2. 身の上話

 あたりは白い魔法のもやに包まれている。

 オレンジ色ではないが、間違いなく明晰夢。

 場所はもちろん、江藤なつきんの裏山。

 この景色はこの景色で、もう見慣れた感がある。

 俺、八重洲ともかが酒に酔ってみる明晰夢は、いつもこの風景だ。


 夕焼けのオレンジの世界と違った白いもやの中、

ブルドーザーの脇で俺を待つ少女はなつきではなく……

 なつきと瓜二つの謎の美少女、葉月。

 その人であった。


「うん。何か、ありがとう」

 

 どういたしまして。


「毎回さ、そういうひたり方してくれてたら、

私も話し掛けやすいのよ」


 ああ、俺も白い夢の方に、だいぶ馴れてきたよ。


「じゃあ、夢みるたんびに気取んのやめたら?」


 だからぁ、気取ってないっつーの。

 俺がね、元のまんまの、本当の俺でいられる唯一の場所はねえ。

 最早ここ、夢の中でしか無い訳よ。

 まあ、それでちょっとは、おセンチになってんのはあるかもな。


「ぷふっ、何かあんたさ、自然にこの時代の言葉使うよね」


 え、おセンチ?

 ああ、そうだなぁ、最近使わない言葉だな。

 でも、ブルーって感じでもないし。

 やっぱおセンチがしっくりくるな。


「私も今どきの言葉ってほとんど分かんないのよね。

 ネットとかも全然やんないし」


 へえ、今どきの子にしちゃ珍しい……

 って、やっぱり葉月も俺と同じ世界から来たんだよね?


「今さら?」


 いや、何となくそうだろうな、とは思ってたけど。

 んで、なんで若いのに最近の言葉知らないの?

 ぼっちか? ぼっちなのか? 相談乗ろうか?


「ぼっちじゃないわよ!

 ……いや、ぼっちみたいなもんか。

 でもあんたのとは違うから」


 そうだよな、俺のぼっちセンサーに反応しないしな。


「なによそれ」


 お前もぼっちか? ピピピピピ。


「バカじゃないの」


 うーん、葉月の場合、大人なんだよな。


「え!?」


 少し冷めてる……ちょっと違うな。

 俯瞰ふかんから見てるというか、ちょっと達観して見てるというか。


「……そんなの分かるの?」


 長く役者やってるからな。


「??」


 どんなに演技力があっても、10割全力でやる奴はダメな奴だなあ。

 周りが見えず、独りよがりな表現になる。

 本当にうまい奴は演じながら、1割2割は俯瞰で舞台全体を見てる。


「へえ、そうなんだ」


 もう一人の自分が、上から自分の動きを冷静に見てるって感じ。

 お前も何となく、そんな雰囲気があったんだ。


「………」


 あきらめ、とまでは行かないけど、物事を割り切ってる様な?


「そういう風に見えてた?」


 こっちの世界に来てからかと思ったけど、本質的なとこなのかな?


「あんた、カウンセラーみたいね」


 オッサンなだけさ。

 でも、相談乗ろうか?


「バカじゃないの……

 違うのよ、私ね、もう長いこと入院してんの」


 え!?


「だから、ま、ぼっちみたいなもんね」


 そっか……

 体は大丈夫なのか?


「たぶん……

 手術したとこが最後の記憶なもんで」


 ひょっとして、俺達、もう死んじゃってるってオチじゃないの?


「私もそれを聞いたわ。

 でも違うって、あの方が」


 あの方、か。


「あんたが何で、この世界に呼ばれたかはわからないけど」


 ん?


「私の場合、追体験みたいなもんなのよ」


 追体験?


「私、小学校って高学年はほとんど出てないの。

 だから、なつきくんの小6生活を疑似……ううん。

 共同体験してるの」


 そうなんだ……

 それで、満喫できる?


「ええ。V何とかより凄いわよ。たぶん。

 だって、感情も流れて来るんだから」


 そりゃそうだろうね。 

 魂に直結だもんね。


「一応、あの方の思いやりみたいな物かしら」


 思いやり……ね。


 それにしても、何となく今日、機嫌良くない?


「あんた、夕方、なつきくんに説明したでしょ」


 ああ、遅ればせながら正直に説明したよ。

 ヤスコに不意討ちでキスされたって。

 俺はヤスコを友達としか思ってないってね。


「だから。でしょ」

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