第55話デッキで遊ぶソシャゲはバランスが難しそうだね。デジタルだからすぐ訂正出来るけど
気絶したドワーフをシロが殴って起こすというハプニングがあったものの、どうやら俺の話を聞かなかった事にしたドワーフは神鋼でトンファーを作ってくれる事を快諾してくれた。
隣のシロの廃材を使ったトンファー捌きを見て、作ってくれる話が進んだかも知れないがそれはそれだ。
「トンファーっていうこの武器は鍛造で作るから少し時間をもらうぞ? 後、金額は金貨10枚でいい。久し振りに神鋼で武器が打てるからな…燃料費ぐらいで構わん。それと儂の名前はバニスだ。今度から名前で呼べ」
シロの体を確認しながら無愛想な顔で話してくれるバニスだが、どうやら神鋼で武器を作った事があるみたいだ。
あまり詮索するとお互いに問題も出そうだし、後はセシルの武器を見繕って帰るとしよう。
「ジルアちゃん。私の武器はこれでいいけど貴女はどうするの? その武器もう使えないんでしょ? 」
何本か短剣を選んだセシルが 不安そうにこちらを見てくる。
確かにここにある武器は良い物が揃っているが、前に使っていたショートソードに比べると明らかに格が落ちてしまう。
シロのように神鋼で作ってもらうという考えもあるにはあったが、手元に良い物があるしそれで代用するつもりだ。
「前にドロップした武器を使うから問題ないよ。丁度ショートソードもあったし、慣れればそれなり使えるはずだよ」
そう言って【イベントリ】から世界の守護者から頂いた?『聖剣』を取り出してみる。
いつの間にか鞘に納められたショートソードを抜いて刀身を見てみる。
持ち手あたりに細かな細工はされているが宝石や貴金属などが使われていない為、美術品としてよりも実戦を重視した物なのだろうか?
刀身の中央部には溝のような凹みがあり、試しに振ってみると軽やかな音がする。
日本刀にある血流しという部分に似ているなと思いながらも振り続けてみるが、かなり重心バランスが自分に合うのか前の剣と遜色無い使い方を軽々と出来た。
「お前! そりゃ『聖剣』じゃねえか! お前さん勇者だったのかよ? 」
奥にいたバニスが何処から嗅ぎつけたのか俺の持つ聖剣に釘付けになる。
「こりゃかなり前の形の聖剣だな。装飾の形からして3代目辺りの聖剣か? かなり前の作品だが出来は良いな。ジルア…だっけ? 聖剣に魔力を送ってみろ。それである程度の能力が分かるはずだ」
俺の目の前で聖剣を色々な角度で見ていたバニスからの説明に、出来るだけ少な目に魔力を注いでみる。
そういや【魔力制御】と【魔力操作】はまだLv1だったな? 本当に何時になったらお漏らしは終わるのやら……
軽く注いだ魔力に反応して、緑の光を輝かせながら聖剣が震え出す。
大丈夫だよねこれ? いきなり爆発とか勘弁して欲しいよ?
緑の光が刀身に集まると、聖剣の震えは収まりその輝きも落ち着いてくる。
「どうやら切断強化系の能力みたいだな。その聖剣なら他の聖剣にも切れ味は負けないはずだ。他にも能力があるかも知れんが聖剣に認められないとそういった能力は現れないからな」
成る程、普通に使えば切れ味の良い剣で聖剣に認められたら更なる力が発揮されるのか…じゃあ、もうちょっと魔力を流してみよう。
聖剣がどうしたら認めてくれるか分からないので魔力による力技で試してみる。
送る魔力を上げていくと落ち着いていた光がもう一度輝き始め、聖剣自体が震え出す。
そこから更に魔力を送ると光は辺りに乱れ飛んで、まるで何処かのディスコのミラーボールようになってくる。
震えは更に大きくなり、持つことすら厳しくなるが、これが聖剣の抵抗かと思うと少し腹が立ったのでそこから魔力を更に上げていく。
すると聖剣の振動が光に移るかのように光が波動を放ち始め、遂には緑の光の波動を放つ聖剣となる。
「こりゃ……その剣の能力は『分解』だな。お前さんが敵だと思う相手にその光をぶつけたら多分、えらいことになるぞ…」
意味がよく分からないので、適当な廃材を敵だと認識してから廃材を切ろうとする。
しかし聖剣は切るどころか、その物体自体を砂塵へと変えてしまう!
「はぁあ? 」
思わず変な声を出してしまうが仕方がない。
剣を振った感触しかないのに目標が消えて無くなった状況に、俺の思考回路も思わずフリーズしちゃったよ…
「分かったか? その剣がかなりヤバイって事が。分かったならさっさと発動を止めやがれ。そんなの振り回されたらこの家が無くなっちまう」
バニスの言葉に頷きながらも、こんな武器をバカスカ撃ってきた世界の守護者に今更ながら恐怖を覚える…今度会う時は出鼻から全開で行こう。
神鋼の加工で一週間ほど製作に時間が掛かるという事なので、一週間後に取りにくる事にする。
バニスにセシルの武器の代金の金貨5枚を渡し、市場で食材を買い漁りながら歩いているが何故か店の人からのおまけが付いてくる。
「何だか、どの店もおまけを付けてくれるから嬉しいけど私何かしたっけ?」
「さぁ? シロはほとんどご主人と一緒に行動してますけど特に変わった事はしてない気がしますけどね」
シロに聞いても答えが分からないのでセシルの方を見てみるが、にっこりと微笑むだけで要領を得ない。
「あ、あの! すいませんジルア様」
いきなり声を掛けられて多少の動揺をするが顔には出さないようにして声を掛けられた方向を見てみると、そこには赤子を抱いた女性がいた。
「宜しければ、この子に祝福を頂けませんか? 」
なんか潤んだ目でそんな事を言われても返答に困るのだが、セシルがそっと俺の後ろに立って小声で理由を教えてくれた。
「エルフは長寿だからエルフから祝福を貰うと長生き出来るって昔から言われているのよ。良かったらしてあげなさいな」
そんな話を聞いてしまうと、しないなんて言えないよ…
「分かりました。私で良ければしましょう」
そう言うと何故か女性が泣き出してしまう…どうしてよ?
「うぅ…これで夫の分も長生きしてくれるかと思うと、つい…」
女性が涙を拭きながら話してくれるがその言葉は俺の心に突き刺さる。
「旦那さんは…」
それ以上言葉に出来ない俺に、泣きそうになる赤子をあやしながら女性が泣き笑いの状態で話してくれる。
「主人はこの間の大氾濫の時に兵士として戦って亡くなりました。ですが伯爵様や周りの人達に助けられ、何とか頑張って生活しています」
こんな所にもあの大氾濫の爪痕が残っているのを知ると、落ち込んでしまいそうになるが女性から赤子を借りて抱きかかえる。
「あなたのお父さんはあなたを守る為に頑張ったんだよ。あなたがこれから生きていく事がお父さんの残してくれた願いだと私は思っている。だから『精霊達よ。この子の未来に祝福を』お願い」
私の言葉に周りから光が集まり出し、赤子の周りに集まると星のように輝き始める。その輝きはやがて空に昇っていき、ほとんど空の彼方へと消えていく…
周りの人が唖然とする中、赤子が俺の顔に触れてくる。
赤子の手の温かさに俺は驚くものの、この子が幸せでありますようにと天に祈るのだった……神敵だから神様に祈れないしね。
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