第42話大当たりを引いたガチャの後は満足感が凄いですよね? そして来月もそれを求めるようになってしまうんです

「済まなかったな。いらない横槍を入れさせてしまって…今回の件であいつらにはいい薬になったし、遠ざけるいい機会にもなりそうだ。感謝する」


 再度、座ったまま頭を下げるタバサ。


 俺はすぐに頭を上げるように言い、こちらも頭を下げる。


「不躾な言い方、誠に申し訳ありません。ですがこれは必要だと感じたからこその行為。謝りはしますが、反省するつもりはありません」


 きっぱりと言い切る俺にタバサは大笑いする。


「流石はエルフという訳ですな。ではこれからセシルとトリフの処遇について話を進めましょうか」


 え? セシルは兎も角トリフ男爵に何で俺が口を出さないといけないの ? そんな気持ちが通じたのかタバサが説明してくれた。


「トリフ男爵が地位を返却し、この国を去ると言って聞かなくてね。元々、真面目な奴だから今回の件は奴にとって耐えきれない事だったようだ。良ければ助けてくれないかな? 」


 気さくになったタバサの言葉に少し考える俺、まぁ家族を人質に取られたとは言え、やった事は悪事の助けとなるか…また口八丁になるが助けないとあの子達も可哀想だしな…


「トリフ男爵を呼んでさえ頂ければ、撤回させる事はやぶさかではないのですが…」


 一応、言葉を濁して話してみると喜んだ顔でこちらを見てくる !


「そうか! それは良かった! 丁度男爵は別室にいてな、ジルア殿に謝りたいと言って来ているのだ。頼むからあいつが残るように誘導して欲しい。では呼んでくる! 」


 俺の返事も待たずに部屋を出て行くタバサ…これ嵌められたかな? 」


「大丈夫なのかジルア ? トリフ男爵はとても頑固だぞ? 」


 カルパスが心配してそばに来て小声で聞いてくる。


 クレアも心配そうなので笑って二人に答えてあげる…シロは当然のような顔だし、毛玉は寝てるけどな!


「多分大丈夫。家族思いのいい人だからそこを上手く突くよ」







 俺の言葉が終わると同時にタバサともう一人男性が入ってくる…目茶苦茶早いな!隣にでもいたのか?


「この度は我妻ローラ、並びにリードとエレンを助けて頂き感謝の言葉しかありません。不忠な私にとって我が家族の無事だけが今回あった事件で一番の好事。これ以降は田舎に戻り一般人として生きていきたいと思っています」


 あのねぇ…いきなり幼女の前で土下座する男爵ってどうすれば良いのかな ? まぁ作戦通りやってみよう…




 俺は横を向き頰を膨らませ無視をする。




 シロとカルパスは噴き出しそうになっていたから後でお小言だ。


 クレアさんは顔を赤らめてハァハァ言わないで!


 トリフ男爵とタバサ伯爵は急に俺が態度を変えた事で躊躇しているようだ。


「あ、あの何かご機嫌を損ねる事を私はしましたか? 」


 恐る恐る聞いてくる男爵に俺は小声で呟く…


「情けない…」


「は? 」


「情けないと言ったのです、この軟弱者! 」


 聞き返して来た男爵に俺は扇子で机を叩き大声を上げる…毛玉は服従のポーズはもういいから寝てなさい。


「あれ程の思いをして、それでも貴方を助けるために頑張ってきたあの人達がこれでは報われません! 」


 俺はそう言って男爵の顎を持ち上げる。


「男爵夫人は貴方と家族の為に、悪党に囚われようと貴族としての振る舞いを忘れず、子供達を守ろうと必死に頑張っておいででした。

 リードくんは震えながらも妹を抱きしめ、家族を守るんだと歯を食いしばって勇気を振り絞っていました。

 エレンちゃんは泣きそうになりながらも必死に耐え、諦める事を絶対にしませんでした。

 なのに、なぜ貴方は自分のした事を後悔し、家族を助ける為にした事を罪と捉えようとするのですか! 」


 いつの間にか自分の頰からも涙が出ていた…そう言えば涙も体液だったなと思いながらトリフ男爵に最後まで自分と思いを告げる。


「家族を守れたのだから誇りなさい !悪い事をしたと思うならそれ以上に仕事をこなして人々に奉仕しなさい ! それが高貴なるものの勤めです!」


 それだけ言うと俺は席に座り横を向き、頰を膨らませる。


「それが出来ると言うまで私は貴方を許しません」


 それ以上は言う事が無いので黙って経緯を見守る…







「私は伯爵様の元でもう一度仕事をしてもよろしいのでしょうか? 」


 懺悔にも聞こえる言葉が静かな部屋に響き渡る。


 伯爵が何か言おうとする前に、俺は無茶を承知で言葉にする。


「今回の件は『男爵家の家族を救出』する為に、タバサ伯爵とトリフ男爵で囮作戦をしただけの事です。貴方は伯爵の命令でブヒル達の言いなりになった『ふり』をしていただけの事…そうですわよね? 伯爵様」


 俺は口元を扇子で隠し、タバサ伯爵に視線を向ける。


 部屋の中のみんなが驚き、タバサ伯爵に視線を向ける。


 伯爵は平然とした態度で俺を見つめ、そして…豪快に笑う!


「はははははは ! そうとも!『私』がトリフ男爵家を守る為にジゼル殿を雇い、そしてトリフ男爵に言いなりになるふりをさせたのだ ! これでいいかな ? ジゼル殿? 」


 伯爵の心意気に俺は席を立ち、カーテシーをして伯爵に告げる。


「伯爵様の誇りの高さに敬服致しますわ…私の無作法をお許しください」


 そう言ってその姿のまま、伯爵の言葉を待つ。




「頭を上げてください、エルフの姫よ。私はもう少しで有能なる男爵を失う所でした。貴女の言葉が無ければ私は大切な部下と誇りを失う所でした。心から感謝を」


 そう言って俺の右手を取り、その手の甲に軽くキスをする!


 あ、あかん…何しとるやこの伯爵!そういうのは王女や偉い人の娘にするもんでしょうが!


 何で周りも拍手してるんだ ⁈ おかしいだろ? 何がどうしてこうなった!




「よかった、本当に良かった。トリフがいなくなれば私がみんなに責められるからな。今回の件はここにいる皆内密の話としてくれ」


 その言葉に部屋にいる一同が頭を下げる。




 ソファーに体を預け、トリフとタバサを大きな溜め息をついている。


「これでトリフ男爵の件は円満に終わりそうだ…問題はもう一つ盗賊ギルドの件なのだが …」


「それに関しても今の件と合わせて盗賊ギルド自体には責を問わない方が良いと考えます…ただ副団長が実行犯なのは事実なので…」


 苦しそうにトリフが話を進める…この人やっぱり仕事は出来るだなと感心していると同時に口を出さないと行けない場面だと直感する。


「セシルの命だけは助けて頂きたいものです。それが私への『報酬』と考えて頂いて結構です」


 驚く二人を見ながら俺は考える。


 正直お金などの報酬よりセシルの命の方が大事である。


 転生者であり世界の守護者にも詳しく、何より俺の情報を持っているからだ。


 出来れば部下として欲しいぐらいだが…くれるかな?


「成る程…実はセシル自身の処遇はもう決まっているのだ。あ奴からの嘆願でな、それをジゼル殿が呑んでくれればあとは問題ないのだが…」


 そう言って俺を見る伯爵。


 あいつ何を言ったんだ? 俺の部下になるとでも言ったんなら好都合だが…


「条件とは?」


 俺が聞き返すと伯爵は言いにくそうに言ってきた。


「実は…セシルがジルア殿の奴隷になると言い出してな…どうやら今回の件でジルア殿になら全てを任せられると言って聞かないのだよ」


「「「はぁ ⁈ 」」」


 俺とクレアとシロの声が重なる!


 クレアとシロは口を押さえ謝罪するが、俺はその言葉を聞いて歯軋りの音を立てそうになる!


 やられた!多分あいつは自分が世界の守護者に狙われた時からこれを考えたはずだ! 俺を盾にでもするつもりで最後に助言するように頼みやがったんだ!


 セシルに文句が言いたいのでセシルを呼ぶように伯爵に頼むと、既にこの屋敷にいるようなので呼んでもらった。


「セシルです。入らせて頂きますね」


 ノックの後に聞こえた女性の声に俺は違和感を覚える。


 そして入ってくる人物を見て言葉を失ってしまう…









 エルフの姿をした、長身で褐色の肌を持つ女性がこちらを見て微笑んでいる。




 セシルがダークエルフ…これどうなっているの?






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る