第2話無課金で必要なのはデイリークエストを必ず終わらす事、これ大事
茂みから聞こえてくる足音に俺のハートは爆発寸前。
なろう小説ならゴブリンに襲われてお嫁に行けない体にされてしまうパターンだ!いやそれだとノクターンか。
そんな馬鹿な事を考えていても体は勝手にショートソードを腰から抜き放つ。
よく考えたらこの体はドラゴンファンタジアで戦いを積んだ歴戦の戦士だ。もしかしたら勝手に勝てるかも知れない。
そんな希望を持ちながら茂みから何が出てくるのか体を震わせながら警戒する。
ジルア・オシトとして初の異世界バトルだ!
「グゥオオオオォン⁈」
………プッシャァァァァア!………
…拝啓。父さん、母さん。貴方達の息子は異世界に行って幼女になって大熊に食べられそうです。
「ぐずっ、ぐずっ…ふえええ」
「じょ嬢ちゃん、本当に悪かったって。な、そろそろ泣くのはやめてくれよ」
「な、泣いてなんかないもん…ずぴぴぴ」
「あんたの顔を一人で森の中で見たらそりゃ大人でも泣くからね。仕方がないさ。」
「泣いてないもん!ずぴぴぴ」
熊男の背中で涙目で鼻をすするレジェンドエルフ。
それが俺です。
いやね、仕方ないじゃん!茂みから3m近い大熊が鎧を纏って手には大きな斧だよ⁈しかも吠えたんだよ?泣いちゃっても仕方がないじゃん。
「それにしても何でこんな所にエルフの子供が居たんだ?それも一人で?」
大熊の獣人族のカスパルさん。
俺が大泣きして座り込んでいるのを間近で見て、オロオロとその場でコサックダンスを踊り出したいい人だ。
初対面の人は逃げそうだけど。
「分からないわ?この辺にエルフなんて住んでないはずだし旅の途中で逸れたのかもね?」
カスパルの後に茂みから出てきてコサックダンスを踊る大熊に強烈な右フックを放ちKOさせた人間?の女性のクレアさん。
今は俺の…パンツを乾かしながら一緒に街に戻る途中だ。
「このパンツも良い生地使ってるからきっと良い所のお嬢さんだと思うのよね…漏らしたけど」
「そうだな手足も傷なんか全然無かったし貴族とかかも知れんな…漏らしたけど」
「漏らした漏らしたゆーな!大熊に食べられるかと思ったんだぞ?」
ギャーギャーと怒る俺を笑いながら見ているカスパルさんとクレアさん………仕方がないじゃん。
目の前が大熊だよ?小さな女の子の体だよ?漏れたって仕方がないじゃん!
「あれは漏れたというより、噴き出し「それ以上言うなーこの変態熊!」
大熊の言葉を遮り、大熊の頭を揺らす俺。
この世界に来て何でこんな目に遭わないといけないんだ。
また涙が溢れそうになる。子供のお股は衝撃に弱いんだからな!
「レディを虐めるなんて酷い熊よね。それでレディ、貴方の名前は何ていうのかしら?」
クレアさんが遂に俺の名前を聞いてくる!…まぁそれまで俺はずっとぐずっていたからなぁ…
「俺の名前はジルア・オシト。15歳。レジェンドエルフの魔法騎士だ」
嘘を言わずに本当の事を言う。
流石に異世界転移の事は話せないが今の俺の状況をこれ以上悪くしたくはない。
「15歳だって⁈その割にえらく小せえなぁ」
熊が横から口を出すがそれは思っても言うなと言いたい。
確かに小さいんだよな俺。多分130cmを越す程度しかないんだ。
しかもどこもかしこもぺったんこ。
スタイルがスレンダーで良いと言えば良いのか、まな板と言われるのがオチなのか悩む所だ。
「苗字持ち!やはりこの子エルフでも上位の子よ!…レジェンドエルフという名は聞いたことがないけど。後俺とか言っちゃ駄目。」
クレアさんは驚いているが驚きながらパンツを振り回すのはやめてもらいたい。もう乾いたんじゃね?…俺よばりは駄目かぁ。
そうだよな。こんな小さいエルフの子が俺とか目立つよな。気をつけよう。
「分かった。俺は出来るだけ使わないように気をつける。」
そう言うとクレアさんは頭を撫でてくる。
子供扱いすんな!後そのパンツ返せ!
パンツを取り返し履いたところで自分で歩くことにする。
クレアさんが手を握って離さないが俺を逃がさない為であろう。
赤い顔でニマニマしてるがきっとそうだ、そうに違いない!カルパスさんは俺の歩幅に合わせてゆっくりと歩いてくれる。
熊なのにダンディだな。
しばらくすると森から出ることが出来た。
目の前には石造りの城壁が長く伸びているのが分かる。
そして俺たちの進む道の先に大きな門がそびえ立つのがここからでもはっきりと見える。
「これぞファンタジー…」
今の俺にはそれしか口にすることが出来なかった。
放心する俺をいつの間にかクレアさんが抱っこするようにして俺を抱えていた。
「クレアさん?」
急に真面目な顔になって俺を見ているクレアさんに困惑する俺。
そんな俺を見てにっこりと笑い
「このままだと帰るのが遅くなっちゃうからね。少し急ぎましょう」
そう言ってクレアさんは門に向けて突撃を開始した!
「あばばばばばばば⁈」
風が壁になったかのように風圧に押される俺。
息をするのも難しい。
周りの景色が飛ぶように消えていくのを感じながら俺の意識は消えていく。
「クレア。はしゃぎ過ぎだろ?また漏らしても知らんぞ」
カスパルさんの呆れたような声だけかくっきりと聞こえた…
気がつくと門の前にいた。
何を言っているのか自分にもよく分からない。
人々が行き来する門の前で俺は意識を取り戻した。
「今回は漏らさなかったようだな。偉いぞ」
カスパルさんが頭を撫でてくるがその手を叩いてやる!
「ふざけんな!意識が飛んだわ!」
そんな俺達をケラケラと笑いながら見ているクレアさん。あんたが犯人じゃないか!
「それじゃ中に入りますか」
クレアがそう言って中に入ろうとするが俺は重大な事を思い出す。
「お、私身分を証明出来る物やお金なんて持ってない」
当たり前のことだがこの世界に来たのは初めての事だ。
なにもかも知らない事だらけである。急に周りの人が怖くなりこの街すらも怖くなっていく…
「大丈夫よ、安心なさい。ジルアは私が命に代えても守ってあげるから」
親指を立てこちらにそれを見せるクレアさんを見ると泣きたくなる…てかもう泣いてた。
目から溢れる涙をカスパルさんが優しく拭ってくれる…熊の手は料理にあったな。
そんな馬鹿な事を考えながらカスパルさんの手を握る。
「身分証をお願いします」
門の前に立つ警備の人がこちらに聞いてくる。
カスパルさんとクレアさんは胸元から板のような物をとりだしてそれを見せる。警備の人はそれを確認して通そうするが俺を見て怪訝な顔をしながら引き止める。
「そこのお嬢さんはどうしたんですか?」
警備の人の質問にクレアさんは俯きながら目にハンカチを当てている。
「この子は…森の中で一人っきりで歩いていて…周りには誰もいなくて…」
途切れ途切れの嗚咽混じりの声に警備の人も涙を浮かべながらこちらを見ている。
「そんな状態だったのにこの子は必死に笑顔を…「分かりました。このまま通ってもらって結構です!入場税もいりません!」
遂には泣き出した警備の人達が俺を見ながら泣いている…お菓子や果物まで渡されたぞ?
「「頑張って生きるんだぞ!」」
涙を流しながら俺達を見送る警備の人達を後に俺達は街の中に入ることが出来た。
………何だこれ?………
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