3. 合縁と奇縁と

貴女あなたたちを、ライバルと認めてあげても良くってよ!」

「良くってよ!」

 

 予選会の時の事。

 出番を終えて興奮収まらぬまま楽屋へ戻ってきた俺達の前に、中学生くらいの少女が2人デーンと立ち塞がった。

 

 楽屋は広い会議室の様な所に簡単な鏡台を壁際に作った、まあ、大部屋ってやつ。

 この部屋に予選者は全員押し込められる。


 こっちではセーコちゃんのまだまだ全盛期中。

 さすがにセーコちゃんカットは見なくなった。

 が、アイドルコンテストとなると、ステージ衣装にはフリフリプリプリしたのがやはり多いようだ。

 この2人の少女もアイドル然とした格好ではあるが、どことなく品がある様な気がする。

 スカートにフリルはついているが、裾がめくれていないからか。

 

「貴女たちの表現、とても新鮮だったわ」

「だったわ」


 矢鱈やたら上から目線のこの2人、まあ明らかに年上ではあるな。


「特に貴女!

 ハプニングに眉ひとつ動かさず、咄嗟の身のこなし。

 只者じゃないわね」

「無いでしょ!」


 客席かそでからでも観てたのだろうが、結構鋭い観察眼だな。

 しかも、2人ともなかなかのオーラを出してくる。

 それに、何か見た事あるような……


「いやあ、たまたまですよ。

 私は只の小6、八重州ともかです。

 よろしければ、おふたりは?」


「あら、失礼。

 私は華山広子。福岡のコンテストではちょっとした顔よ」

「あら、失礼。

 私は星月花子。私もちょっとしてるわ」


「ああっ! 華子さんかあ」

「えっ? えーっ? 私? 知り合い?」 


 さっきまで気取っていた星月花子がキョドってしまった。


「え、ええ。前にミュージカルだかダンスだかのオーディションで」


 たしかこの人は福岡のダンススクール出身だったはず。

 

「あ、ああ! 6月のミュージカルのオーディションね。

 ご免なさい、すっかり失念して……」


 言いながら、チラッ、チラッと華山を気にしている。


「いえ、私も遠くからお顔を拝見しただけですから」


「あら、やっぱり只のじゃなかったのですわ、ねっっ。花子さん!」

「はいいっ! オネエサマぁぁ」


「ふ~ん、6月ねえ」

「いえ、抜け駆けなんかじゃないんですよ。

 うちのダンス事務所がどうしてもって。

 ね、おねえさま……信じて……きらいにならないで」


 必死に懇願する華子さん。

 あの人がこんな少女だったなんて……


「うふふ。

 莫迦ばかねえ、私がそのような事で貴女を嫌いになるわけがないでしょうに」


「おねえさまぁ~ん」


 見詰め合う2人。

 いったい、何がしたいんだ? 

 こいつらは。

 おっと、失礼しました。


「ん、んー」

 咳払いする。


「あら、お見苦しいところをお見せしましたわね」


 華山広子は居住まいを正すと、俺に微笑みを向けた。


「いえいえ」


「今日は挨拶にお伺いしただけですの」


「はい。私も会えて嬉しく思います」


 俺もにこっ。


「うふふ、貴女たちならば予選は楽に通過してますわよ。

 再来週またお会いしましょうね」

「しましょうね」


 そう言うと、颯爽と去っていった。

 騒々しいGLカップルだったな。

 うちの人畜無害なBLカップルを見習ってほしいよ。


「ねえ、ともか」


 なつきが俺の脇に寄ってきた。

 勘のいいなつきの事だ、気付いたのだろう。


「ああ、知ってる人だ。オッサンともかの」


 以前、俺となつきの夢が同調して、オッサンの俺となつきは会ってしまった。

 おそらく葉月かあの方経由だろう。

 ある程度の事情は話した。が……

 なつきには、こっちの世界のともかの中に、俺が同居しているって事にしてある。

 オッサン相手と、距離を取られたくなかったからだ。


「あのハナコって人はのちの、日ノ出華子さん」


「その人ってスゴいの?」


「うん。

 うちの師匠と仲良しの役者さん。

 ブロードウェイミュージカルの日本公演のヒロインに大抜擢。

 それからずっと舞台やミュージカルで活躍してる人だよ」


「凄いね。

 僕らとそんなに変わらないのにね」


「2つ上だったかな?

 お酌した時に一言二言話したけど、眼光鋭くて威圧感凄かった」


「えー。あの人が……」


 日ノ出さんは俺なんかとは比べられない様な、研磨研鑽を続けてきたのだろう。

 環境と経験はひとりの少女を修羅にも変えるのか。

 

「じゃあ、もうひとりの人もスゴいのかな?」


「さあて、何か見覚えはあるんだよなあ。ハナヤマヒロコだっけ?

 ハナヤマヒロコ、ヒロコ、ヒロ……ヒロミ……博美だ。

 森内博美だ!

 日ノ出さんが福岡で一緒にオーディション荒しやってたって言ってた」


「やっぱり芸能人?」


「数年後、アイドル歌手でデビューする」

「えーーーーーーーっ!」


 まあ鳴かず飛ばずでさらに数年後、バラドルでブレイクするのだが。

 なつきにはバラエティーって単語からの説明になるため割愛しよう。


「何コソコソ2人でやってんのっ!」


 とん吉ヤスコがむくれ顔で寄ってきた。


「いやなに、あの2人相当出来るから、気合い入れていかなきゃって話」


「ほんと?

 何か秘め事の薫りがしたんだけど……」


 ここにも鋭いのがいたよ。


「もう、ヤスコちゃんのエッチ。

 どこでそんな言葉覚えてくんの?

 エロ小説?」


「え? なんの……あ! 秘め事って……やだ、もう、そんなんじゃないよう!」


 ああ、とん吉がこんなにウブだなんて……

 いい世界だ。


「なあ、秘め事って、なに隠してんだ?」

「ぼ、僕知らない!」


「なあ、平川ぁ、教えてやろうか?」 


「さあ、バカやってないで、発表見に行くよっ」


 まあそんなこんなで予選は難なく通過した。



 ーーーーーーーーーーーー



 本選当日は快晴。

 夏真っ盛り。

 取り敢えず、やれる事はやった。

 あとは、いつもと同じ事が出来ればいい。


 楽屋は2、3組で1部屋のようだが、俺らは5人編成なので1部屋もらえた。

 さすがに前回の、大部屋に出場者全員押し込めるのとは、扱いが天と地ほどもある。

 おそらくあのGLカップルが、最大のライバルなのだろう。

 まずは今いる15組から、5組で争う決勝に残らなければ。

 とは言え、俺達は俺達の出来る事をただやるだけなんだけどね。

 よし、荷物も降ろしたし、今日はこっちから挨拶に行くか!


 トントンガチャッ!


 素早いノックと同時に扉が開いて、2人の女子中学生が颯爽と部屋に入ってきた。


「みなさん! ご機嫌いかがかしら?」

「いかがかしら!」


 さすがだな……


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