4. 最後の一手ってのは、賭けになる事が結構多い気がする

 本選の一次を突破した。


 昨日の夜の最後に踊った、その通りに出来た。

 これで駄目なら文句は言えない。

 根本的なところで間違えたということだ。

 つまり、俺のせい。

 5人編成もダンスも選択ミス。

 ソロでブリブリ、ぶりっ子アイドルやってりゃ良かったって事だ。

 などと一人ぶつぶつ呟いてたら、すんなり受かった。

 

 良かったよう……

 生きた心地がしなかったよう……

 みんなに無駄な努力をさせるとこだったよう……


 兎にも角にも決勝まで来たって事は、間違っていなかったって事だ。

 決勝まで来て受からないのは、もう審査員の好みの問題だろう。

 そう、好みのね。

 

 決勝の5組のうち2組は例のGLカップルーー

 華山広子と星月花子だ。


 残りの2組は、田中さんと佐藤さん。

 どちらも可愛くて、歌がじょ……うん、可愛い子。

 実質3組の争いといったとこだろう。

 俺達の親も応援に来てる事だし、気合い入れてやらないと。




 予選会の日の夜、俺は先生と2人で皆の両親を説得しに回ろうとした。

 駅に父ちゃんが迎えに来てたので、今回の事後報告と今後の活動許可をもらう。

 今から家々に説得に行く事を言ったところ、聞いてたみんなも行くと言い出す。


 うちと同じく娘を迎えに来ていたヤスコの両親が説得第一号。

 許可した渡邉、八重州家の車2台で説得遠征へと出発した。

 雛枝も行きたそうにしていたが、

「お前が受からないと意味無いだろう」

 と、迎えに来てたカナツグママに引き渡した。


 説得は大変かと思っていたが、案外問題もなく済んでいく。

 燐光寺の親は女装する事にはそう文句はつけなかったが、

「人を騙すような事はいけない」

 と強く言われた。

 決勝できちんと伝えてからダンスする事を約束した。

 平川の家にも行き、裏方で助けてもらう事、場合によっては出場するかもしれない事、それらの許可を頂いた。


 何だかんだで親たちには、結構手を貸してもらう。

 ステージ衣装はママ達が作り、最初よりいいのが出来た。

 これが凄く助かるのである。

 俺達には同じ振りのダンスしか、出せる演目が無い。

 そこで衣装。

 決勝用にはもう一着用意してもらったのだ。

 

 そう! 衣装でごまかす!


 全員白のスーツで、「女性が男装している」がコンセプト。

 まあぶっちゃけ、どこかの歌劇団のパクリ。

 この格好で、全く同じ振り付けを踊るって寸法だ。

 こっちも有り物&ママさん達のお手製。

 一次で落ちてたら、お蔵入りになっていた。

 ほんと、決勝行けて良かったよう。



 決勝のステージ発表の前に、5組全員観客の前に並んだ。

 自己紹介および自己PRである。



「1番、佐藤のぞみでぇっす。

 16才でぇっす! よろしくお願いしまぁっす」


 う~ん、実にぶりっ子アイドル。

 みんなも見てて、腹立たないのかな?


「に、2番、田中愛子……よ、よろしく、お願いします。

 ああっ! 17才ですっ! すみません! くぅぅ……」


 か、可愛いじゃないか……

 狙ってやってたら天才だな。ま、無いな。

 そして……


「みなさーん! こんにちはー!

 3番! 華山広子、16才です。

 まだまだ未熟者だけど、一生懸命がんばります。

 みなさんに少しでもハッピーを届ける事が出来たら……

 私もすっごくハッピーです! よろしくお願いします!」 


 さすがだな。

 短い中に、元気に明るくハキハキと、途中に溜めまで使ってセンスを見せた。

 こんなのの後だとやりづらいぞ、華子さん、どうする?


「みなさーん! こんにちはー!

 4番! 星月花子、14才ですっ。

 今ハッピー頂いちゃいました~。

 みなさんもハッピーになりましょう。

 よろしくお願いします!」


 上手い。のかなあ?

 上手い気もするが、あくまで2番手でいくのか……

 そんなに、おねえさまが好きなのかなあ。


 さあ、俺達の出番だ。

 俺はみんなの顔を見ると、うん、と頷いた。

 みんなも頷き返す。

 ダッ! と舞台つらの方へ。

 マイクは俺が持つ。

 そうか、ワイヤレスじゃないんだ、何てどうでもいい事を思う。


 さあやるぞ。

 賭けの部分が多いぞ。

 みんなの許可も得ているし、燐光寺の親との約束でもあるぞ。

 俺はぐっとマイクを握り直した。



「みなさん! お伝えしたい事があります!」


 一瞬、「ん?」という空気ができる。


「これは、募集要項に禁止されていませんから、違反ではないはずです。

 が、騙したように思われたくはありませんので、ここでお伝えしようと思ったのです」


 すこし客席がザワザワとしだした。


「私達5人のユニットは、男女混合ユニットです。

 つまり、中に男の子が加わっています!」


 ええええーーーーーっ!

 ドワワワァーーーーッ!

 と客席が驚く。


 誰だ誰だという声が重なる。

 それほどみんな、可愛いのだ。

 俺含む。

 嘘、俺はビキニだから。


「っていうか、私と端の子、ビキニ着てる2人以外。

 3人! 男の子ですっ!」


 ええええええええーーーーーーーーーっ!

 ドゥワワワワワァーーーーッ!


 さっきよりも客席の反応がデカイ。

 キャーーッ的な黄色い声も混じっている。


 俺は審査員席の四谷師匠を見る。

 少し前に身を乗り出している。

 よしっ! 食い付いている。


「私達は、冗談半分ではやっていません!

 それは私達のダンスを見ていただければ分かると信じています。

 どうぞ、よろしくお願いします!」


 ワアアアーーーッと拍手と歓声を受けながら、場内騒然のうちに、俺らは袖中へと引っ込んで行った。


 舞台裏にはスタッフが待ち構えていた。


「ごめんなさい! 騙すつもりはありませんでした。

 決勝まで残るとは、とても思ってなかったので……」


 俺が頭を下げると、みんなも謝った。


「いやいや君の言った通り、男子が駄目だって書いてなかったからね。

 一応、審査員の意見をお伺いして場内にアナウンスするけど、まあ失格は無いよ。

 折角君らが温めた会場が冷めちまうからね。ははははは」


 そう言うとクルッときびすを返し、準備して楽屋待機ね。と去っていった。

 普段でも忙しいであろう舞台関係のスタッフの仕事を、さらに増やしてしまったな。

 後ろ姿を見送って、みんなの方を向く。


「だそうだ。

 楽屋で着替えて、出番までのんびり……」


 バッ! 

 

 と、俺は背後から来る、物凄い圧を感じて振り返った。


 先程までスタッフが立っていたその場所に、眼光鋭い女がひとり、怯える様な少女を付き従えて此方こちらをじっと見詰めていた。

 俺と目が合うと、クイッと口角を上げ形ばかりの笑顔を作る。

 が、燃える眼差しは変わらない。

 いや、変えようとはしていない。


 そう、燃えている、メラメラと音が着くかという程に。

 だがそれは、怒りや憎しみといった類いではなく、挑戦的な光でもない。

 自分自身、おのれに向かって燃えているのだ。

 突如現れた強大なライバルを目の前にして、闘志と情熱で身をうち震わせているのだ。


「さすがだわ……

 隠し玉どころか、手榴弾を放ってよこしたわね」 


「フフフ、切り札ってのは最後に取っておく物ですよ、お姉様」


 華山広子は悠然と構えて啖呵を切る。

 負けずに俺もやり返す。


 向かい合うだけで、クラクラッときそうだ……


「ぷぷうっ、ヤエちゃんそれ、負ける奴のセリフだよう」


「「「あはははははは」」」


 まったくっ。


「お前らっ! 今、折角いい雰囲気醸し出してただろーーっ!」

「本当ですわよーーーーーっ!」


 おねえさまと息が合う。

 思わず、プフッ! と吹き出す。


「華山さん、表現者としてその情熱、尊敬します」

 俺は右手をスッと差し出した。


「フフ、やっぱり貴女あなた、只者じゃないじゃない」

 彼女はその手をそっと握る。


「いえ、こうでもしないと、お二人には太刀打ちできません」


「よく言うわね。でも……」


 と、ぐいっとその手を引っ張られ、左手で後頭部を絡み取られた。


「気に入りましてよ」


 あ、やばいパターン。

 くるん、と体が仰向けにされる。


「ヤエちゃん! ダメえーーっ!」

「いやあーーっ、おねえさまぁーん!」

 とん吉、花子の叫びが虚しく響く。


 ぶちゅ~~~~~っ。


 2人はガックリ……

 周りのみんなは少し慣れたのか、すっかりあきれ顔。

 高ぶりが落ち着いたのか、スックとおねえさまは立ち上がり、


「でも、負けませんわよ。では」

「ま、負けませんからねっっ! ぐすっ……」


 風のように去っていった。

 残されたのは、しりもち状態で放置された俺……

 みんなの目が痛い……

 な、なんだよう。


「俺のせいじゃねーだろっっ!」


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