第七話 人の好みってのは、そうそう変わるもんじゃない。 

1. 最近どうよってオッサン臭い?

 全てがオレンジ一色の濃淡のみで表現されたモノクロの世界。

 秋の夕陽が、ありふれた田舎の風景を幻想的に染めていた。

 これは夢だと分かりながらも、八重洲ともかはこの場所から動けない。

 止まった時間に未来は無いと知りながらも、江藤なつきの微笑み、それさえ見ることが出来れば、心が少し充たされるのだ。


「ごめん、私なんだけど」


 えーーっ! なんでだよう。

 何で葉月なんだよう。


「何でじゃないでしょ!

 あんた、私に会いたくて一杯やって寝たんでしょ」


 いや、そうなんだけどさ、夢の冒頭くらいは浸りたいんだよう。


「冒頭もなにも、辺りはもやで真っ白じゃない」


 乙女じゃねえなあ。

 俺には見えるんだよ、思い募る彼の地が……


「いいおっさんが何言ってんのよ。

 そもそも何でいつも冒頭で気取ってんのよ、気持ち悪いのよ」


 気持ち悪いなんて言うな!

 ほんっと、口悪いな……

 もともと心の声はあんななの!

 気取ってなんかないの!

 大人なの!


「はい、はい。んで、何なの?」


 ったく……

 まあいいや。


 あのさ、なつきの事なんだけどな。

 修学旅行から一週間経つけど、なつきはクラスではどうだった?

 学校以外は変わった様子は無いが、その、2組には俺、顔出しづらいし。


「何よそれ。ヘタレね。

 クラスではいい感じよ。仲良くやってる。」


 あの、帽子盗んだ4人組はどうした?

 あとヘタレじゃない。


「ああ、あの4人はね、次の日のHRで、すぐに前に出てきて謝罪したわ。

 何でも主犯格の子、前からともかちゃんの事、好きだったんだって。

 あははは、どこがいいんだろ、こんなヘタレパイ」


 おい!

 何だよヘタレパイって!


 まったく……

 それじゃあ、俺が元凶みたいじゃないか。


「みたいじゃなくって……」


 うるさい。

 じゃあ、風呂で服を隠したのも、あいつらだったって?


「ん~ん、それは違うって。誰だか分からずじまい。

 なつきくんは、気にしないって」


 あいつはそう言うだろうね。


「過去をあれこれ詮索しないで、これから仲良くしようって」



 くそ~。

 挨拶の最後にあの4人組、みんなの前に土下座させて、なつきにやった事を謝らせたかったんだが。

 みんな混乱しちゃってて、出来なかったんだよな~。



「あんたって本っっ当に、小者よね!

 なつきくんの方がずっと大人じゃない!」


 うぐっ……


「でもまあ今回の件は、あの方も何か上機嫌だったし。

 私も、まあ、ちょっとはスッとした。

 まあ、その……ありがとね」


 おおっっデレか!

 ここに来てデレかあ~。

 なつきの顔でツンデレは反則だよう……


「だからツンデレ言うな! エロ爺ィー!」


 お前にデレがあるという事実を知ってしまった以上、

俺はもはや、どんな悪口雑言にも耐えられる。


「バカじゃないの……」



 それはそうと、これからもなつきの周囲を注意して見ててくれ。

 特にあの4人組。

 俺はまだあいつらを信じてはいない。


「そうね、注意しとく。

 でも私は、なつきくんの見ている範囲でしか気付けないから、やっぱりあんたにも、こっそり影からでも様子を見に来てもらわないと」


 そうだよな……

 よし、明日にでも、2組のみんなに頭下げるよ。

 堂々と顔出せるようにしておこう。


「ん、そっか。あんがとね」


 てへっ。

 大人だしぃ~。


「バカじゃないの」


 でも、ほら、あいつ、帽子盗む時に絡んできた奴。

 なんか見覚えあんだよな……


「ああ、あいつがさっき言ってた主犯格よ。

 たしか珍しい名前の……何かお寺みたいな、神社みたいな」


 やすみだ……燐光寺休。


「ああ、そうそう。

 燐光寺も珍しいし、男の子でヤスミって珍しいじゃない?

 トモカとかナツキなんてのもありますけど」


 そっか。

 男でもやすみなんだ……


「どうしたの? 知り合い?」


 ん? んまあね。


「何よ、その奥歯になにか挟まったような言い方」


 ああ、その、高校生の時のね…………


 彼女だった。



「こ、この、浮気者ーーーーーっ!」

 

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