3. 修学旅行の夜

 深夜0時ちょっと前。

 お子ちゃま達は矢鱈と騒がしかったのに、11時を過ぎると一斉にコテリと落ちた。

 俺はいつもなら、体は子供なので夜更かしできずに寝てしまう。

 だが今夜はやけに目が冴えて、久しぶりにちょっと一杯やって寝ようと廊下に出た。




 あの後、2組の男子に文句を言おうか迷ったが、なつきがやめろと懇願するので今回は無しにした。

 しかし、なつきがいじめられている様なので、対策は考えないといけない。


 なつきと別れて風呂に引き返し、今度はちゃんと確認して女湯へ。

 丁度みんなが脱衣場に上がって来る時だった。

 何とか拭き拭きタイム&着衣タイムに間に合った。

 十人以上の全裸の女の子が、自分の周りでワイワイキャッキャ騒ぐのだ。

 いくらストライクゾーン以下のボール玉でも興奮するだろう。


「またヤエちゃん、遅く来る~」


 後ろから掛けられた声に、俺はマッハで振り返る。


 水滴で濡れた全身をキラキラ輝かせる美少女が浴場から上がり、上気してほんのりピンク色になった肌をタオルでぬぐっている。

 けしからん! 本当にけしからんエロボディのとん吉ヤスコがそこにいた。


「あひゃ、やすこひゃん」


「も~、どこ行ってたの?

 一緒に入りたかったのにぃ」


「あ、先生のとこに、カメラ返しに……

 今から一緒入る?」


「やだ~、のぼせちゃうよう」


 ガックシ……


 俺はみんなが着替えて出て行くのをそっと優しく見守ってから、急ぎ入浴を済ませて、皆の待つ食堂に向かった。



 こんな事あって、目が冴えない男がいるだろうか!


 さらに食後、みんなでトランプ等で遊んだ後、布団に入る。

 誰ともなく始まった女子トーク。

 恋バナって奴か。

 何チビッ子どもが色気付きやがって。と思っていたら、


「ねえ、八重洲さんと平川くんって、付き合ってんでしょ?」


 と、ナカヤン。もといヨッチャン。


「ええー! 何、何で? そんな事に?」


「もう、とぼけないでよ。

 ヤスコちゃんも知ってんでしょ」


 とツギ、いや、ツグミちゃん。


「いや、ほんとに私知らない。

 そうなの? ヤエちゃん」


 傍観者のつもりが、いきなり当事者に。


「そんなわけ……」


 ない。と言い切れるのか。

 ひょっとしたら、俺がこっちに来る前のともかは付き合っているのかも。

 その可能性は全く念頭に無かった。


「何、その間」

「やだ、マジか」

「ねえ! ヤエちゃん、ほんとなの? ほんとなの?」


 とん吉に両肩ガクガクされて、


「付き合ってない! 付き合ってない!

 一瞬想像しただけ」


「本当にほんとなの? ねえ、本当にほんとなの?」


 ガクガク、ガクガク、ガクガク


 とん吉、平川に惚れてるよ。

 なんか知らんが、ガックシ……



 呑みたくならない?

 なるだろう!


 こっちの世界に来て、ほとんど飲んでいないのだ。

 父ちゃんの晩酌の肴で刺身の時、一切れ貰ったら一口焼酎。

 昔から生ものを食べた時はそうしてた。

 だから何回か一口飲んだが呑むとは言えない。 

 せめて、缶ビール1本くらいはキューっとやりたい!


 ああ、想像したらもうたまらん。

 この頃の自販機はユルユルで、深夜でも普通に酒を売っていた。

 浴場近くに置いてあるのは確認済み。

 クフフ、つまみもちゃんと持っている。

 待ってろ、ビールちゃん!

 俺はまたもや心の中のBボタンを押しながら、浴場の方へダッシュした。




 ギャーーーッ!

 財布が無い!


 自販機の前に立ち、いざ買おうとポッケに手をつっこむと何もない。

 他の場所もまさぐるが何処にもない。

 いつだ、いつ出した?

 旅館では買い物してないし、その前となると……


 いや! 風呂だ!

 男湯の貴重品ロッカーに入れたままだった。


 浴場の入口を見る。

 入口は自販機のトイ面、向かい側だ。

 まだ開いている。


 おおっ、1時半までやってんだ。

 しとっ風呂浴びての一杯ってぇのもたまんねぇな~。

 うひょ~。


 たしか左側の入口、のれんは、ん? 女湯になってる。

 露天風呂の関係か、時間制で変わるのだろう。

 ラッキーだ。

 男湯のままだったら、店員に頼むか、忍び込まなきゃだった。


 いっそげ~、いっそげ!

 ビ~ルっ、ビ~ルぅ~!

 貴重品ロッカーを開けると、あった。


「良かった~」


 さてさて、ビールじゃビール。


「ヤエちゃん?」


 ビクーッ!


 振り返ると、そこにはスッポンポンにビール片手の古賀先生がいた。

 何でやー!?

 先生達の部屋は酒盛りやって、男女の先生が一緒にいるのは確認済みだぞ。


 いや、田辺しか見てない。

 おいおい、男部屋に若い女1人で呑みに行かすかあ?


「あ、先生、すみません、財布忘れてたの思い出して」


「あー、見てた見てた。何だろなーと思って。

 でも、8時まで、ここ男湯だったでしょ?」


 そんな変なとこ、頭回んだな。


「それはちょっと色々……」


「お、何か面白そうね、お風呂入って話してちょうだい」


「まったく……先生も一枚噛んでんですからね!」


「え? 何で何で?」


 思いがけず、先生との混浴(?)になってしまった。

 2人露天風呂に浸かり、先生は岩にもたれてビールを呑む。

 いいなぁ、くそ~、呑みたい。


 それにしても、とん吉なんて比べ物になんないくらい、エロい肢体。

 彼女等が若さでパーンと水を弾いた、初々しさが売りだとしたら……

 先生の肌は、全てを受け止めて、しっとりとつつむ包容力といった感じ。

 肌全体が水のベールをまとって、てらてらと艶やかに光っている。

 誰か、早く、貰ってあげて下さい。


「あははははは、けっっさくぅ。

 そんなマンガみたいな、間違えるう?」


 無理だな……


 なつきの所ははしょって、大体の説明をする。

 先生は、かなり酔ってて、向こうで呑んだ後に抜けて来たようだ。


「あ、酒が切れた。う~~~足りん」


「私買ってきます」


「おおっ、さすが委員長、気が利くねえ」


 よし、やっと飲めるう~~~っ!

 1本キュッとやって、先生に持っていこう。

 俺はダッシュで服を着て浴場外の自販機へ。

 ああ、やっと、待望の、ビーーーールぅ!!


「何やってるの! あなたっ!」


 ああああああああああああああああ。


 振り向くと、はい、田辺先生。

 怒りと困惑の表情で見詰めてくる。

 俺は無言で浴場を指差す。


「何?」


「お探しのエロボディは、露天風呂で酒をお待ちしております」


 とたんに理解したらしく、キッと浴場を睨みつけた。


「お守り大変だったわね。

 あとは先生にまかせて、もう寝なさい」


「はい、ありがとうございます」


「まったく、あの人はっっ!」


 つかつかと浴場に入って行った。

 やれやれ、どうしようもない大人達だな。



 ガコーン 

 プシュッ

 んぐっんぐっんぐっ。


「ぷは~~~~~っ、足りん」 


 だがまあこれで、今夜はぐっすり寝れそうだ。



ー第五話 おわりー

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