2. 男の子、女の子


「な、何て格好してんの!」


 上半身裸で居間に入りかけてた俺に、母は一瞬を空け、それから叱りつけた。

 開いた口がふさがらないとは、こういう顔か……

 勉強になる。役者的に。


「珍しく、なつきちゃんが大きな声出してると思ったら……

 あんた! 女の子でしょっ!」


 母の説教を聞きながら、混乱しつつも回りを、情報を整理する。


 居間では父と弟が朝食を摂っている。

 小3の弟、英次ひでじがゲラゲラ、こっち見て笑ってる。


 こいつは中学でヤンキーになり、21才で出来ちゃった婚する運命にある。

 だが、今のこいつは何とも幼く、可愛い気があって……

 ずっとこのままならいいのに。


 父ちゃんはエロい目でこっち見ながら、

「朝からサービスいいじゃねぇか」

 などと言って来る。

 こいつは、ちっとも変わらねぇ。


 ……でも、両親とも若い。

 俺より。


 夢に出て来る親は、常に親だ。

 昔の頃の夢だからといって、親を若く感じるのはどうにも気持ちの収まりが悪い。違和感だ。


 この細かな所までの設定のリアルさ。

 さっきから感じている現実感。

 まさかとは思うが、これ……夢ではない?

 小6に時間が巻き戻って、しかも女になって。

 これはやはり、最近頻繁に見るオレンジ色の夢のせい?


「とにかく、早く服着て、学校行きなさい」


 母がテレビの上に積んである畳んだ服を指差して、クルッと背を向けキッチンに戻る。

 かなりイラついているのが見てとれる。


 俺は廊下から居間にちゃんと入って扉を閉める。

 居間は6畳ほどあり、入ってすぐ右脇にテレビ、中央に座卓。

 向かって正面奥に父ちゃん、座卓の右に英次があぐらをかいている。


 母ちゃんのいる4畳のキッチンは入って左側。

 居間との区切りはないが、奥に庭へと下りる勝手口がある。


 俺はテレビの上の着替えに手を伸ばす。

 着替えの一番上には、ブラが乗っていた。


 …………。


 参ったなあ、着けた事無ぇ。

 何となくは分かるけど、ホックとか有んだよな?

 う~~~、母ちゃんにとめてもらうか?

 いや、イラつきゲージMAXだろうし、もめたらやだなあ。


 あ、そうだ!

 なつきに手伝ってもらおう。

 あいつはまだ使ってないだろうけど、2人でなら何とかなるだろう。


 俺は廊下の角から玄関に向かって、ヒョコッと顔を出した。

 ちょっと照れ気味に、


「なつきちゃん、ブラ着けるの手伝って」


 と声をかける。


「ええ~~っ!

 ぼ、僕、そんなの、わかんないよ~!?」


 え? ボク?


「あんた何やってんの!

 いくら可愛くても、なつきちゃんは男の子なのよ!

 そんなからかい方、絶対、駄目でしょ!」


 あ、ヤバい……


「この、バカちーーん!」


 ドゴッッ!


 結局、ゲンコツを食らってしまった。

 頭を抱えてうずくまる。


 超痛いいいっ!

 夢じゃない、確実に。


 だが俺は頭の痛みより……

 なつきが男だって事の方に一番ショックを受けたのだった。

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