3. ハシタナイデショ……
すっかり春は通り過ぎ、もう6月も終わろうとしている。
最近は暖かいというよりは、暑いと口をつく日が多くなった気がする。
あのオレンジの日まであと半分位、折り返し地点まで後わずか。
しかし依然として俺は、自分の進むべき道を見出だせないままでいる。
が、分からないまでも、愛情や友情を友やなつきに注ぐ事。
今俺が出来るのは、せめてそのくらいしかないだろう。
「ふざけんな!
言いたい事はそれだけか!」
これこれ葉月さん、女の子がそんな汚い言葉遣い。
ハシタナイデショ……
「どっちがはしたないのよ!
女の子が公衆の面前でキスするのは、はしたなくないの!」
ハシタナイデス……
今回のあれも、とん吉ヤスコの奴が酔った勢いで……
「いいえ、あの時2人で嬉々としてやってました。
てか、なに未成年に飲ませてんのよ!」
俺じゃない!
呑ませる訳ないだろ!
あいつがいつの間にか呑んでたんだっ。
潮干狩りに酒持ってきてんのもアイツだし、俺に勧めてきたのもアイツだし。
そもそも酒好きなんだよっ、とん吉は!
「バッカじゃないの!
それはオッサンのとん吉の話でしょ!」
そ、そうだよ……
「そもそもお酒持って来てたのも、あなたの事が好きだからでしょ!」
は、はい……
「全部、あんたが悪いんじゃないの?」
そうなります……
返す言葉もございません。
「ぬぁにが、ダーリン、キスしてえ。
バカ、そんなの、口に出すもんじゃない。
顎クイ、ぶちゅー」
やめてー!
「男共は興奮するし、なつきくんはドン引き」
酔った勢いで、ああいうのはよくあるんだよ!
よく男同士でぶちゅ~っと。
「ドン引きっていうよりさ、胸がね、ズキッてきたんだ……」
うっ………………ごめん。
「結局さ、私って、何にも出来ないのよ。
あんたが調子に乗ってんの、止められないし。
あんたがキスした時、ぶん殴れないし」
……………うん。
「これは、なつきくんの人生なの。
私はただの傍観者。
小判鮫みたく張り付いて、おこぼれ貰ってるだけ……」
……そんなこと、
「あるよ!
どうせ私には、何も無いの!
空っぽの人生に、他人の青春をお情けで分けて貰ってるの!」
そんな訳ないよ。
「どうして?
だって、可哀想にって
お情けで他人の人生に同席させて貰ってるのよ?
無価値なの。
空っぽでなんの価値のない人生を、ただダラダラ送って来てただけ。
意味の無い、無駄な人間だったのよ!」
そんな事あるか!
「!?」
バカな事言うな。
確かに、お前が体験しているのは、なつきの青春だよ。
だからって、お前の生きてきた人生が空っぽな訳ないだろ。
病室で一人っきりで、頑張ってた日々は無駄なのか?
寂しくて、窓の外眺めて、想像を膨らませるのは、全く意味が無いのか?
そんな事はない!
今のお前を形作ったのは、そんな日々があったからだろっ。
憎まれ口叩くけど、芯には優しさのある、
そんな魅力的な個性、そう簡単にはできないぞ!
お前は一生懸命生きてきた。
それだけで、なつきと同じ、いや、それ以上の価値がある。
「……本当?
ほんとに、私は価値、ある?」
当たり前だろ。
お前は病気と闘ってないのか?
「ううん……頑張った……」
痛くなかったか?
「凄く、凄く痛かった……」
嫌になんなかったか?
「嫌だったよ。
ずっと、ずっと嫌だったよ……
何で私だけって、何度もなんども……
でも、仕方ないじゃない」
でも、頑張ったんだろ?
「うん。
辛かったけど、お母さんも、お父さんも、お姉ちゃんも、私を励ましてくれて……
お母さん、お母さんの……」
お前の人生は意味あるじゃないか。
「ううっ、うっ、うっ、うん」
俺はツンデレ大好きだからな。
今の葉月が一番だよ。
「だ、から、ツンデレって……言う、言ううううえぇぇん」
いいか、人生に無駄なんて無いんだ。
あるのは近道や遠回り。
遠回りなんて思わずに、経験積む寄り道だって思えばいい。
腐っちまうと無駄だけど、その無駄も後からすれば、良い経験。
「んふっ、な、何でも、ありじゃん……」
そうだよ、どんなことも経験。
それを多く重ねた人ほど深みが出る。
要は、その事に気付いているかどうかなんだ。
腐ったまんまじゃ無駄のまま……
「じゃあ、あんたは、よっぽど深いね」
ああ、俺は無駄のかたまりだよっ。
うちの劇団の御大に昔言われたんだ。
挫折は諦めた時にする。諦めない限り、永遠にしない。
前向きだろ。
「ぷふっ、学習能力の無い、あんたにピッタリね……」
おいおい、ひでえなあ。
「ありがとね……ともか」
ごめんな、気付いてやれなくて。
お前はまだ、中学生なんだもんな……
「子供扱いするなっ、ブーーッ!」
汚ねえっ!
人の服で鼻噛むなよ!
「どうせ夢なんだから、関係ないでしょ」
ううう、ほんと酷えなぁ。
そんな事、女の子が……
ハシタナイデショ。
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