん吉ごめんよ。

 お前に付けてしまった傷は、

一生の友情をもって癒していくよ。


「ヤエちゃん……

 じゃあ……

 思い出させてあげる」


「えっ!?」


 バッと飛び掛かるようにして、ヤスコは俺の両肩を掴む。

 何が起きたか分からず躊躇した瞬間、彼女の美しい顏が目の前で一杯になった。


 ぶちゅ~~~~~~っ!


 思いっきりディープなモーニングキッス。


「んふふ。昨日ヤエちゃんがおしえてくれたのよ。

 舌って、吸われると凄く気持ちがいいってね」


 ダメだろう……

 これはダメな奴だろ!

 おいっ、葉月っ! 「あの方」っ! 何とかして~。


 とん吉は熱い眼差しでまた、ジリッ、ジリッとすり寄ってくる。


「落ち着いて、ヤスコちゃん!

 あなた、平川くんが好きなんでしょ!」


「ああ、そんな事もあったわね。

 でも私は、貴女に本当の女の悦びをおしえてもらった」


「お前、どんなエロ小説読んでんだよ!」


「言いなさい。

 本当に何も覚えてないの?」


「ごめんなさい。酔った勢いで酷いことしました」


 俺は土下座して、畳に額を擦り付けた。


「まったくう、どうせ先生がらみでしょ。

 帰って来たとき、すごくお酒臭かったのよ」


「えっ!?」


「うふふ、全部冗談よ。

 寝惚けたふりして、ごまかそうとするからよ」


「ご、ごめんなさい。本当に」


「もう、女の子同士はノーカウントだからね」


 良かった。

 本当に良かった。


「でも何よ、ヤエちゃん。

 わたし、平川くんの事なんて、何とも思ってないわよ」


 そう言って俺の半身に胸を押し付け、ギューっと強く抱きしめる。


 ど、どっちなんだ?

 俺なのか、平川なのか?


 ……分からん。

 女になっても分かりはしない。

 この女心ってやつは。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る